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軍師の心情 ~曹操の軍師たち~  作者: 西本夏
4.潁川平定
61/64

61:<郭嘉編>初めての感情

曹操と合流し、賊徒討伐へ。その合間のお話です。

 劉仲永が話がある、と言ってきたのはその日の夜だった。

 慌ててやってきた獄吏について牢獄へと降り、郭嘉は彼を尋問用の部屋へと追いやって、自身はその部屋の端に置かれた椅子に座った。

 部屋には拷問の道具が一通りそろっている。両手を縛られた状態で部屋の奥に追いやられた劉仲永は、怪訝そうに部屋を見回して首をかしげた。

「私は、すべて申し上げると言ったつもりですが」

「尋問にはここが一番ちょうどいいってだけだ。書記官が地図と竹簡広げる余地もあるし――」

 郭嘉は脇の机の上に控える書記官にちらと目を向けた。そこには地図と、筆記用の竹簡が置かれている。

「お前がおかしなことしたら、痛めつけることもできる」

 郭嘉が椅子に座ってにやりと笑うと、劉仲永はまたあの食えない笑みを浮かべ、肩をすくめた。

「恐ろしい方だ」

「じゃ、まずは劉辟の本拠地から」

「その前に、一つ申し上げておきます。私は(こちら)に来てから一度も里には戻っておりません。すなわち、私の持っている情報はおよそ一年ほど前の記憶と、伯父や他の者たちから聞いた情報にすぎません。後で違っていたと処罰を受けるのはご容赦願いたい」

「さっそく言い訳かよ」

「荀軍師は、私が城下で伯父――劉辟と会っていたことも把握しておられた。おそらく、本拠地などはとうに掴んでおられると思いますが」

「俺は聞いてない」

 即座に言い返すと、劉仲永は不満そうにしながら口を開いた。

「それでは、――」

 劉辟の本拠地と、いくつかの拠点。どこにどの程度の兵がいて、貯えがあるのはどのあたりか。聞いていると、拠点のほとんどは汝南にあるようだった。一番近い拠点でも、汝南との境すぐそばだ。

 また、彼は劉辟陣営と袁術の関係も語った。かなり前から協定を結んでいるようで、曹操を袁術から遠ざける代わりに、汝南での略奪を黙認されているという。

 ――そういや袁術、一回殿に負けてるよな。木っ端みじんにやられて、殿が怖い、ってことか? にしたって、賊徒の略奪認めるなんて……。

 ただ、これは使えるかもしれない。そもそも袁術は曹操と戦うことに怯えているということだ。袁術軍は数は多いとはいえ、大した武将がいるとも聞かない。今江東を荒らしまわっている孫策とやらは、多分やろうと思えば袁術から切り離せるだろう。

「伯父を懐柔したければ簡単ですよ。利で釣ればいいのです。一度戦で木っ端みじんに打ち破ってから、少し利をちらつかせれば簡単に落ちるでしょう。あえて説得などする必要もない」

 淡々と、完全な他人事のように劉仲永は言った。

「で? お前はどうしたいんだ? 文若殿は素直に吐いたら獄から出してやれって言ってただけど」

「私はこのままで構いません。下手に獄から出れば追手がかかる可能性もないとは言えませんから。伯父は影を使っているはずですので。それより、私がお願いしたいのは伯父の命を助けてほしいということです」

 荀彧の言ったとおりの言葉に、郭嘉は少し驚いていた。

「あれだけ悪し様に言っといて、まだ劉辟を助けたいって?」

「伯父は、突然金と権力を手に入れて、人が変わってしまった。それは確かです。ですが、私を救ってくれた伯父には違いないのも、私にとっては大きなことです。財貨を失えば、再び世のためという気持ちも取り戻してくれるかもしれません。何より、伯父から受けた恩をなかったことにはできませんので」

