第105話 達成
クリオは漆黒龍からハイエルフへの道はあと少しだと伝えられ、喜びの余り涙した。
その後、クリオの目には焔が灯ったかの様な意志の強さを感じさせられた。
そして、漆黒龍の命令でアートルムも面倒くさがっていたものの、アルクス達の修行を手伝うことになった。
『そういえばアートルムは漆黒龍様に認められた龍騎士なのかな?』
『俺だって知りたいよ。はっきりと龍騎士だって言われたことはないな。』
『アートルムは僕と竜装ができるから竜騎士だと思うけど。』
アルクスの疑問に対して、アートルムはまだ龍騎士として認められていないかの様な反応だった。
皆で漆黒龍に答えを問うとはっきりとした答えが返ってきた。
『そもそも龍騎士と竜騎士の違いなんて昔は龍と契約したか、竜と契約したかの違いでしかなかった。
その定義だとアートルムは竜騎士だ。
だが、今は龍騎士は龍脈を司る龍に認められた者となっている。
わかっていると思うが龍と竜では役割が違う。
他の世界では違ったかもしれないが、この世界では竜は特に役割を持っていない1つの生物だからな。
天空竜もこの世界では特に何もしていなかっただろう?』
『確かにそう言われてみると、ドラコ・レグルスの維持はしていますが、この世界に対しては何かをするということはなかったか…』
スペルビアは急に漆黒龍から話を振られて、今までの生活を思い返すと肯定するしかなかった。
『それでいいんだよ。変なしがらみなんてない方がいい。
だが、龍は世界の維持だとか管理だとか神でもないのに色々と面倒なことがあるんだ。
アートルムはノックスと契約した、ただの竜騎士だ。だが龍騎士ではない。
還元もできないしな。
こいつにはそういう細かいことは向いていない。』
『やっぱり俺は龍騎士じゃないのか。あれ、そう言えば俺ってノックスと契約してたのか?』
『竜装は契約していないと使えないからね。小さい時のことだから忘れちゃったのかもね。』
『そっか…』
漆黒龍の話を聞きながら、アートルムは自分がノックスと契約をしていたことを知った。
『だがお前達は龍と契約しているわけでもないが、龍騎士として認められている。
それは藍碧龍がお前達に何か可能性を感じたのか気まぐれなのかはわからない。
だが龍騎士である以上いつか来る可能性に備えて還元を覚えてもらっている。
世界の維持だとか細かい面倒なことに責任を持てとは言わない。
長い時間をかけて少しずつ育てているが、皆龍とは違って短命なんだよな。
成長した龍騎士が次の世代に力を受け継ぐっていうのも中々難しい問題がある。
八竜震天の儀式も昔は龍騎士候補生を選別し、育てる試練だったんだが、今となってはこの大陸で挑戦するやつもいなくなって久しいな。』
漆黒龍の話を聞いて、スペルビアが難しそうな顔をしていた。
『おい、スペルビアどうした?何かあったのか?』
『いや、私は一体何なんだろうなと思ってな。私は龍騎士ではないが、他の竜と契約したわけでもないし何なんだろうなと思って…』
漆黒竜は軽く溜息をついた。
『お前はただの竜人の戦士だ。それでいいだろう。
他の世界にまで逃れて来たのだ、この世界のことなんて気にせず自由に生きればいいさ。
だが、お前の世界のことはわからないが、ここなら竜人と竜で竜装も行える。
力を求める生き方もいいだろう。
相性の良い竜がいるのであれば、ここに連れて来たらやり方くらいは教えてやるよ。
そこに手本もあるしな。』
『それはありがたい。国にいる朋友も暇をしているだろうし、今度連れてこよう。』
漆黒龍の話を聞き、より強くなれる方法を耳にしたスペルビアは最近見かけなかった野望に燃える様なギラギラとした目をしていた。
『それにしてもアートルムはノックスと仲良いよね。
いつから一緒にいるのかな?』
アートルムとノックスが考え込む様な仕草をした後、漆黒龍が答えを教えてくれた。
『アートルムは赤子の時にここに連れてこられた。その時から竜達に懐いていたな。
俺の配下の竜達が面倒を見ていて、特に若いノックスと仲良くなったな。
だが竜とは仲良くなっても困ったことに何故か人間達とは仲良くなれなかった。
成長と共に龍脈の力の扱いも上達し、そこらの竜達よりも強くなって驕ったのか八竜震天の試練を受けると言って飛び出していった。
