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第7剣 初めての殺し

「おーい、クレアー!もう大丈夫だぞー!こっちに来れるかー?」


「大丈夫ですー!少し待っててもらえますかー?」


 俺は男を取りさえながら、茂みに隠したクレアへと声をかけた。ただその返事には若干の恐怖が混じっているようにも感じた。


 おそらくは俺がクレアの秘密の一端を知ったことに対しての恐怖だろう。


 だが、それはともに旅をする以上はいずれは通らなければいけない道。クレアに限ってはそれが早かっただけ。早すぎかもしれないが。まあ、それは仕方ないことだろう。こうして、こいつらが襲ってきた限りには。


 そして、クレアが棒を突きながら歩いて来ると俺のそばに座った。俺はクレアの呼吸が整ったところで話しかけた。


「それで、クレア。お前さんに聞きたいことは多くあるが、とりあえずこの男に聞きたいことはないか?」


「そう......ですね。では、あなた達はまだ愚かな儀式を続ける気ですか?」


「......」


 クレアは俺が取り押さえている男に対して、クレアにしかわからないことを聞いた。


 しかし、その男は答えるどころか口を強く閉じ、意地でも話さないかのような態度を取っている。なので、俺は口を開きたくなるようなおまじないを.....


「あがぁ!あだだだだだだ!わかった、わかったからそれ以上腕を上げるのはやめてくれ!腕が、腕が千切れる!」


「なら、答えてもらうか」


「......私、カイトさんの意外性を垣間見た気がします」


 俺が男の腕をキメて、さらにきつくしていることにクレアは思わず驚いたような表情を見せた。


 だがな、クレアよ。一番驚いているのは、俺自身なんだよ。なんかこの世界で時間が経つごとに俺の知らない部分が勝手に表れている気がする。


 自然と息を吸うように嘘がつけるし、明らかな強者と死のやり取りをしているのに、変わらぬ感情と思考で動けたり、魔物であれ、人であれ殺したことに対する感情があまりにも薄いし。平気で痛みのある尋問ができるとか。俺、本当に前世で何してたんだ?


 まあ、そんなことは後でどれだけでも心配して、悩めばいい。だが、今の時間は有限だ。優先度を間違えるな。


「ぞ、族長はお怒りだ!お前が早く生贄にならないから、計画がいつまで経っても実行段階に至らないってな!」


「それなら好都合です。あなた達が行おうとしていることが、私のせいで止まっているなら喜ぶべき限りです。それにしても、あなた達が狩られないのが不思議です」


「当たり前だ。もう俗世とは完全に縁を切っているからな。俺達の存在を知ったやつらは総じて死んでもらった」


 その言葉を聞いた瞬間、クレアは思わず睨むようにその男を見ると叫んだ。


「そんなくだらない理想のために罪もない人を殺したというのですか!」


「罪もないだと?ふざけるな!あのただの人間が罪もなかったなら、今の我々はこんなことをしているはずがないだろ!」


「!」


「あいつらがどんなことを俺達にしてきたかは同じ魔女であるお前が一番知っているはずだ!」


「......」


「俺達の本当の敵は人間だ。だからこそ、お前の存在が必要なんだ。仲間同士で争っている場合じゃないんだ。それはわかるだろ?」


 男は諭すようにクレアに諭すように言った。それは自身の同情を誘うような語り口であった。


 そんな男の言葉を聞きながら、クレアは先ほどの睨みつける表情から一転して、静かに目を瞑って聞いていた。


 そして、クレアはそっと目を開けると答える。


「わかりません。私は魔女は滅ぶべきだったと今でも思いますので。なので、あなたはここで朽ち果ててください。大丈夫ですよ、いずれ全員同じ場所に向いますから」


「.....な、なんだと?お前は今完全に俺達を敵に回す発言をしたんだぞ!」


「構いません。もとから仲間だとは思ってませんので」


 クレアの温度を感じさせない瞳に男は顔を青ざめさせた。


 なぜなら、仮にここで完全に敵対しようとしたところで、それを仲間に伝える手段がない。そして、その前に口封じとして男をこの場で殺すのだから。


「カイトさん、お願いがあります。私と一緒に罪を被ってくれませんか?」


「いいよ、俺はもうクレア派だしね」


「事情も知らないのにいいんですか?」


「おいおい、それを言っちゃあさっきの言葉の意味がなくなるぞ?それに事情は後で聞けばいいと思うし」


「.....本当に不思議な人です」


 クレアは木を支えにするとその場に立ち上がる。そして、俺は押さえていた手を足へと変え、同じように立ち上がった。


 そして、右腕を剣に変えた。そのことで男は今から俺達が何をしようかわかったようだ。


「やめろ、やめてくれ、何でもするから!命、命だけは!」


「そう言っていた私の大切な人達は果たして今は生きているのでしょうか?そんな殺した人たちの存在なんて忘れているんじゃないですか?あの方々は私の正体を知りながら尚親しくしてくれていました。あなた達はそんな人たちを殺しました。それで自分だけ生かしてもらおうなんて虫がいいとおもいませんか?」


「お"ね"がい"だ......や"め"て"く"れ"......」


「いくぞ、クレア」


「はい、わかりました」


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」


 俺が男の首元へと剣を向けるとクレアはそっと俺の腕に手を触れさせた。そして、男の泣き叫ぶ声の耳に捉えながら、俺とクレアは剣を振り下ろして男の首を切り落とした。


 すると、クレアは力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。


「あ"あ"あ"あ"あ"」


 そして、子供ように泣き始めた。それは憎い相手だとしても人を殺したことによる罪悪感からなのだろう。


 俺とは全くの正反対だ。俺はあの時の男とは違い、意図的に人を殺した。なのに、俺は何も感じない。定められた運命のようにただ受け入れているだけ。


 俺は一体何者なんだ?


 それから、俺は男の死体を近くで捨てていくとクレアの傍に座り、ただ黙ってクレアが泣き止むのを待った。


 しかし、その間にも俺は考えられずにはいられなかった。それはクレアと男二人に向ける感情の熱量が違うことに。


 当然俺とて男だ。男より女の味方をしてやりたいと思う。だが、たとえそれを抜きにしても俺は明らかにクレアを贔屓目で見ている気がする。


 やはり、それはクレアが誰かに似ているというところから来るのだろうか。


 俺は俺自身が何者なのかがわからない。俺はクレアを誰かに似ていると感じた。つまり、その誰かに俺は未練を感じているということなのか?そして、その人物は俺が人を殺して何も思わないほどに狂ってしまう人物なのか?


「はあ、ここで俺のしばらくの目的を見つけてしまったわけか」


 俺は静かに独り言ちた。なのに、周りの森はそれを確かに聞き取ったかのようにざわめいていく。


「落ち着いたか?」


「はい、すいません。人を殺したことが無くて、それで......」


「俺もないから安心しろよ。反応がなかったのはとにかく呆然としていたからだ」


「そうなんですか。私も切った数秒はそんな感じで全く動くことが出来ませんでした」


 クレアは気持ちを落ち着かせる様に深呼吸をした。なので、俺も同じように深呼吸をした。すると、クレアは俺に話しかけてくる。


「カイトさんが私を裏切らないことを願って、今から私の正体をちゃんと言いたいと思います」

別作の「神逆のクラウン」も良かったら読んでみてください

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