第110話 近況報告
アルクス達は教会を出て、アルクスの家へと辿り着いた。
家の様子は以前とあまり変わりはないものの、なんとなく静けさが漂っていた。
アルクスの家の大きさにクリオが驚きを隠せないでいると正面玄関でちょうどタイミングよくモラと出会い、中へと通される。
「お嬢様をお呼びして参りますので、しばらくお待ち下さい。」
モラから客間へと案内されたアルクス達は久しぶりの場所にあまり落ち着かなかった。
特にクリオはこれがアルクスの生まれ育った家かと興味深そうに色々と眺めていた。
「こんな大きな家に住んでるなんて、もしかしてアルクスって貴族だったりするの?」
クリオの指摘に対してアルクスは少し驚いた表情を浮かべるも、冷静に否定した。
「父が騎士爵を持っている準貴族だけど、世襲されるものではないからね。
父が武功でいっぱい稼いだからお金には困っていなかったけど、家を出てからは今まで恵まれていたんだなってことを身に染みて理解したよ。」
アルクスは王都を出てメルドゥースへ向かった当時のことを懐かしく思い出した。
「ごめんなさい。不授ということもあって色々とあったのよね…」
「お兄様!お帰りなさい!」
クリオが触れてはいけないことに触れてしまったのではないかと誤解して狼狽えていると、急に扉が開きルーナが駆け込んできてアルクスへと抱きついた。
「お嬢様、はしたないですよ。
聖女候補として正しい振る舞いを忘れないでください。」
「はーい、ごめんなさい!
でもお兄様の前では聖女候補ではなくて、ただの妹だから仕方ありません。」
ルーナがモラから嗜められるもいつものことなのか、あまり意に介していない様子だった。
「ただいま、ルーナ。
元気にしていたかい?
定期的に手紙は送っていたつもりだけど届いていたかな?」
アルクスがどの程度手紙が届いていたのか、気になっていたことを訊ねたところ、ルーナは真剣な表情になって答えた。
「連邦の辺りまでは定期的に届いていました。
帝国の辺りから届く数が減り始めて、メルクーリの街からの手紙を最後にしばらく途絶えていて何があったのかと心配していました。
父様やウィル兄様にもお兄様の近況は伝えていましたので、皆で心配していたんですよ?
ですが最近メルドゥースから手紙が届いて安堵いたしました。」
「ごめんごめん、ちょっとしばらく隔離された場所にいたからね。心配をかけてごめん。」
ルーナが泣きそうな顔になっていたため、落ち着かせるのに少し時間がかかった。
「あ、そうだ。この子はクリオ。
手紙で読んだかもしれないけど、アルフグラーティから一緒に旅をしているエルフだよ。」
「ルーナさん初めまして。アルフグラーティから参りましたクリオと申します。
蒼翠龍様の導きの下、ハイエルフを目指しております。
アルクスさんにはアルフグラーティからここまで大変お世話になっております。
彼がいなければ私はここにいなかったかもしれません。
彼への感謝の気持ちは言葉では表せません。」
クリオがルーナの目を見て何かを訴え掛ける様に自己紹介を行うと、ルーナも何かを理解して認めたかの様な素振りを見せた。
「あれ、普段はこんなに堅苦しい感じじゃないんだけどな。」
「いえ、お兄様の素晴らしさを理解している方が側にいるということが理解できて安心しました。」
「そうかな?手紙で書いたかもしれないけど、今までの旅路の話をしようか。」
「はい、楽しみです!」
そして、その日は夜遅くまでアルクス達の今までの旅の話をすることになり、ルーナが寝落ちしてしまうまで話は続いたのだった。
夕食の時にアーラや精霊達を呼び出した時にはルーナがとてもはしゃいでいたのが驚いた。
「こんなに楽しそうにしているお嬢様は久しぶりです。
最近は聖女見習いとして頑張っていましたから…」
「それは良かった、明日はルーナに最近のことを聞こうかな。」
「それが良いと思います。きっと話したいこともいっぱいあるでしょうし。」
