眠りの王子
『キャー!!ヤバい奴がいるのでどうにかして欲しい件』の最終話、投稿しております。そちらも読んでいただけたら幸いです。
「なかないで。」
そっと差し出された小さな右手を、僕はただ茫然と見つめることしかできなかった。
「いっしょに、あそぼう?」
僕は弱くて、小さくて、いつも皆に虐められてきた。そんな僕を突如照らした眩しすぎる光。それを、僕は・・・
「えっ!どうしてにげるの?まって!」
拒絶した。
僕には、眩しすぎたから。闇と光は相いれない存在。眩しすぎる光があれば、闇は消えるしかなくなってしまう。
「まってってばー!すこしでいいからさ!あそぼうよ!!」
僕は逃げ続けた。ずっと、ずっと。そんな日々が一年ほど続いた。
「ねぇ!!フィアーノ!!」
いつも通り「サルタナ」という少女は僕のことを追いかけてきていた。だが、その日は場所が不味かった。
「サルタナ」が僕を捕まえようと伸ばした手を振り払おうとしたときに、僕はバランスを崩した。そして、そこは
「フィアーノ!!!!」
崖だった。遠のく意識のなかで、背に激痛が走った気がした。
「本当に、申し訳ありません!!!!」
だれかが・・・謝っている・・・。大きな人と小さな人が、床に額をつけている・・・。そして、だれかが温度のない声で、なにかをいっている・・・これは・・・・母上・・・?
「ごめんね、フィアーノ・・・・。」
小さな人が僕に近づき、話しかけた瞬間、小さな人は頬を張るような音とともに吹っ飛んでいき、そして、大きな人によって扉の外へと引き摺りだされていった。
「・・・・・・・・。」
そのことがあってから、サルタナは僕に一切話しかけることはなくなり、近づくこともほとんどなくなった。そして、僕の背中には大きな傷が残った。
「かわいいね、おまえ。私とはおおちがいだ。」
なぜ、僕は、なぜ、僕は、「サルタナ」が話しかけてこなくなった日から「サルタナ」をずっと追いかけているのでしょうか?なぜ、「サルタナ」から目が離せないのでしょうか?なぜ、あの兎に憎しみが溢れて仕方がないのでしょうか?
「キュー!キー!キュー!キュー!」
うるさいな・・・・。
「サルタナ」が立ち去った後、僕はなぜか兎の前にいた。
「キー!キー!キュー・・・・キー・・・。」
気が付けば、僕は兎を殺していた。すると、僕の胸には幸福感が溢れ無意識のうちに笑っていた。ああ、早く。これを埋葬してあげよう。
「・・・・・・フィアーノ。」
ごきげんよう。父上。なぜ僕のことを咎めるように見つめるのですか。死んでしまったものを弔うことはそんなに悪いことですか。死んでしまったものの墓をつくるこの行為はそんな許されざる行為ですか。あなたは、僕の、死に怯えながらも死を希うこの心を支えてきたこの行為を許さないというのですか。
「・・・そうじゃありません。これまでは死んでいるもので満足していたのに、今回はなぜ生きているものをわざわざ殺して埋葬するのですか。」
だって!それは・・・!小汚いこの兎が・・・・!!「サルタナ」の心をひと時とはいえ、奪ったから!!だったら僕がこれの命を奪ったってかまわないでしょう!?
「・・・・僕はルレザンの血をひいていないから、死を愛する貴方たちの気持ちはわかりません。ですが、なにかの命を奪う行為はいけないことです。いいですね?」
僕には、そんなことわかりません。だって、貴方と違って人ではないから。
「・・・・どうして、よびだしたりなんかするんですか。あなた、私がちかよるのいやがってたし、あなたにケガさせたんですよ、私。それに私、おかあさんにあなたに近よっちゃだめっていわれてるんです。」
兎を埋葬した翌日、僕は「サルタナ」を手紙で呼び出した。
「はっ・・・・?」
傷に薬を塗ってもらえないか、と「お願い」したのだ。
「でも、なんで私が・・・。」
決まっているでしょう?「サルタナ」の罪悪感を利用して「サルタナ」と一緒にいたいからです。とは言わずに、わざと「サルタナ」の罪悪感を擽る言い方をする。”この傷跡はあまりにも醜すぎて、一回僕の傷を見たことのある、貴女以外に見せたくないからです”と。”責任、とってくれますよね?”と。
「そういう、ことなら・・・・。」
この日から、罪悪感に満ちた顔をしながら薬を塗る「サルタナ」を盗み見るのが日々の楽しみになった。ああ、ずっと「サルタナ」の心が僕で満ちていればいいのに。
「・・・え?・・・駄目だよ!!フィア!!そんなこと言わないでよ!!」
なにがいけないのですか。死にたいといって。・・・でも、嬉しいことが知れました。ルタは、僕の死をちらつかせると、薬を塗るときと同じくらい・・・・いえ、そのときよりも、僕のことを思ってくれるのですね。
時はたち、僕たちは全寮制の花園学園に入学した。
「え、マジ?フィア、同じ部屋なの?」
ずっと二人で過ごせる日々・・・!!なんと幸せなのでしょう!!・・・・その代わり、邪魔も多く入りますが。
やがて、僕たちは二年生になった。僕の「お願い」により、ルタと僕は同じ部屋に再びなった。
舞踏会の帰りに一人で歩いていると、厄介なものに遭遇した。
「やあやあ!ごきげんよう!」
ロゼ・ロードン・・・本名はノアールローズ・ロードン。決して純な人間ではないはずなのに必死で人間を演じ続ける愚かな道化。これとは、ミスルトゥ・ヤドリギとともに長い付き合いになるが今いち虫が好かない。・・・・まぁ、ミスルトゥ・ヤドリギもあまりに好きではないが。だが、このノアールローズに頼らなければ僕は生きていくことが難しくなる。だから、無下にはできない厄介な相手。
「どうぞ、これからも毎月十日の三時のお茶会、ご参加くださいね!参加条件は今まで通りです☆」
・・・・今年も毎回毎回、鼠の耳をつけるのか・・・。
二年生になってから少し経った。
「フィ、フィア・・・・落ち着こう!!なにも怖くない!!ほら、少しも怖くないわ!!!」
本当は幼い頃からずっと気づいていたんです。眩しすぎる光が闇を消すことができるのならば、深すぎる闇も光を塗りつぶすこともできるのだと。僕色に染まったルタ、とても楽しみにしていますよ。
今までの攻略対象の中で、恐らく一番思考が人外です。