4.魔法の世界にようこそ
(なるほど、愚民政策の魔法版ってことか。特権階級にだけきちんと教育を施して強大な力を与え、労働階級へは何も教えずに逆らう力を全く持たせない。それはそれは楽な統治が出来るよね。それに自分たちの自尊心や優越感も満たされるものね)
トドーの説明は、それまでのソフィアの常識を覆すものだった。全てを聞き終えたソフィアはテーブルに肘を付き、頭を抱えていた。客人、それも貴族の前ではあるが、取り繕う気にはなれない。ちらりと隣を横目で見れば、両親は顔を見合わせたりこちらを見たりと狼狽えている。
(自分たちのことでもあるのに、他人事、違うな、理解するための土台となる情報がないから、何が何だか分からないって感じかな。それに、こんな話を自分たちが聞いて良いのか、不安もあるのかな。前世の記憶が無いまま話を聞いてたら、多分私も両親と同じ顔をしてたんだろうな)
この世界において、魔力は生きとし生けるもの全てに神様が与えたものである。そこに差は無く、魔法が使えないと知られている動植物にも存在している、とトドーは最初に説明してくれた。
人間の場合、魔力は人体組織として存在しないが、確かに体内に在るものとされている。そして、固い殻に覆われた様相を呈している。この殻を取り除き、魔力を体内に循環させなければ、人間は魔法を使うことが出来ないそうだ。
そのため、大昔の人間は魔法を用いずに生活していた。その頃の人間は脆弱で、武器も貧相だったため、魔法を使う他の生物の餌でしかなかった。そんな中、好奇心旺盛で知識欲の強い者たちが、魔力の殻を取り除く方法を見つけたのだ。同時多発的に見つかったその方法は、ある地域では万民に伝えられ、ある地域では一定の者にしか伝えられなかった。そうして魔法という強大な力を得た人間が中心となり、各大陸でそれぞれに国を興していった。
つまりソフィアが生を受けた国は、王侯貴族にだけ魔法を与えた国だったということだ。
(それにしても、心臓に悪すぎ。危うく一家離散の原因になるところだったじゃない。変な常識を蔓延させないで欲しいわ。というか、平民でも魔法が使える国があるなら、そっちに転生したかった。それなら、楽しい魔法ライフが送れたのにさ。あ、でも、私も今や魔法が使えるんだっけ。なら、これから楽しい魔法ライフが送れるのかも)
冷静そうに見せながらも、情報過多で少し混乱しているソフィア。そこに、カンッと木が打ち付けられる少し高い音がした。顔を上げれば、トドーが煙管を懐に仕舞っている。どうやら、小休憩と言う名の整理時間は終わったらしい。
「さて、と。一服も終わったことだし、次はソフィア嬢の適性調査さね。お前、魔法について、簡潔に説明し」
トドーが今度は左後ろに座っていた魔法院の人へ視線を投げる。
「ま、まず魔法とは、魔力を神様や精霊様に捧げ、その対価として冀った現象を発生させる方法と言われています。現象の性質や理への介入度合いによって必要な魔力は決まっていまして、それに合わせて魔法属性や魔法階級が設定されています。これらの属性や階級は世界共通としていて、国際魔法機構が…」
緊張気味の男性の話を聞いていると、トドーが右手を上げて話を止めた。
「あたしゃ簡潔にしろって言ったはずだよ、機構の話は不要さね。それに、属性や階級、あとラインについて説明が省かれているのは減点だね」
「も、申し訳ありません」
「気にしなさんな。最初から完璧な者なんて居ないからね」
指摘され恐縮している男性をトドーが慰める。それを見て、ソフィアは三人の関係性を理解する。とはいえ、それが何だというものだが。
「げ、現在分類されている魔法属性は火・水・風・土・光・闇・無の七種類であり、それぞれの属性内に複数の魔法が存在しています。この複数の魔法を難易度によって五段階に分けているのが魔法階級です」
前世の記憶によって予想の範囲内だった説明にソフィアは特段反応せず、ただ男性に相槌を打つ。だが、“ライン”という言葉は初耳だった。
「ラインは、神様や精霊様の住まう世界アドエキューラと魔法発現者を繋げている魔力の通り道を指します。魔力の殻、魔殻と言うのですが、それを除去する儀式のとき、同時にラインを繋げることで魔法が使えるようになります」
一通り話し終えたらしい。男性から緊張感が少し抜ける。