「戦の最中だと、保証はできないな」

「彼我の力の差があれば、不可能ではないでしょう。どうか、お願いいたします。私は伯父の命を救うためなら何でも致します」

 劉仲永はその場で膝をつき、平伏した。

「……その言葉、忘れるなよ」

 郭嘉の言葉に、劉仲永はありがとうございます、と言った。




 曹操が到着した日、郭嘉は体調を戻し、素知らぬ顔で皆と一緒に曹操を出迎えた。倒れたと曹操に知られるのは避けたかった。

 倒れた原因に思い当たる節が、と言えば、いくつかある。まずいつもなら数日に一回休みの日を取っていたのに、ぶっ続けてひと月近く馬に乗りっぱなしだったことと、その前に荀彧にこき使われて疲れていたこともあるだろう。何より、陳留で程昱から曹洪の苦戦を聞き、地図を睨みながらどうしたらいいか、を考えて夜更かししていたことだ。

 要は無理さえしなければ問題ない。

 倒れたのがばれてまた軍務から外されでもしたら、それこそ夜更かしをした意味がない。

 そう思っていたのだが。

「奉孝」

 帰ってきて一通りのことが終わった後、曹操が郭嘉を見て大仰にため息をついた。

「お前、また倒れたらしいな」

「えっ、な、なんでご存じなんですか」

「わたしがご報告しました」

 荀彧がさらりと言う。当たり前ではありませんか、とあきれ顔で言われ、郭嘉は口止めしなかったことを後悔した。

「まったく、お前は何せ体が弱いのがいかん。後で軍医の診察を受けろ。二度と倒れることなどないようにだ」

「ど、努力します」

「汝南の賊徒討伐はどうする。同行できるのか?」

「行きます! もちろん」

「では、政務が終わり次第出立だ。数日はかかるだろうから、お前はその間に軍医の診察を受けろ。まったく、奴の弟子どもは何をしていたのだ」

「いえ、どっちかっていうと俺が無茶したからで」

「ならば休め。己の限界くらいわからんでどうする。それで、元譲。軍の再編だ。明日の朝までに決めろ」

「わかった」

「次、文若。政務の報告を」

「はい、それでは――」

 荀彧が報告を始める。郭嘉は結局それが終わるまで他の幕僚たちと同席し、日暮れになってから軍医の元へと向かった。

 軍医は郭嘉の顔を見るなりため息をつくと、そこからまず脈の確認を始めた。

 手を取り、いくつか質問される。食事は、睡眠は、といういつもの問答が終わると、軍医は眉根を寄せて薬箱をあさり始めた。

「今のところ、脈に異常はありません。ただ、二度も発作を起こしたとなると、このままではいけないと思いますので、薬を変えます」

「苦くないのがいいなー」

「苦いです。あきらめてください。死ぬよりましでしょう」

 即座に返されて、郭嘉は苦笑いするしかなかった。

「どういう薬? 今までのも、俺、よくわからず飲んでたんだけど」

「今までのものは、処方からするに虚弱体質の改善が主でしたね。そちらを少し減らして、心の臓の薬を加えます。あとは発作を起こしたときの薬も処方しますから、それは常に持ち歩いてください。次に発作を起こしたらすぐに飲めるように。常薬は後ほど処方してお持ちします。とりあえず、発作を起こしたときのための丸薬を」

 郭嘉は受け取った小さな入れ物を開き、中を見てみた。黒っぽい、豆粒よりも小さな丸薬がいくつか入っている。

「結構小さい薬なんだな」

「ですが、とても強い薬です。発作を起こしたら一つ飲んでください。うまくすれば心の臓が再び動きます」

「う、うまくしたら?」

「薬は万能ではありませんから、効かずに死ぬということもあり得ます。まあ、師の処方は完璧です。おそらく効くとは思いますが」

 効かずに死ぬ、という言葉が思いのほか郭嘉には衝撃が大きかった。今までなんとなく胸が苦しくて気を失っていたくらいのつもりだったので、それが命にかかわるものだと考えたことはなかった。

「え、俺が急に苦しくなって倒れるのって、下手したら死ぬってこと?」

 問うと、軍医は何を今更とばかり、呆れたように言った。

「発作はおそらく一時的に心の臓が止まることで起こっているものと思われます。すなわち、それが長引けば死ぬこともあり得ます。案外短い時間で人は死にますよ。発作を起こしてそのまま心の臓が止まったままであれば一刻程で死ぬ可能性もあります」

