第12剣 薬草採取
俺とクレアは森の中に入ると老人から預かった図鑑を頼りに、目的の薬草を探していく。
だが、この森は鬱蒼としているせいかどれがどれだか全くわからない。それは図鑑を頼りにしても同じこと。
「やっぱり、崖にいかないと見つからないのか。ここらで見つかれば、それに越したことはないんだけどな」
「そうだね。私も出来るだけ早く辛さから解放してあげたいんだけど.....」
「『急がば回れ』みたいに早く事を成すなら、横着せずに影へと向かうか。そっちの方が早く済むかもしれない」
「そうかもしれないね。それじゃあ、こっちの方だよ」
俺とクレアは意見を合わせるとクレアの先導で道を進んでいく。しかし、そう簡単に目的地まで行かせてくれないのが人生か。
そんなことを思いながら、俺達の周りを囲むように魔物達が現れた。
俺はクレアを自身の背後に隠し、そのオオカミの魔物の動きを冷静に見極めていく。周りにいるオオカミは5体。
そして、俺達が丸腰であることに気付いているのか、どこか余裕そうな雰囲気を感じる。
「グウァウ!」
「来るか、オオカミさんよ」
俺はオオカミの飛びつきをしっかりと見ながら、噛みつきに合わせて右腕を伸ばしていく。
そして、その右腕を一気に剣へと変えた。それから、そのままオオカミの口の中へと右腕を突っ込ませる。すると、そのオオカミは口を裂けられながら、死んだ。
そのことで追撃とばかりに進行してきていたオオカミ達の動きは止まる。そこに、俺は試験的に指をそれぞれ剣になるようにイメージした。
そして、思い通りに指がそれぞれ鋭利で小さな剣へと変わるとその指で地面を思いっきり引っ掻いた。
それによって、掘り起こされた土埃がオオカミ顔へと直撃する。そこに俺は一気に走っていき、左腕を剣へと変えた。
そして、思いっきり左腕を突き出した。その攻撃によって、一体のオオカミを殺した。
「グワァ!」
「なんの!」
すると、一体のオオカミがやけくそとばかりに俺の足に噛みつこうとしてきた。その動きを見ていた俺は出来るだけ近づける。
そして、避けきれない範囲までオオカミを入れるとその足を一気に剣へと変え、思いっきり蹴り上げた。それによって、オオカミの頭は跳ね上がる。
あと二体。そう思って、俺は周りを見ると目の前にいる一匹しかいない。俺はそのことに思わず疑問に感じた。
数え間違え.....という線もなくはないが、別に怯えて思考が乱れていたというわけではないので、その線はおそらく薄いと思われる。
「ウォンウォンウォン!」
「どこだ?」
俺はせわしなく吠えるオオカミを牽制しながら、辺りを再度見回していく。しかし、やはり見当たらない。
だとすると、数え間違えということなってしまうのか.....いや、待てよ?
俺は短い時間で思考を巡らせる。俺が一体目のオオカミを殺した時、他のオオカミはそれを見て止まった。
ということは、仲間の死を見てこれ以上突っ込んでいくのは危険だと判断できる思考力があるはずだ。
ならば、もしかしたら、簡単な作戦を立てるぐらいの思考力はあるかも知れない。そう考えると、俺の正面にいるオオカミは先ほどからずっと吠えているだけで、俺に攻めてくる様子はない。まるで、注意を引いてるようにも見え.....!
