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第31話 罠

 俺は人ごみをかき分けて、フードの人物を追いかけていく。しかし、段々とその距離は遠ざかっていく。それは今は丁度お昼時のため中央通りには多くの人がいるため。


 しかし、それなら相手だって同じはずなので遠ざかるはずはないのだが、なぜか相手の方が早く移動していく。


『娘を預かった。お前なら、その人物が誰かわかるはずだ。あとはわかってるな?』


 俺は先ほどすれ違った時に言われた言葉を思い出していた。あのフードが言った言葉からすると「娘」はクレアのことだろう。俺に「わかっているはずだ」と言ってきた時点でそういう意味だろう。


 もちろん、あのフードの言葉を信じているわけじゃない。むしろ、俺のもともとの質からしてみれば、疑うのは当然だ。


 しかし、これももともとの質なのだが、それが100%嘘だと断定できない限り、俺はそれを調べてしまうことがある。それで、もとの世界の俺は生き残ってきたから。


 なので、それが完全に嘘かどうか俺は確かめるために俺はあのフードを追いかける。


 それにしても、どういう身体能力してんだ?こんなところでまるで軟体動物の如く人を避けて、進めるなんて。これは相当な手練れかもしれない。それだけで、信憑性が上がってしまう。


「あいつ!」


 俺は思わず歯噛みした。それはあのフードが立ち止まって、俺の方に振り返ってニヤッと笑ったのだ。


 正直、誘い込まれているような気しかしない。それでも、クレアが捕まったかどうかを確かめなければ。それが嘘だとわかればすぐに逃げる。


 すると、フードは再び動き出す。ギリギリ俺がフードを捉えられる距離で見えるように右の方へ曲がって消えていった。


 おそらくあの位置に路地へと入る道があるんだろう。俺はそのフードが曲がった位置までやってくると追うように曲がっていく。


 俺が入った路地は多くの建物に囲まれている。そのためか、陽の光があまり入ってこず、基本的に薄暗い。


 雰囲気的にも先ほどの中央通りとは別世界のように静かだ。今にも荒くれものが出てきそう。まあ、これからこっちから荒くれ者であろうフードに会いに行くんだが。


「出てこいよ。お前が俺を誘っているのはわかってる」


「そうかい。それでもなお、この場に来るとは......まあ、なんであれこちらとしては来てくれたのはありがたいね」


 俺が周囲を警戒して言うと背後から返答が返ってきた。俺は咄嗟に後ろを向くと距離を取った。


 なぜなら、その声の主は俺が通って来た路地へと続く通路から現れたのだ。その通路は一方通行で他にわき道など存在しない。


 つまりはどこかで俺が通るまで隠れていたいうこと。俺はその気配を感じ取ることが出来なかった。


 これはかなりヤバイのに足を突っ込んでしまったかもしれない。まあ、今更怖気づくなんて遅いけどな。


「それで、お前は何者だ?」


「私はあの娘と同じよ。まあ、もう少し厳密に言うのなら、あの娘の中に眠る主君の僕だけどね」


 俺の目の前にいるフードの人物はそのフードを取ると顔を見せた。すると、そのフードは女性であり、左目の下にひし形のような模様があった。また目つきが鋭く、耳にピアスがあることがより威圧感を強めている。美人な顔が勿体ないな。


「ということは、魔女と言うことか。それで、俺がついて来てる時点で魔女がいるということを証明してしまったわけだが.....一体誰のことを指してんだ?人違いなら、残念ながらその子を助けることはしない。非情と言われようともな」


「別にいいと思うわよ。護れる範囲でしっかり護る。私にはとても魅力的だわ。それにあなたの剣になるという魔法もね」


「......もしかして俺が狙いだったりしないよな?」


「あなた《《も》》狙いよ。ただ厄介そうな方を優先していただけ」


 俺は思わず苦笑いした。感覚としては知らぬ間に虎の尾を踏んでいたような感じだ。


 クレアと関わった時点でこうなることは予想していたが、結構早く虎は襲ってくるもんだ。


 しかし、俺はあの女の人とは面識がないはずだ。なぜ俺の存在を知っているのか。見ていたとしたら、一体いつ、どこでなのだろうか。


「俺は知らないぞ。なぜ知っている」


「あなた達は知らないでしょうけど、カラスを飛ばしたり、トカゲを這いつくばせて見ていたのよ。私達は魔法に特化した種族。魔物を操るのなんて造作もないしね」


「魔女はもともと人族だろ?分ける必要はないと思うがな」


「ふふっ、面白いこと言うわね。でも、もう私達はそういう風に生きてきたの。もう溝は埋まらないほどに出来上がってしまったのよ......もっと早くにそういう風に言ってくれる人がいたらね」


