Chapter_09 エレオスの戦い
「がああああああああああ!」
叫びを上げたのは仮面を付け鉄製の爪を扱うヴァンクールの兵士だった。
深い森の中、僕、エレオスは奴等と戦っていた。
「ちくしょうが、たった一人に勝てないのかよ!」
嘆く兵士。奴等のアジトがどこにあるのかを聞き出す為戦闘の真っ最中だった。
この辺りは第七の一族の聖なる場所に近い位置にある、奴等は秘密の場所を探しているらしく、知られる訳にはいかない。
「やめておけ、君達じゃ僕に勝てない」
「ふざけやがって、ギタギタにしてやる」
兵士達に取り囲まれた、数は六人、僕の大剣『アタンシオン』を握り締め、奴等を睨む。いつでも来い、逃げも隠れもしない。
奴等は一斉に襲い掛かる。アタンシオンを真横に構え、そのまま振り抜く。空気を食い散らす如く突き進み、暴風の音を奏でて巻き込む。
「「「ぐああああああああ!」」」
見事奴等に攻撃がヒットして外へと吹き飛ぶ。
ある者は木にぶつかり、またある者は地面に落ちて気を失う。
「ぐっ……」
一人だけ気絶せずに残しておいた、アジトの場所をを訊き出す為に。
「答えろ、君達ヴァンクールのアジトはどこだ?」
「く、誰が貴様なんかに教えるか!」
威勢の良い叫びだが、僕が訊きたい答えでは無い。奴の隣り辺りに思いっきり剣を振り落とす、轟音と共に煙が舞う。
「うっ……ひ、ひぃぃぃ!」
兵士の隣には奴と同じ程の巨大な穴が出現していた、その穴を奴は震えながら愕然と見ていた。脅しだが、小物ならこれで吐くだろう。
「次は君がこうなる。跡形も無く……さぁ、どうする?」
「わ、分かった、分かったから……やめてくれ!」
「話してくれれば僕は何もしない。約束する」
「本当だな、本当に本当なんだな!」
しつこい奴だ。本当だと何度も言ってやるとようやく信じたらしい。
あの日、先生の元を旅立ってから今まで奴等から情報を訊き出そうと奮闘していたが、奴等は数十人編成の隊を作り、捜索していた。
僕の姿がバレたら動き難くなる。そこで、小数で動くのを待っていた。ようやくこの時が来たか。
「わ、我々のアジトは幻想の大陸で一番高い山の近くに谷にある……そこに城がある。それが我々のアジトだ」
一番高い山、確か大陸の中央に広がる砂漠に高い山が存在するはず。
そこに奴等のアジトがあるのか。
「あそこか……」
奴に背を見せ後を去る。すると奴は起き上がり、牙を向く。
「馬鹿め!」
鉄製の爪を横に抉る様に放った。
「やはりな」
振り返りながら屈み攻撃を回避、凶器が頭上を通り過ぎるのを確認して顔面を思いっきり殴ってやった。その衝撃で仮面が割れ、素顔を曝しながら気絶する。威厳ある髭面の男か、小物だな。
「卑怯者め。さて、ヴァンクールのアジトへと向かうか」
エリス待っていてくれ、必ず僕が奴等を潰し、平和な時間を勝ち取る。
「へぇ、また強くなったなエレオス」
急な声が耳に噛み付いた。この声を僕は知っている、声の方へ振り返って睨む。
森の奥地から現れたのは裏切り者、エフニディだった。
「エフニディ!」
「がははは! エレオス久し振りだな!」
しまった、奴に見つかるとは。周りに神経を集中させる。どうやらエフニディ一人らしい。
「君がシンとライを殺したと聞いているぞ! 僕は君を許す訳にはいかない!」
「ふ、ふふ、がはははははははは! エレオスはあいつらと仲良しだったなぁ、あいつらの最後を教えてやろうか?」
「エフニディーー!」
風を切るかの様に疾走する。大剣を構え、轟音と共に振り落とす。巨大な地響きが辺りを支配し、地面に穴を生む。
エフニディはそれを避け、トンファーを回転させながら僕に攻撃を向かわせた。
「ぐっ!」
顔面を紙一重にトンファーが暴風を残して通過。そこを見逃さない、暴風を連れて行く奴の腕を掴み、自分の能力を発動させる。
「ぐぅ! な! 体が地面にめり込む!」
今のエフニディの体重は数倍にまで膨れ上がっている。これに囚われたら誰であろうと抜け出せはしない。
が、その思考は爆ぜた。
「ふっ、がははは! エレオス、俺は昔とはもう違うんだ!」
目を疑った。何倍もの体重になった体を奴は動かし始める。
馬鹿な! 動けるはずが無い。どうなっているんだ。
「俺はな、筋力増強を促す薬のおかげで筋力が上がっている。これくらい何とも無いぞ! 残念だったなエレオス!」
エフニディは空いている手から針を取り出し放る。直感で毒針だと思った。掴んだ腕を放し、針を避け、距離を取る。
「ちぃ、避けやがったか。素早い野郎だ」
薬でここまで強くなれるものなのか? 何倍もの体重にしてやったのに、それに絶えうる筋力だと? 考えても分からないか。今はそんな事は後回しだ。
