第13剣 落下
俺は思わず上を見て呆然としていた。そこには太陽に照らされて輝く髪に、バランスの取れたスタイルに、可愛らしいフェイスのクレアが崖から飛び降りているからだ。そのことに俺は驚きが隠しきれない。
すると、クレアがどうして崖から飛び降りたのかがわかった。なぜならクレアが崖から出て着た瞬間、すぐ後に続くようにでかい猪の魔物が現れたからだ。そして、崖には熊の魔物が吠えながら地団駄を踏んでいる。
その光景で俺はだいたいのこと理解した。なら、次起こすべき行動はクレアの救出だ。とはいえ、どうしたものか。
クレアは勢いよく弾き飛ばされた影響か思っているよりも遠くへ飛ばされている。
安全に助ける方法とすれば、縄に括り付けられている俺がクレアをキャッチしてもとの場所に戻ることだが、その場には熊の魔物がいる。
まさに前門の虎後門の狼といった状況か。全く序盤からいろいろと起こりすぎていないか?
「クレア、今助ける!」
俺は胴に括り付けた紐を指を剣にして切るとその紐を右手にしっかりと掴んだ。そして、崖を蹴り上がりながら、クレアに向かって思いっきり跳ぶと左腕を伸ばした。
「クレア!俺の手を掴め!」
「はい!」
俺は届かないと判断してから咄嗟に叫ぶとクレアは俺の言葉に反応して、両手で俺の左手を掴んだ。
すると、俺達は振り子のようにして加速しながら戻り始め、崖の側面に叩きつけられそうになる。
しかし、俺はその壁へと足を伸ばして突き立てた。正直、凄い痛い。だが、ここで膝を折ってしまえば、クレアが崖に叩きつけられてしまう。勢いがなくなるまで踏ん張れ、俺!
それから少しして、勢いがなくなると一先ず安堵の息を吐いた。そして、俺はクレアへと声をかける。
「大丈夫だったか?」
「うん......迷惑かけてごめんなさい」
「まあ、気にすんな。大方、熊が猪を追い詰めようと崖と誘導した所で、その崖の場所が丁度クレアの場所だったという感じだろう。そして、猪突猛進って言葉があるぐらいだ。止まりきれずにクレアに衝突しながら崖に飛び降りたって感じだろ」
「凄い!......どうしてそこまでわかったの?」
「まあ、状況を論理的に考えただけさ。それよりも......」
俺は思わず苦笑いいながら、これからどうするかを考えた。俺が苦笑いしている原因は、猪を追いかけた熊が、猪から俺達へと標的を変えて今の尚崖の端でスタンバっているからだ。
俺達が落ちたら落ちたで、崖の下へと向かい食らおうとでも考えているのか。オオカミのような集団行動ではないから、そこまでの知能があるとは考えにくいが、ないとも限らない。
それに、あまり時間はかけれない。俺とクレアの緊張した汗によって、手が汗ばみ始め滑り始めている。
そのことに、俺はさらに焦りが加速される。しかし、上がるにしても、俺の筋力では今の状態でクレアを崖まで引き上げることは出来ない。
そして、上がった所で熊に襲われるのがオチ。なら、そもそも上に上がるという選択肢は無くなる。
なら、下に降りるという選択肢になるが......この崖は大蛇の時みたいなちょっとした崖よりもはるかに高い。
その高所による恐怖と先に下へと落ちていった猪の無残な死体が、俺達の恐怖値を上げていく。不味い、右手も手汗で徐々に滑り始めている。どうする?どうすればいい?
その時、俺は先ほど自身を固定する補助的な感じで、崖に剣にした指を指したことを思い出した。
俺はそれを思い出すと一つだけ安全に降りられる可能性を見つけた。しかし、賭け要素が強すぎるし、《《俺自身が持つかわからない》》。
しかし、今更そんなことを考えている暇はないか。リスクを承知で動き出すしかない。上はもう選択肢にない。なら、下に行くしかない。
俺は一つ大きく息を吐くと気合を入れるように上にいる熊に言った。
「残念だったな。もう会うことはなさそうだ。じゃあな!」
「......え?」
俺が熊にそう言うと右手の紐を離した。そして、重力に従うままに落ちていく。そんな俺の行動にクレアは思わず驚いたような表情を見せた。まあ、当然の反応だろう。なんせ真っ逆さまに落ちていくんだから。だがな!