「え……」

 軍医の言葉は郭嘉には思いもよらないものだった。気を失って、いつも目覚めたらしばらく経っているのが当たり前だった。だから、それが命に関わるなど考えたこともなかった。

「……俺、なんで生きてんの?」

「おそらく、発作が軽いもので、一時的に心の臓が止まっただけで再び動き出しているからでしょう。以前、発作直後に脈を取った時は乱れておられました。今はそう感じませんので、おそらく何かきっかけがあって一時的に心の臓に負担がかかって起こっているのではと思います。共通点はいくつかありますよね? 疲労の蓄積、睡眠時間が短い、それに加えて戦でなどでの心理的な負担。このあたりが要因でしょう。お年寄りでしたら、心労だけで心の臓の発作で亡くなることも珍しくありませんし」

 言われてみると、そういった話は聞いたことがあった。ただ、自分には縁のない話だとばかり思っていたけれども。

 半ば呆然と手元の丸薬を見つめていると、医師は淡々と言った。

「とにかく、休息を欠かさないことです。食事はしっかりとって夜はしっかり眠る。戦に出るなというのは郭軍師には難しいことかもしれませんが、前線には出ないようにして心の臓に負担をかけないようにされたほうがよろしいかと」

「あー、うん、それは。俺はどうせ戦えないから、大抵後ろだし」

 それは、いいんだけど。

 口の中でつぶやきながら、手の中の丸薬の入れ物をもてあそぶ。

 こんな小さな薬が自分の命を左右するかもしれないという。人の体というのは不思議なものだ。次々色んな事が頭をよぎるが、それ以上に心を占めていたのは、急に沸き起こった恐怖だった。

「郭軍師?」

 軍医が怪訝そうに顔を覗き込んでくる。それに意識を引き戻され、郭嘉は席を立った。

「いや、大丈夫。ちょっとぼうっとしてた」

「どこか具合の悪いところでも」

「いやいや、そんなんじゃないよ。なんだよ、妙に心配するんだな。いつも淡々としてるのに」

「医師として、冷静であることは大事です。ですが、郭軍師に何かあれば我らの首が飛びかねません。心配もしますよ」

 冗談とも本気とも取れるような軽い口調だ。郭嘉は笑って肩をすくめ、ひらひら手を振って彼に背を向けた。

「そんなことしないでって殿に言っとくよ」

 室を出て、回廊をしばらく歩くと、今度は静が顔を覗き込んできた。振り返ると、静が手を差し出してくる。

「その薬、半分ほど私が預かりましょうか? 発作が起こったらとっさに飲めないこともあるでしょう。もし奉孝様が自分で飲めないようなら、私が」

「……あー、うん。そうだな。部屋に着いたら分けるか」

 静に丸薬を渡すと、かしこまりました、と返事が返ってくる。しかし、それを受け取っても静は探るようにじっと郭嘉を見つめていた。

「なんだよ。なんか言いたいことでもあるのか?」

「いえ、顔色が悪いので。本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。体は問題ない。いや、問題ないのかわかんないけど……」

 郭嘉は軽く頭を掻いてから、今はいたって穏やかな己の胸に手をあてた。

「……なんかさ、子供のころからどうせすぐ死ぬって言われてきて、こんなの慣れてたつもりだったんだ。どうせ死ぬなら生きてる間に好きなだけ好きなことしたいくらいにしか考えてなかった。けど、不思議なもんだな。ああやって、次発作起こしたら死ぬかもとか言われると……」