「クレア、しゃがめ!」
「え!?あ、はい!」
俺はクレアへと咄嗟に叫んだ。俺の予想が正しければ、俺の近くにいるオオカミは俺からクレアの注意を逸らすためのもの。
だとしたら、次に襲いにかかる相手は、俺から離れた位置で俺の様子を見ているクレアだ。
この森に住むオオカミなら、俺達から姿を隠すことなど造作もないだろう。加えて、音を立てずに忍び寄ることも可能のはず。ならば、クレアを襲うのも簡単だろう。
すると、俺の読み通りクレアがしゃがんだタイミングで、クレアが立っていた時の首辺りに向かって一匹のオオカミが飛び掛かった。
しかし、クレアには当然当たらない。そして、俺はクレアに声をかけた時に同時に走り出していた。
「ずる賢い真似しやがって!」
俺はそのオオカミへと近づいていくとそのオオカミに向かって、剣へと変えた右腕を突き出した。しかし、オオカミは俺の攻撃を読んで咄嗟に避けた。
「私をあまり舐めないで!」
するとその時、立ち上がったクレアは足を思いっきり振り上げるとそのオオカミの胴体を蹴り上げた。
その攻撃によって、オオカミは死に体となって宙を舞う。その光景に俺は思わず苦笑いだ。
そういえば、クレアは戦い方は知らないけど、<身体強化>の魔法によって常人以上の筋力値になっているんだっけな。だから、蹴られたオオカミが舞うのも当然か。
俺はそのオオカミに近づくと一気に跳んで、右腕を横に薙ぎ払った。その攻撃によって、オオカミの頭が飛ぶ。その時、クレアが叫んだ。
「カイトさん、後ろ!」
「OK。オオカミさんよ、それは蛮勇っていうんだぜ」
俺はクレアの声で後ろに振り返るとオオカミが一気に飛び掛かってきた。そこに、俺はあえて近づいていき、両手の指を全て剣へと変えた。
そして、オオカミの胴体に指を突き立てると一気に掻っ捌く。
俺はギリギリオオカミに噛みつかれる前に殺しきることが出来た。そのことに俺は安堵の息を吐く。
戦闘は計三回は経験したが、やはりこの独特の緊張感は中々に疲れる。どこか慣れているような節があるとはいえ、慣れるものなら早く慣れてしまいたい。
「お疲れ様、カイトさん。役に立てなくてごめんね」
「いいよ。別に戦えるようになることが、全てじゃない。それに、戦えなくたって復讐を果たす方法だってあるんだ。別に気にすることはないさ」
「そう.....だね」
クレアは俺の言葉を聞いても浮かないような顔を見せた。まあ、こればっかりはどうフォローしたらいいかわからない。
今のクレアは、戦えないことに罪悪感を抱えている。俺的には戦えないとは完全には思わないが、それでも通用するのは魔物で、それも知能の低い本能的な魔物に限るだろう。
もし、魔物に道具を使うものがいたり、先ほどのオオカミのように作戦を持っていたりするともうそれだけで、戦う手段がないというのは分が悪くなる。
それに、クレアの戦い方では、確実に間合いが狭くなるので、懐に入られればそれだけで終わりだ。
だから、せめて剣を渡してやりたかったのだが.....ここは、無理してでも剣を頼んでみるべきだっただろうか。
俺は過去の選択を後悔しながらも、それをクレアへと悟らせないように話かける。
「クレア、丁度食料も調達できたことだし、飯も食ってないから食事にしないか?」
「うん.....といいたいところなんだけど、オオカミの血の臭いがしばらく経過してしまったせいで、他から魔物達が寄ってきています。ほら、耳を澄ましてみて」
俺はクレアに言われた通り耳を澄ませると遠くの方から魔物の唸り声のようなものが聞こえる。
しかも、それは周りから。そのことに俺は思わず苦笑いを浮かべる。さすがに勝てる気がしないと。
「カイトさん、ここから急いで離れましょう!」
「そうだな」
そして、俺達は崖へと向かって走り出した。それからしばらくして、崖へと辿り着いた。
そこには確かに植物が生えているが、目的の薬草は見当たらない。あるのは、モドキだけだ。そこで、俺はふと崖下を除いてみた。するとそこには、薬草が。
「はあ.....行ってくる」
「それじゃあ、この縄を木に結んでくるよ」
俺はあらかじめ持ってきていた縄を胴体に結びつけると下へと降りていく。その間にクレアは縄を木へと結びつけた。
それから、俺は慎重に降りていく。崖の地質はかなりもろい。だが、剣にした指を崖に突き立てることで何とかなっている。
「よし、薬草ゲット―――――――――」
「きゃああ!」
「え?」
俺は上の方からクレアの声を聞いた。そして、思わずその方向に見てみるとなぜかクレアが崖から飛び降りていた。
別作の「神逆のクラウン」も良かったら読んでみてください