翌日、今度は交代とばかりにルーナが聖女見習いとしてどんなことをしてきたか、聖女見習いから見て現在の王国の状況はどんな状況かを聞くことにした。
「というわけでこんな感じです。
聖女見習いと言っても学ぶことが中心で、まだ人前で何かをするということはありませんし。
ですが、以前と比べて国全体が暗く、不穏な空気が漂っていることは感じ取れます。
ウィル兄様もしばらくは続くだろうと話してました。」
「やっぱりそうなんだね。
僕達はもう少し王国内を見て回った後、再度帝国に渡ろうと思っているんだ。」
「帝国に…
危ないからやめてくださいって言ってもお兄様のことですから何か大事な目的があるのですよね…」
「あぁ、でもそんな無茶なことはしないつもりだから安心して。
ところでウィル兄様は今は王都にいるのかな?」
「ウィル兄様はこの前の戦で蒼天十二将の席が空いたから、今回のことが落ち着いたらそこに入るのではないかと噂されています。
以前からそうでしたが、最近は特に忙しそうで家にはほとんど帰ってこないです。
お兄様が旅立たれてからはここの家に帰ってくる意味を失ったのかもしれません。
お父様も避難民の方々の相手や色々な交渉があるみたいで、ほとんど帰ってこないのですよ。
私が教会へ行くことが多いので顔を合わせる機会は多いですが…」
「さすが兄様と父様、どんな状況でも活躍しているんだね。
もう少し自分を大事にして欲しいところだけど…
2人とも忙しいなら今回は会えそうもないかな。」
「今回はいつまで滞在できるのですか?」
「僕が王都にいてもあまり良いことはないだろうから直ぐに発つよ。」
「そうですか…
ウィル兄様に今度会った時にお兄様に会ったことを自慢しておきますよ!」
ルーナは一瞬寂しそうな顔をしたもののすぐに笑顔へと切り替えていた。
アルクスに心配をかけまいとする心意気に皆が心をうたれたが、さすがは聖女の力と1人モラは感心していた。
「そういえば父様から以前渡されたこれ、使わなかったな。
開けたことはないのだけどルーナはこれが何か知っている?」
アルクスが以前旅立ちの時に父から受け取った小箱をルーナへと見せると真剣な眼差しで箱を眺め始めた。
「これは…何だかすごい力を感じますが、それはまだ眠っている様に感じられます。
おそらく箱を開けることで解き放たれるのかと思いますが、どんなことが起きるかはわからないです。
ごめんなさい。」
「いや、いいんだよ。ルーナが謝ることじゃない。
起死回生の一手として手札が多いに越したことはないからね。」
そして昼食後に家を出て、今度はもう少し早く帰ってくるとルーナ達に伝えて出立した。
「お兄様、お気をつけて!」
「ルーナも聖女見習い頑張るんだよ!また、手紙は送るから。」
アルクス達は王都内を見て回ると、建物などの被害はないものの敗戦の影響か以前よりも少しどんよりとした雰囲気が漂い、北から流れ着いたと見られる難民が多くいることが確認できた。
「自分が王都にいた時はこんなにひどいことはなかったよ。帝国はこれからどうするつもりなんだろう。」
「龍王様に会いに行く道中も安全とは言い切れなそうだな。」
「とりあえずは戦闘が起きたのは国境付近だから北へ向かおう。王都から北はほとんど行ったことがないんだけど、アリシア達はあるかな?」
「俺は以前はメルドゥースから出たことなんてほとんどなかったからな。」
「私は商会の仕事でお父さんと一緒に行ったことがあるけど、ある程度大きな街だけかな。」
「じゃあ主要な街道を使って北上しよう。王国内なら魔獣もほとんど出ないだろうし。」
そうしてアルクス達はメルドゥース・王都での久しぶりの帰郷を済ませ、帝国にいる真紅龍へと出会うため、新たな旅を始めるのだった。
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