だが力はあっても仲間がいなくて絆の試練だけクリアできなかった。
そこでこの大陸を出てどこぞをほっつき歩いているかと思ったら最近帰ってきたみたいだな。』
『前回の八竜震天の試練を受けた人がいたのは何十年も前と聞きましたが、アートルムって一体何歳…?』
『確かそろそろ100歳くらいだったか?』
『細かいことなんて知らねーよ。』
『竜人としてはやっと一人前だね。』
アートルムが100歳近い竜人だったということを知り、アルクス達は衝撃を受けていた。
『竜人とは言ってもこいつは人間と竜人との間に生まれたから少し他とは違うけどな。
力はあるんだが偏っていて、剛により過ぎているんだ。柔がない。
だから還元を会得することができない。
人々との交流も戦うことでしかできないから、仲良くできないんだ。
さて、アートルムのことはいいだろう。
バルトロとアリシアとクリオ。今のお前達なら少しは還元を使えるかもしれないな。
そろそろ成れの果てが来る。弱らせた後に試してみろ。』
そうしてしばらくするといつもと同様に空間に亀裂が入り、虚空へと繋がる扉が開いた。
中から這い出てきた成れの果てに対してアルクス達は以前とは違い果敢に攻撃を繰り出した。
漆黒龍も手伝っていることもあり、苦も無く成れの果てを弱らせることができた。
『よし、そろそろいいだろう。それじゃあ3人で還元できるか試してみろ。』
漆黒龍に促され、バルトロとアリシアとクリオは成れの果ての還元に挑戦した。
すると以前は全く反応がなかったもの、成れの果ての端から少しずつ光の粒子へと溶けていった。
『前に使えなかったのは位階の問題か?
いや、だがアルクスとスペルビアは使えていたしな…
まぁとりあえず合格だ。残りはアルクスとスペルビアも協力してやれ。』
バルトロとアリシアとクリオは最低限の還元ができる様になり、アルクスとスペルビアが協力することで5人がかりではあるものの成れの果ての還元に成功した。
『お前達に還元ができるなんて、俺にはできないのに…』
『人それぞれ得意不得意はあるし、アートルムは自分な得意なことをやればいいと思うよ?』
『そうかな…?まぁ苦手なことやるのも辛いし、そうだよな。』
アルクス達の成長に対してアートルムが落ち込み、ノックスが慰めて、アートルムが自信を取り戻すという光景は最近よく見かけるようになっていた。
そして数日後
『ふむ、まぁ最低限こんなものか。』
漆黒龍はそういうと壁に近寄ったかと思うと、叩きつけそこに1つの道が現れた。
『ここを上っていけば兄者のいる地上に辿り着ける。また気が向いたら来てくれ。
久しぶりに人が来て楽しかったぞ。』
『こちらこそ色々とありがとうございました!アートルムはどうするの?』
『俺達はここに残る。1対1で戦えるくらい強くなっておけよ。』
アルクス達は漆黒龍とアートルムに別れを告げて地上へと上がって行った。
するとそこでは純白龍が迎えてくれた。
『龍騎士殿、還元を会得されたとのことお見事でした。
八竜震天の最終試練、これにて終了です。』
急に今までの漆黒龍の下での還元を会得する修行が八竜震天の最終試練と言われ、アルクス達は戸惑いを隠せなかった。
『何、難しく考える必要はないですよ。龍騎士として必要なことを1つ新たに学んだ、ただそれだけです。さて、久しぶりの地上です。しばらくゆっくりなされるといい。』
その後各自個室があてがわれて、久しぶりに戦いのない穏やかな時間を過ごすことになった。
『ねぇ、アルクス。八竜震天の試練も終わったけど、これからどうする?』
『そうだね、割と色々と見て回ったし一度王国に戻ってみるのも良いかもね。』
『私は竜装を会得するため、一度ドラコ・レグルスに戻って、友を連れて来ようかと考えている。』
『私はとりあえずハイエルフになれる時までは一緒にいるわ。』
『俺はスペルビアと…『兄さんは私達と一緒だよ!』
バルトロはスペルビアと一緒に行きたそうにしていたが、アリシアから止められていた。
『何、竜装を会得したらすぐに向かうさ。』
アルクス達が今後の方針を固めた頃、純白龍から呼び出された。
『さて、そろそろ疲れは取れましたかな?
