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13/13

13.

 声を頼りに男を探して駆け回る――まるで鬼ごっこだ。


 この場合の鬼は私で、ルールは顔も知らない男を助けたら勝ち、と全く違うものではあるのだが。

 だが勝てばいいことがあるかもしれないところは同じである。


 そう思うと一層気合いが入って、自然と地面を蹴る力も強くなる。そのせいで何度か地に落ちた小枝をパキリと折ってしまっているのだが、その音に気づいている気配はない。

 男が逃げるのに必死なのと同じように相手も追って捕らえることに必死なのだろう。もしくは耳が良くないタイプの魔物か。

 一番考えたくないのは――。

 そこまで思考がたどり着くとパタリと助けを呼ぶ声が途絶えた。けれど男の姿はちょうど今し方視界に捕らえたところである。


 そして男を追っていたものの正体も。


 男が声を上げなくなったのは命を落としたからではない。男の逃げた先は賊に囲まれてしまったのだ。おおかたそこに向かって追い込まれていたということだろう。


 もう助けを求めることを止めて、死を覚悟しているのだろう。


 魔物でなかったのは残念だったけど、間に合って良かったわ。

 正義の味方を気取るつもりはないが、男を囲んでいる賊達には見覚えがある。


 叔父と手を組んでいた集団である。

 おそらく叔父が捕まったことにより、一番のパトロンを失ったのだろう……。


 追いかけられた男にとっては何という災難だろう。けれど私にとっては絶好のチャンスである。


 日頃の行いがいい私に、神様がプレゼントを与えてくれたんだわ!


 彼らは叔父の下でしていたことは人身売買と美術品や宝飾品などの強奪である。なぜか網から逃げ延びているみたいだけど、余罪は大量に見つかることだろう。


 つまりこの集団を潰しても構わないってことよね!


 高ぶる気持ちを潜めて音を立てないように集団へと近づく。追っていた男がよほどの獲物なのか、注意力は散漫しているようで全くこちらに気づく気配はない。目視できるだけで5人もいるのにそれってどうなんだろうと思わなくはない。けれど今の私には好都合だ。



 潰すと決めたからには焦らないことが重要だ。

 もちろん被害者らしき男性の命が最優先だが、遠くから見ている限りどうもさっさと殺すということはなさそうだ。

 まぁ殺すならサクっといっちゃってただろうし、目的は彼の持った情報か、何かがなければ得られないものなのだろう。


 ――となれば落ち着いて観察するところから始めよう。

 なにせ私は彼らの顔は知っているものの、使う武器や魔法までは知らない。叔父の目がある状況ではさすがにそこまでは調べられなかったのだ。


 魔法は見た目じゃわからないが、武器や魔法道具なら対策のしようがある。とはいっても細かいこととか苦手だから、気を付ける程度だけど。それでも怪我はうんと減るものだ。


 今は怪我しても治療してくれる人いないから気を付けないと!


 安全第一を胸に刻んで、気づかれないように身体を低くして前進する。足下の小枝はもちろん、草がすれる音にすら気を配る。ここでバレてしまったら男の安全は保証できなくなってしまう。だから慎重に、慎重にと近づいていく。


 そして木5本分ほどの距離まで近づいて、賊の手元を確認する。


 脅すのが目的だからだろう、男の近くに立っている賊2人が持っているのは短めのナイフ。そしてその周りに備えている賊は、城の騎士が携えているものと比べてしまうと頼りなく思えるロングソードを構えている。

 魔法道具は目視できないけれど、リーダー格の男が腰に下げている麻袋が怪しさを醸し出している。

 どんなものかが分かれば発動条件も絞り込めるのだが……まぁ使わせないようにすればいっか!


 狙撃ポイントをその場所に定めて、銃を構える。狙うのはリーダー格の男の手元である。小さく息を吸って、止める。焦る気持ちは不思議とない。


 殺しはしない。

 彼らはビルドウルフと違って私の命を狙っているわけではない。ましてやツノウサギのように食料になってくれることも。

 だから生きて捕らえる。


 そして罪を償ってもらわないと――。


 賊の一人が男に向かってナイフを滑らせようとしたタイミングで、銃の引き金を引いた。

 球は見事に男の手に当たり、その拍子にナイフを手放す。狙い通りだ。

 戦闘開始の合図を察したらしい賊達が狙撃した場所へと向かって突撃してくるが、私だってバカじゃない。

 その場から走り出し、手を押さえ込む男に二発、三発と足に打ち込んでいく。そしてへたりこんでいる男の頭に蹴りを一発加えて気絶させる。


「あなたはそこに隠れてて」

「は、はい~」

 そして呆然としている男に叱責を飛ばしてから、バカみたいにみんな同じ方向に走っていった男達が戻ってくるのを待つ。


 逃げて――はいないだろう。

 いつ帰ってきてもいいようにと、ファイティングポーズで待ち望む。

 同じように銃で戦闘不能にしてもいいのだが、彼らの剣の構え方がどうも気になるのよね……。

 まるで剣を初めてもったみたいに……。

 だが彼らは依頼があれば強盗もこなしてきた集団だ。現に今だって剣で人を脅している。


 それに対人戦闘に慣れているはずの人間が、揃いも揃って敵を探しに持ち場を離れるか?


 罠かしら?


 その時は卑怯を承知で、そこに転がしてある男を人質に使うことにしよう。

 だがもしも彼らがずぶの素人だとしたら……銃は危険だ。まだあまり扱いに慣れていない銃を使えば、加減を間違う可能性が高い。


 油断はせず、けれど殺さないように……って意外と難しいわね……。


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