 郭嘉は言うべきか迷って己の襟を掴んだ。

「俺、死にたくないって、はっきり思った」

 子供のころからいつかその日は来ると思っていたはずだった。別に死ぬことなんてどうでもいいと思っていた気がする。それなのに、今はなぜか感じ方が全然違う。

 まだ死にたくない。

 ここまではっきりと感じたのは初めてのような気がした。




 曹操と酒を飲むのは久しぶりだった。

 合流したその日の夜、軽い宴会が開かれた後、夏侯惇は曹操の私室で二人、久々に酒を飲んでいた。

 雍丘で張邈の親族を皆殺しにしたという報を聞いてから多少心配していたのだが、思ったよりもずっと曹操は落ち着いていた。

 雍丘での攻めも、そこまで苛烈なものではなかったらしい。張邈の親族は首を刎ねられ晒されたというが、それも八つ裂きにするような残虐なものではなかった、という話だ。

 ――奉孝の言う通り、か。

 郭嘉に心配しすぎだ、と言われたことが正しかったことになる。それが、夏侯惇には少々複雑だった。

「で、どうだ、子修は? うまくやっていたと聞いたが」

「ああ、武将としてならもう一人前と言っていいだろう。奉孝がうまく子修を使ったな。今までは皆遠慮して、子修を矢面に立たせようとはしなかったが、奉孝は結構好きなように子修を使っていた。子修は子修でなかなかのものだ。寡兵で敵に突っ込んで蹴散らしたりな。だがな……」

「だが?」

「子修と奉孝は一度離した方がいいかもしれん。あの二人はうまくやっているが、このままでは子修は奉孝に頼り切りになってしまうのではないかという気がする。作戦を決めるのは奉孝で、子修はその指示に従っていればいい、と決めてかかっている節がある。子修をこのまま武将として使うならそれでもいいだろうが、あいつはお前の後を継ぐのだ。それでは駄目だろう。一度、自分だけで考え、指揮を執ることを覚えたほうがいい」

 ふむ、と曹操が考え込む様子を見せ、ひげをさすった。

「ならば、汝南へは子修だけ連れて行くか。奉孝は休ませるついでにこちらで文若の手伝いでもやらせればいい」

「きっと嫌がるぞ」

 夏侯惇の言葉に、曹操が笑った。

「聞いている。文若も困ったものだと嘆いていた。できるくせに嫌がって巧妙に手を抜く、と。奉孝はそういうところがあるな」

 かわいいものだ、と言うその言葉に嫌悪など全くない。むしろ手のかかる子供の話をする馬鹿な親のような顔だ。

 幕僚の不真面目は本来責められることであっても、こんなふうに笑って許すようなことでもないだろう。少なくとも他の者ならこうはいかないはずだ。もちろん、郭嘉の功は多少の怠惰など比べ物にならないほどの大きなものだろうが。

 いつの間にか曹操と郭嘉の距離が近くなっている。それをしみじみと感じた。兗州にいたころ一緒にいる時間が長かったせいか、お互いをよく理解し、まるで親と子のように、絶対的にも見える信頼関係ができつつあるのかもしれない。

 悪いことではない、と思う。曹操にとって、信頼できる相手というのは数少ない。郭嘉は頭が切れる割に、多少天邪鬼なところもあるが裏表はあまりない。そういう意味では曹操にとって安心できる相手になるだろう。

 だが……。

 わずかに面白くない、という感情が胸の内に起こるのを感じて、夏侯惇はごまかすように盃を煽った。





 数日後、あらかたの政務が終わった後、郭嘉は曹操と幕僚たちを前に汝南の状況を説明していた。

 劉辟の拠点、どの程度の兵がいて、どういう編成なのか、そして袁術との関係性なども。

「捕虜と間諜から得られた情報は以上です。討伐自体はそんな難しくないんじゃないかと思いますね。袁術は腰退けてるから、劉辟を援助するなんてこともないでしょうし」

 うむ、と曹操がうなずく。

「奉孝、お前の攻めの策は?」

「はい、まず――」

 考えていた作戦を地図の上に示しながら説明していく。汝南との境から劉辟の本拠地まで、近いところから潰していくという作戦だ。

「地味ですけど、徐々にやるのがいいと思います。怖気付いて降ってくる兵も増えるでしょう。人は殺すより生かせ、って文若殿のご指示ですし」

 ちらと目を向けると、当然、とばかり荀彧がうなずく。

「問題は、どこまでやるか、ですかね。袁術は腰が引けてるとはいえ、あんまり近くまで行くのもよくないでしょう。捕虜の話からすると、劉辟の影響力はせいぜいで汝南の西半分て感じですから、そこまででやめて、拠点を作った方がいいと思います。ただ、城市に拠点を作ろうと思うと袁術側の太守がいますし、ぶつかり合いは避けられないかな。負けないとは思いますけど」