(んー、これはあれかな。魔力が電気で魔法が各種電気機器、ラインがコンセントってのが一番近い?アドエキューラって、ソフィアの記憶に確かあったよね。…うん、この人が言ってたのと合ってる。あれ?そういえば、魔力回復の仕組みってどうなってるんだろ。前世のRPGゲームだと、全く動かなかったり寝て起きたりすれば回復してたけど。あ、セーブすれば全回復ってやつもあったか)
前世、ゲーマーと自称したことはないソフィアだが、友人たちからそんな認識をされていた時期がある。ゲーム好きの弟と共に色々なゲームを楽しんだものだ。そんな前世の知識から判断しようにも、この世界の魔力や魔法についての情報が少ないせいで、次々に疑問が生まれてしまう。なので、ソフィアは挙手してトドーを見た。
「あの、質問しても?」
「構わないよ」
「魔力に個人差はありますか?」
「あるね。現在、魔力は数値測定が可能になっていて、最高値だと五百程度、最低だと五十を行かないぐらいさね。因みに、初級の基礎魔法で使われる魔力は平均して七、と言ったところさね」
「(結構差があるな)それは先天的な固定なんでしょうか?」
「いいや、違うね。魔力量増加の方法は幾つか確立されてるけど、結局のところ魔力をどれだけ身体に馴染ませられるかに依るって結論になってるよ」
「馴染ませる?」
「詳しく知りたいなら、専門用語を交えて三時間ぐらいしゃべるけど?」
「(気にはなるけど)なら次に。魔力はどういう仕組みで回復していますか?」
「常時体内で作られているけど、魔法を使えば追い付かないほどの少量さね。だから、呼吸や食事で外部から取り込んだり、緊急を要する場合は回復薬を使っているかね」
「呼吸もってことなら、魔力量の上限を超えた回復分はどうなるんですか?」
「何にもならないさ。実際、魔殻が壊されていない人間も魔力回復はなされているけど、特段不調を訴える者はいないだろう?」
「(確かにそうか)因みに回復率は、魔力量と比例してますか?」
「そうさね、体調や体質に依りけりさね。一般的には比例していると言われているね」
「(これも突っ込んで聞いたら時間かかりそうかな)あと、ラインはアドエキューラと常時接続なんでしょうか?もし、常時接続ならそのときの魔力の流れってどうなるんですか?」
「常時接続も可能っちゃ可能なんだがね、それをすると常時魔力を吸い取られるし、無意識で魔法が発動するしで面倒なのさ。なんで、普段はラインを鍵で閉じていて、魔法を使うときに開けるって決まりだね」
「(鍵ってなんのことだろう)そうなると、私はその鍵とやらを持っていないので、常時接続されているんですか?」
「多分だけど、そうだろうね。そして、それを含めてこれから属性の調査をするんだよ。ヒヒヒヒ」
トドーの笑みに、ここにきてソフィアは周囲の雰囲気を察知した。トドーとのやりとりに興味を惹かれたせいで気付くのが遅れたが、後ろの男性陣は驚きの表情でソフィアを見ているし、両親からは信じられないものを見るような視線を向けてくる。男性陣は初対面で気にしなくても良いが、両親からの視線が怖い。
元々のソフィアは少しブラコンが入っている気立ての良いおっとりした少女だった。そして、物事をあまり深く考えない性格でもあった。それなのに、先程までは完全に前世の性格に引っ張られていた。
記憶を統合してからはずっと寝込んでいて家族間の交流も少なかったため、ボロを出す機会がなかったのだが、好奇心に負けてつい根掘り葉掘り訊いてしまった。
「ソフィア、お前」
戸惑うように父親が声を掛けてくる。
「あ、えっと、その」
良い逃げ道がないか考えようとしたソフィアだが、次の瞬間、太く頑丈な腕により父親の厚い胸板へと抱き込まれた。
「はへ!?」
「良かった!お父さん、ずっと心配してたんだぞ!そうだよな、もう明日には一六歳だもんな!」
そう言われながら、余計に顔を圧迫される。
「(これ!ヘッドロック!)痛い痛い痛い!」
筋骨隆々の大男に病み上がりの小柄な少女が敵うはずもなく、速攻でくぐもった声を出して腕をタップする。しかし、何故かソフィアの声も意図も理解してくれず、父親は逆に頭を頬擦りしてきた。
「いつまでたってもポヤポヤして頼りなかったお前がやっとしっかりしてくれて、本当に良かった」
「女の武器が愛嬌とは言え、ズレたことばかり言ってたこの子が、あんなにちゃんと質問するなんて!」
母親が感極まって涙を流す。
(痛い!痛いんだけど!いや、それよりちょっと待って。ソフィアの元の性格って両親に心配されるほどだったの?)