俺はクレアの手を引いて寄せる。そして、咄嗟に左手をクレアの腰へと添えて抱き寄せた。そのことに、クレアは思わず顔を赤くさせる。そんなクレアに俺は言った。
「大丈夫、信じろ」
「!.....わかったよ」
俺はなんとか体勢を変えて、頭が天へと向くように直すと右腕を剣に変えた。そして、同時に両足も剣に変える。
それから、剣にしたそれらを思いっきり崖へと突き刺した。その剣は深々と崖の側面へと刺さっていくが、重力によって引きづられて行く。
「くっ!」
ガガガガガと崖を抉っていく音が聞こえ、砕けた瓦礫が飛んでくる。しかし、俺はそれで頬に切り傷が出来ようと脇腹に刺さろうと必死に堪え続けた。
だが、勢いは止まらない。クレアを含めた二人分の重さのせいか、段々と刺さりが甘くなり始めている。
「おらああああ!」
俺は右腕を強く押し込んだ。右脚も、左脚もしっかりと刺した。そして、未だかなりの速さの中、落ちていく。そのことに俺は思わず悔しそうに口を歪めた。クソ、どうしてスピードが落ちない!
「ぐっ!.......ああ!」
俺は不意に痛みが走った。それは丁度剣にしているところから。何が起こっているのか、俺にはわからない。これまでに剣にした脚を噛まれたことがあったが、その時に痛みは感じなかった。
俺はふと剣を見てみる。すると、痛みを感じる原因がわかり、俺は思わず目を見開いた。
それは、俺の右腕が欠け始めているのだ。少しずつ少しずつヒビを大きくしていき、バラバラと砕けさせていく。このせいで痛みを感じているのか。
するとその時、クレアがカイトへと話しかける。
「カイトさん!魔法とはイメージです。イメージが強ければ、大抵何とかなります!」
「なんとも力が入りづらいアドバイス、ありがとな。そんじゃあ、言われた通りにやってみるか」
俺はそう言うと目を閉じて、痛みに堪えながら自身の剣が修復され、より強固になっていくのをイメージしていく。
だが、やはり痛みがその集中を削いでいく。そのことに俺は苛立ち始める。
その時、俺の耳がふいに手で覆われた。それはもちろん、クレアのものだ。
「カイトさん、音が少しでも静かになればと思い、勝手ながらこうさせてもらうよ」
「ありがとな。風切音も鬱陶しかったんだ。これで、より集中できる」
俺はクレアの力を借りてどんどん意識を思考の沼へと押し込んでいった。イメージするは剣は。その剣はより固く、より強く、そして欠けることない唯一無二の剣。今だ!
「進化しろ、俺の剣!」
俺がそう叫ぶと崖に刺さっていた剣は神々しく光り始め、その刀身を修復した。そして、先ほどよりも若干重くなったような感じもした。だが、これで痛みはなくなった。ならもう、大丈夫だ。
俺はクレアをより強く抱き寄せるとそのまま下に落ちていった。すると、段々と速さが落ちていき、俺達が跳んでも安全に着地できるような高さまでやってくる。
そして、ついに落下は完全に止まった。
それから、俺はクレアを先に降ろすと剣を元に戻しながら、自分も地面へと着地した。
「あ~、疲れた~」
「お疲れ様だね」
俺は思わず地面に尻もちをつくと大の字に寝転がった。そして、安堵と緊張の緩和から緩んだ口で、荒く呼吸をする。酸素、酸素が欲しい~。そんなことをしていると疲れの波がどっと押し寄せた。
俺はその波に飲まれるままに意識を暗くした。
別作の「神逆のクラウン」も良かったら読んでみてください