漆黒龍のもとで修行して、この大陸のことがよくわかったかな。
そう、ここはこの世界の出入り口の扉。
守らないといずれ世界は崩壊していくのみ。
神の意思もここにはなく、ただ世界を守るための場所。
この大陸の人々がラピスを持たないのもそのためである。
弟の漆黒龍がいる限り問題はないが、ちゃんと世界のことを理解してもらいたくてな。
さて、若き龍騎士達よ。君達はこれからどうしていくかな?』
純白龍からの問いにアルクスが答えた。
『この大陸に来てから皆、ラピスだとか神とかそういったものに囚われずに自由に生きていた気がする。
それは外の各国とは違った。だけど外とは違って皆生きる力を持っていた。
自分も不授と言われる人間だったが、たまたま運が良く力を得る機会がありました。
ですが、ラピスなどの力を持たない人達はまだまだ世界に数多くいます。
たとえ龍脈の力を使えなくても自由に幸せに暮らせる場所を作りたいです。
世界を守るとかそういうことは僕にはまだ分からないので、手の届く同じ様な境遇の人達を助けます。』
『そうか、ならば自分の信じた道を進むが良いだろう。
土地が必要ならこの大陸や近くの島を私が手配しても良いが?』
『ありがとうございます。ですが、ここですと外の世界と交流が取りにくいので、もう少し自分で世界を歩いてみて決めたいと思います。』
『そうか、ならば励むと良い。
この大陸の外へと戻るのであれば、知っておいた方が良いだろう。
長引いていた王国と帝国の戦争がそろそろ落ち着きそうだ。
両国ともに前線の被害はかなり大きいらしい。これから戦争の影響で変わっていくこともあるかもしれぬな。』
『ちょうど王国に帰ってみよう思っていたところです。僕とアリシアとバルトロの育った国ですし。」
『私はドラコ・レグルスへ一度戻り、古くからの友と共に竜装を会得しようと考えております。』
『そうか、ならば藍碧龍のところへと繋がる門とアウレアンの遺跡へと繋がる門を開けよう。』
そういうと純白龍は巨大な鏡を2つ取り出して力を込めた。
『こちらは藍碧龍の洞窟につながっておる。
そしてこっちはアウレアンの遺跡に繋がっておる。
ここに来たければ龍王や天空竜に話せば、来た時よりも簡易的な道を教えてくれるであろう。』
『やはり、簡易的な方法があったのですね。毎回あんな移動は流石にないとは思っていましたが…』
『最低限の実力者しか辿り着けない様にするためにな。さて行くが良い。
また会える日を楽しみにしておるぞ!』
『じゃあスペルビアも元気で。多分龍王様同士は連絡取り合ってるみたいだから、竜装を会得したら藍碧龍様のところへ来ればなんとかなるはず。』
『あぁ、早く戻れる様に頑張る。』
そうして、アルクス達とスペルビアはそれぞれ自分達の目的地を目指して鏡の中へと入り転移して行った。
バルトロが名残惜しそうにして、スペルビアについて行こうとしていたことは言うまでもない。
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