突如放り込まれた混沌の場に、ソフィアは付いて行けない。元の自己認識では、しっかり者のお姉さんのつもりだったようだが、どうやら第三者からすれば違うようだ。ソフィアは後程じっくりと自身の記憶を辿ろうと決意する。
「ヒヒヒ、家族の仲が良いようだね」
トドーの声によって現状を思い出した父親から、ソフィアはやっと解放される。だが、夏空色の髪はぼさぼさで、頬にも父親の腕の跡が残っている。手櫛で肩まで髪を直しながら父親を睨めば、その巨漢を小さくして小声で謝られた。
「ソフィア、すまなかったな。皆様、失礼しました」
「いやいや、微笑ましいもんさ。あと、ソフィア嬢」
「はい」
「魔力や魔法について興味を持って貰えて嬉しいよ。ただね、学院に通い始めれば色々と知れるだろう。それでも質問があれば、その時に訊きに来てくれるかい?」
「(確かに)はい。時間を頂き、ありがとうございました」
恐縮して頭を下げる。窓から差し込む光は黄昏色に変化している。季節を考えると、あと三十分もせずに一八時の鐘が神殿から聞こえてくるだろう。頭を上げた後、ソフィアが窓の外に視線を投げると同時に、父親が挙手した。
「あの、ワシからも質問してよろしいですか?」
「どうぞ」
「魔法学院は、貴族様だけが通える学校だと聞いています。それなのに、ソフィアは入学できるのですか?」
「貴族だけが通えるってやつも、誤った情報さね。最初の頃にも言ったがね。この国の法律では『国内に住む一四歳から一八歳の魔法発現者は皆、魔法学院で学ぶ義務がある』と定められてるだけで、どこにも貴族なんて文字はないのさ」
「そうなのですか?」
「ここに来る前に、法務院で確認したから間違いないさね」
自分たちに関係する法律しか知らないソフィアだが、この国にはそれ以上に多彩な法律が存在している。そんな国内外のあらゆる法を整備し、秩序を護り、司るのが法務院だ。
「それにね、学院関係の書類には、平民出身者が入学したと書かれてる文章も幾つかあるんだよ。まぁ、直近だと百年程前の書類だがね」
(トドーさん、最後の一言、要らなかった)
言わずもがな、この世界の平均寿命は短いため、百年前と言えば四~五代遡る必要がある。そして、その時代に生きていた人間は既に居ないだろう。
「費用とかは気にしなさんな。国が義務化してるんだ、多分何とかするさね」
トドーの言葉に、両親が苦笑する。貴族が通うような学校ならば、それに伴う出費が膨大にかかる。ソフィアでさえその不安があったのだ。両親としては頭痛の種だったのだろう。
「さて、せっかく準備をしたんだ。本当にそろそろ調査をするかね。ソフィア嬢、どちらの手でも良いからそこに手を置いとくれ」
トドーが示したのは、布に描かれた魔法陣の一点。ソフィアの真近くにある手の平大の円形だった。円の内側には細かく文字が掛かれているが、ソフィアには読めない。
(この世界の公用文字と少し違う。魔法陣に使ってるなら、古代文字とか神様の文字とかかも)
そんなことを考えながら恐る恐る、言われた通り左手を置いた瞬間、白かった塗料が白い光を放ちだした。七つの円内にそれぞれ置かれていた材料にも急な変化が生まれる。小皿の水が溢れ出し、鉱石が容積を増していく。他の円内でも、燃えていたり輝いてたり溶けていたりと様々だ。
「な、なんなんですか、これ!」
阿鼻叫喚の様相に条件反射で手を引いたソフィアだが、何故か左手は布に吸い付いて離れなかった。魔法に関係した何かとは理解しつつも、到着点が予想出来ず慌てる。それなのに、トドーは一瞬目を見開くと、直ぐに何か別の作業を始めてしまった。その作業を左後ろに立っていた男性が遅れて手伝い始める。