 目の前にいる女性はどこか哀愁を浮かべたような表情をしていたような気がした。俺にはあくまでそう見えただけ。


 しかし、だからといって、俺達を狙っていることには変わりない。なので、警戒を怠ることはないが、気になることはある。


「なあ、一つ聞いていいか?」


「いいわよ。特別に一つだけ答えてあげる」


「俺は俺の魔法に関して詳しくない。だから、俺の魔法に関して教えてくれないか?なぜ冒険者が驚くのかわからないんだが」


俺がそう言うと女性はどこか驚いたような顔をした。しかし、すぐに表情を戻すと先ほど言った通りに答えてくれる。


「今どき呪いの魔法を知らない子がいるなんてね......」


「子?」


「魔女は長生きなのよ。私はこう見えても300年は生きてるの。だから、あなた達は全員子供のようなものなのよ」


 その女性は「話を戻すわね」というと話を続ける。


 「この世界にはね、呪いの魔法と呼ばれる特別な魔法を所有する人達がいるの。それは生まれつきか、または何かに触れてしまってかいずれにしてもその魔法の存在は忌み嫌われている」


「その魔法の一つが俺の魔法ということか?」


「ええ、そうね。もっと言えば、その身を変えてしまう魔法のことを指すの。あなたの腕が剣へと変わるようにね」


「それのどこが呪いなんだ?」


「その魔法わね、使えば使うほど体をそのものに変えていくの。つまり、あなたの場合はその体をやがて完全な剣へと変えていくということよ。もう人の体として生きれない。そして、死ぬ概念もなくなり、自分の大切な存在だけがどんどんと老いて死んでいく。それだけで、呪いとしては十分でしょ?」


 俺はその言葉を聞いて思わず自分の体を見た。現状はどこも変わった所がない。


 しかし、一度悪漢どもと戦った時のあの姿......あれは俺がイメージで作り出したものだったのだが、もし呪いによる効果だとしたら......それはかなり恐ろしい。


「それじゃあ、冒険者が驚く理由って.....」


「その呪いの魔法があるからよ。それには昔っから伝染する言い伝えもあるぐらいだしね。あなた達の仲間が言わないのはきっと親切心からよ。魔女ならだれでも知ってることだからね」


 俺はそれを聞くと次の質問に入る。


「お前が俺を狙う理由はなんだ?」


「それはさすがに教えられないわ。でも、さっきも言った通り魔女は長生きなのよ。たとえ、あなたが剣に変わっても重宝する人はいるわ。だから――――――――」


 その女性はスッと俺の方へと腕を上げた。そして、誘うように指先まで伸ばす。


「あの娘を連れて私のもとへと来なさい。これが最初で最後の招待よ」


「断る」


「即答は悲しいわね。なら、仕方ない......力づくでいくわ」


 女性は伸ばした腕の指先でパチンと音を鳴らす。その瞬間、大勢の冒険者たち......いや、見たことのある悪漢どもが、路地にある扉から現れたり、俺の背後にある路地から現れたりした。そして、俺を取り囲むように並び始める。


「あなたなら見たことあるんじゃないかしら?あなたが散々痛めつけた冒険者たちよ」


「みたいだな。だが、たとえこの人数でも近づけさせなければ問題な―――――――――」


 俺はプレゼントをポケットにしまうと両腕を剣に変えた。その瞬間、痺れとともに激しい痛みに襲われた。


 そして、腕を剣に変えることが出来なかった。俺は思わず地面に四つん這いになる。すると、周りからニタニタと嘲笑うような声が聞こえた。


 すると、目の前にいる女性がしゃべりだす。


「ここには魔法を使うとペナルティを受ける魔法陣を敷いてあるの。だから、魔法を使うことは出来ない。まあ、ここに誘い込んだ時点でこれぐらいされていることは想定しないとね。あの娘を護ることで盲目になってしまったのかしらね」


「このやろう.......」


「さあ、素手でどこまで戦えるか見ものね」


 苦虫を嚙み潰したような顔をする俺に、女性は恍惚な表情で微笑んだ。

別作の「神逆のクラウン」も良かったら読んでみてください

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