「袁術とはあまり派手にやりあいたくはないな」

「一番楽な展望を言うと、汝南に攻め込んだ時点で袁術側の太守がびびって城放棄して逃げる、とかですかね。でもこれはちょっと楽観的過ぎるかな」

「兵を進めれば、少なくとも一度はぶつかり合いは避けられまいな」

 間諜の情報では、汝南でも大きい城市にはそれぞれ数千の兵が駐屯しているという。

 曹操と共に地図を睨んでいると、横から荀彧が言った。

「袁家とぶつかるのはできれば避けたいところです。袁家に与する豪族も多いでしょうし、袁術の軍が腑抜けていても戦うのは容易ではないと思います。とりあえずは賊徒討伐と銘打って、潁川に近いところに一つ二つ拠点を作るべきですね。その先のことは、色々なことが落ち着いて兵に余力が出てからでもいいかと。なんでしたら密かに袁術に使者を出すことも手かもしれません。袁紹に知られさえしなければいいのです。我らは朝廷の命で賊徒討伐をしているので、汝南に野心はない、という書簡に供物を添えれば、しばらくはぶつかり合いを避けられるかと」

 荀彧が言うと、曹操がしばらく考えた後うなずいた。

「そうだな。とりあえずはそれで行くか。まずは袁術に密使を出し、劉辟討伐、次いで黄邵討伐。うまく賊徒を帰順させられれば屯田の目途もつく。では、次の問題は子廉の方だな」

 曹操が地図の上に置かれた曹洪の駒に目を向けた。

「その後の状況は?」

「依然董承の妨害にあって進めない、という状況のようです。一度戻った方がいいか、と迷っておられるようですね。補給の問題もありますし」

「俺は、いっそその董承って奴に供物でもやって、味方にしちゃえばいいと思いますけど。金に汲々としてるんでしょ? きっとあっさり乗ってきますよ。そいつ、権力争いに負けて皇帝から離れてるなら兵は喉から手が出るほど欲しいはずだ。殿にしても、外戚の手引きで皇帝に援軍ってなるのは悪くないですよね」

 郭嘉の言葉に、荀彧と曹操はそれぞれ苦い顔をして顔を見合わせた。

「それも、手ではあるが」

「誰かと結んで陛下の元へ、というのは悪くないと思います。ただ、相手がちょっと……。あまりいい噂を聞きませんし」

「一時的に援助を申し出て下手に出て、皇帝に渡りがついたら切り捨てちゃえばいいんですよ。あ、別に本当に殺すって意味じゃなくてもいいんですけど」

 荀彧が眉を顰める。曹操はいいとも悪いとも言わず、腕を組んだ。

「手段としてないとは言わんが、やり方を間違えば面倒なことになりかねん」

「今皇帝の周りにいるのって、外戚と洛陽近辺の半分賊徒みたいな奴だけなんじゃないですか? どれも似たり寄ったりでしょ」

「実は一度、知人が河内の張楊殿がいいのではないかというので書簡を出したのですが、すげなく断られてしまいました。割と穏健な人物で、陛下をどうこうしようなどという野心のなさそうな方だと思っていたのですが。呂布と親しくしていたそうなので、そのあたりが原因かもしれません」

「じゃ、無理でしょ」

 呂布と親しくしている者が、曹操とも親しくするとは思えない。

 郭嘉の言葉に、そうなんですよね、と荀彧がうなずいた。

「子廉殿の件はしばらく保留にしてはどうでしょう。洛陽の知人に手紙を出して、返書も来ていません。もしかしたら、何か勅命のようなものをもらえるかもしれませんし」

「そうだな。では差し当たって劉辟討伐だ。三日後に出立だ。準備せよ」

 曹操の言葉に皆が拱手する。それで軍議は終わりになった。


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