「ちょ、トドー様!」
「気にするな。良いと言われるまでずっと手を置いておけ」
右後ろに立っていた男性から声を掛けられる。いつの間にか懐中時計のようなものを手にして、現象と見比べている。その表情は至って真剣そのもので、質問したくても仕事の邪魔は出来そうにない。
「ちょいと出てくるよ」
「え、あの!」
トドーが徐に立ち上がり、作業に使っていた諸々を持って部屋から出て行く。補助していた男性は追いかけることなく、今度は計測中の男性を補助している。こちらも忙しく動き回っていて、声を掛けにくい。狼狽えながらも周囲を見れば、今日何度目か分からない驚いた表情の両親が、隣で座っていた。父親は母親を守るように抱きしめている。
(あ、なんか冷静になれたかも)
両親の姿で心を落ち着けたソフィアは、目の前で起こっている現象をしげしげと観察することにした。七つの円内で発生している七通りの現象は、先程説明を受けた属性に似合ったものに見える。
(多分、これが水属性で、こっちが土属性、あれが火で、風で。そこのは光ってるから光で、ならこれが闇かな?で、残りのあれが無属性?只の棒切れが転がったままなんだけど、これだけが無反応ってことは、私に無属性魔法との相性は無いのかな?)
「おい、体調はどうだ。気分が悪くなったりしていないか?」
「あ、はい、今のところは全然大丈夫です」
自分の世界から戻って返事をすると、訝し気に眉根を寄せられた。
「なら、不調が出たら直ぐに声を掛けろ。あと、魔力の流れをちゃんと意識しろ」
不服そうな男性の声。トドーが居ないからか、態度や言葉が尊大な感じに変化している。
「(なに、こいつ)済みません。どうやって意識すればいいですか?」
「は?そんなことも知らないのか。これだから平民は」
「せ、先輩」
「うるさい、お前は黙れ。いいか、俺は最初から平民なんぞを発現者登録させるのには、反対なんだよ」
慌てたように補助していた男性が声を掛けるが、測定していた男性は意に介さない。
(ふむ、ソフィアの記憶で平民への貴族の態度は観てたけど、実体験は初だわ。そんな蔑んだ目で睨まれてもなぁ。それに、こうキャンキャン吠える方が器の小ささを証明してるって、何で分かんないかなぁ)
前世で威圧的な取引先とのやり取りを経験済みなソフィアにとって、この程度は慣れたものだった。男性を残念認定していると、不意に右手を優しく握られる。豆が潰れて堅くなったごつい手は、見なくとも父親の手だ。急な行動に不思議に思って見れば、怒りを抑えながらもソフィアを心配した顔をしている。
(もしかして、ソフィア自身も直接言われるのは初めてなのかも)
父親に安心させるように微笑めば、父親も少しほっとした顔をして手を離した。テーブルの下でのやり取りは男性に見えていないようで、増長していく。
「お前だって平民風情に魔法なんて勿体無いと思うだろ。こんなやつ、さっさと封印すればいいんだよ」
「で、でも、彼女は高位治癒魔法が使える可能性が」
「お前は馬鹿か!あんな報告、嘘に決まってるだろ!血の濃い貴族でさえ扱えないのに、平民なんかが使える訳ないだろ!」
反論した後輩に烈火の如く喚く男性。見ていて面白くもなんともないのだが、未だ左手が魔法陣から離れないので、ソフィアには見守ることしか出来ない。
(すっごいな、こいつ。両親が反論せずにいるのは、言ったら倍以上で面倒になるって知ってるからかな。なら、私もこいつは無視。喚きたいだけ喚け)
「お前も、この調査が終わったら速攻で封印の申し出をしろ!」
「おやおや、面倒臭い男が紛れ込んでいたようだね」
