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手を出すな

チャイルドシートが義務じゃなかった時代


高速道路でトンネルに入ったところ、4歳の娘が急に後部座席の窓を下げた


「どうしたんだ?」


「てをふりかえすの」


娘はそう言うと、窓から手を出して何かに向かって振る


娘が見ている方向を見ても、特に何も無い


そのまま、トンネルを抜けた時


「あ」


娘が、急に手を引っ込めた


「とられた」


何をと聞き返す前に、娘が腕を見せていた。その腕には、肘から先が無かった


慌てて近くに停め、娘の肘を紐で縛って止血すると、救急車を呼んだ


娘は痛がっておらず、また出血も驚くほど少なかったのを覚えている


医者が言うには、断面は驚くほど綺麗で、まるで初めから何も無かったかのようだと


娘に、何があったか聞いても


「くるまのちかくにいたおねえちゃんに、てをふってたらとられたの」


という返事が返って来ただけだ


窓の外には誰も居なかったし、そもそも100キロちかい車と並走できるわけがない


トンネルでは、娘の切れたはずの腕も見つからなかった


「車から手を出すな」


そうとしか言えない




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