無視しようとしたソフィアに男性が指さして高々と宣言したタイミングで、トドーが部屋に戻ってきた。途端、男性の顔色が青くなる。さっと、腕が下ろされた。
「ほう、まだ続けられているのかい。ヒヒヒヒ、こりゃ凄い」
目を彷徨わせている男性を一瞥しただけで、トドーはテーブル上の現象にほくそ笑む。ソフィアもトドーに倣って、男性を放置することにした。
「トドー様、これは何時まで続くんでしょうか?」
色々と質問はある。だが、今一番確認したいことはこの一点だった。座っているとはいえ、既に五分以上この状態が続いているのは不安だった。席に座ったトドーが、男性が使っていた計器を見て嘆息した。男性がビクリと肩を震わせる。何か不穏な空気がトドーから発せられるが、ソフィアには笑顔を向けてきた。
「ソフィア嬢、体調はどうだい?」
「左手が仄かに温かいなぁと感じるだけです」
「なら、あと三分ほどこのままで居られそうかい?」
「はい、三分ぐらいなら平気です」
先ほどまでの時間経過より短いならソフィアに問題はない。これを十分以上続けろと言われると、夕食の準備が迫っているという意味で止めて欲しいのだったが。
「そういえば、これの説明をしてなかったね。それとも既に聞いたかい?」
「いいえ。是非知りたいです」
トドーの説明によると、この魔法陣は、魔力量と属性との相性を同時に測定できるものだそうだ。体内の魔力を一定量継続的に放出させることで、魔力量が計算できる。以前はそれだけの代物だったが、ただ単に魔力をアドエキューラに流すのが勿体ないということで、七属性の相性を調べる陣も組み込まれているらしい。
(魔法って“ファンタジー”って言葉で括られてそうだと思ってたけど、色々と調査、研究されてるんだなぁ。魔法に関する歴史書とか読んだら面白そう)
「三分経ったね。手を放していいよ」
物思いに耽っていると時間が来たらしい。魔法陣を見ると、七つの円内の現象は止んでいたが、魔法陣全体の光は輝いたままだ。何度か左手を引こうとして無理だったはずが、何故か今度は簡単に布から手が外れた。そして、手を離した瞬間に光も消え、在ったはずの魔法陣も解けるように消えていく。
「え、なんで!?」
「計測に必要な時間内は手が離れないように術式を組み込んでいるだよ。で、計測が終われば陣は消えるって寸法さね。因みに、途中で体調が悪くなったら強制的に手を外せるようにもなっているね」
「へー、安全装置まで付いているなんて凄いですね」
「本来、この調査は七~八歳の令息令嬢がやるものだからね。安全性はしっかりしていないと、色々と周りが煩いのさ」
「確かに。嫡子に何かあれば大変ですもんね」
「まぁ、そういうことさね。さて、調査結果だけど」
不遜な態度だった男性が、調査中に書き込んでいた書類をトドーに手渡す。それを流し読みのように読み込むと、トドーはソフィアに顔を向けてきた。そして、にやりと極上の笑みを浮かべる。はっきり言って不気味だ。
「ヒッヒッヒッ、ソフィア嬢は逸材だね。魔力量は推定三八十で、火・水・土・風の相性は五段階評価の上から二つ目、闇は下から二つ目、無は中間、そして光は最上段の優良ときたもんだ。魔法学院を卒業した後は、是非とも実験だ…助手に欲しいもんだよ」
(ちょっと今、実験台って言いそうにならなかった、この人⁉やっぱり、やばい人だ)
トドーの後ろからは、態度の悪い男性は苦々しそうに睨んできていて、後輩は頬を上気させ目を輝かしてソフィアを見つめてくる。
(二人の態度を鑑みるに、多分平均より魔力も相性も高いんだろうな、この結果)
自身に降りかかった不運と幸運を噛みしめ、ソフィアは大きく嘆息したのだった。