エフニディをどう倒すかを考えるんだ、奴は昔より動きが速くなっている。巨大な刀身では細かい動きについて行けないか。
なら、あれを出そう。
僕は柄を“取り外した”。この大剣の柄は抜ける構造になっている。そこには短剣が収まっている。つまり大剣自体この短剣の鞘とみても支障はない。
「何! 剣にそんなカラクリがあったのか」
大剣は破壊力があるが、小回りが利かない。しかしこの短剣ならば小回りが利くし防御もしやすい。が、攻撃力に乏しい。相手によって戦いのスタイルを代える剣、それがアタンシオンだ。
「行くぞ、エフニディ! 僕の本気を見せてやる」
「はん! 返り討ちにしてやる!」
標的を定めて一気に地を蹴る。同時にトンファーを回転させながら奴もこちらに突っ込む。トンファーは遠心力を味方にした一撃を撃つ。それは重く、破壊力が凄まじくトンファーは防御も出来る優れもの。まさに汎用型だ。ただ、射程距離が短いのが弱点。
「死ね、死ね、死を曝せ!」
恐ろしく速い死を纏わせた一撃が奴の右腕から放たれ、僕に迫る。だが、それを紙一重で体を反らし躱す事に成功した。
安堵もつけぬまま透かさず左からの攻撃が待っていた。それを短剣で防ぐ。接触音が響いて耳が痛い。蹴りを放ち、エフニディの腹に直撃。
「ぐっ……」
「まだだ!」
そのまま奴の顎に拳を送る。すると奴はふわりと空中に浮き、もう一撃蹴りを食らわせて吹き飛ばす。
「がああああ!」
直ぐ大剣の側に駆け寄り、短剣を接続、一体となったアタンシオン握り締めて奴に向かって行く。
一気に叩き潰してやる。手で胸に触れて体重を極限まで軽くし、跳躍。軽くなっても筋力は変わらない、つまり力は元のまま軽くなった分だけ高くジャンプ出来る。
上空から奴を眺める。一気に剣を振り上げ、そのまま落とす、落下する途中剣の重さを何倍にしながら。
その重さと重力に身を任せた一撃は僕の技の中で最大の攻撃力を持つ。
「おおおおおおお!」
シンとライの敵だ、潰れろ! 渾身の一撃がエフニディの頭上に。
取った。
しかし、予想外の事が起きる。
一瞬の内に奴が姿をその場所から消えさせていたのだ。
そんな馬鹿な。奴は地面に叩き付けられ、動けないはずだったのに。
そして一撃は轟音を生む。
辺りに砂煙が舞っている。体制を立て直し、剣を構え視界削れる場所に視線を集める。
「なんだ? もう一人誰か……いる?」
砂煙の向こうに影を二つ確認した。一人はエフニディの筈、ならもう一人は誰だ?
砂煙が薄まり、謎の人物が姿を現し始めた。そいつはエフニディの襟を片手で掴み、僕の攻撃から退避させていた。
削れた視界から現れた人物の顔を凝視する。
「……な、き、貴様は……まさか!」
馬鹿な。奴だと言うのか? まさかあいつは、あいつは……。
「プセバデス! 貴様はプセバデスか!」
目の前にいる人物は槍を持った敵、プセバデスがそこにいた。奴がなぜここに?
混乱する僕を余所に、プセバデスの言葉が耳奥に噛み付く。
「エレオスか、久し振りだな」
「プセバデス、貴様が何故そこにいる!」
「我はヴァンクールの守りての四人、守護四神将の一人だ」
守護四神将だと? まさか、そんな。目の前にいる男、プセバデスを僕は昔から知っている、だからこそ動揺が隠せない。
「貴様が敵ならば僕は戦う。巫女を守る為に!」
「来い、我にお前の力を見せてみろ!」
プセバデスが進撃を開始。速い、気が付くと目と鼻の先に現れ、槍を連続に穿つ。
無数なる攻撃が急所狙い、剣で防御を余儀無くされる。
「どうした、守るだけで精一杯かエレオス!」
「くっ、僕は、許さない。貴様だけは!」
槍を防いでいる為大剣は操れない。ならあれしかない、迷う事無く短剣を抜き大剣を盾として使う事にした。
大剣の中央には握れる部分があり、そこを握りプセバデスに挑む。
「我に向かって来たな、面白い!」
剣の盾で槍を防ぎながら短剣で切り掛かる。狙うは足、狂い無く真っ直ぐに短剣を向かわせた。
が、
「甘い!」
プセバデスは短剣を握る僕の手を掴んだ。ヤバイと咄嗟に短剣を何倍もの重さに変化。すると地面に二人の手が落下しめり込む。今の重力操作で槍の動きが止まった。盾にしていた剣の刃をプセバデスに向けた。
攻撃は間違いなくプセバデスに当たる、筈だった。だが奴は素早く避けたのだ。その時に奴の右腕に傷が付く。
掴んでいた手を離し、僕との距離が遠くに。かすり傷しか付けられなかったか。
「ふっ……我に傷を付けるとは、成長している様だなエレオス」
「馴々しく僕の名を呼ぶな。貴様だけには言われたくなどない!」
怒りが込み上げて来る。なんでヴァンクールにいるんだ。なんで敵となった。なんで……。
あふれる感情を押さえるのに必死だった。だから、この場所に第三者が居る事に気がつけなかった。
「面白い事してるね! ボクも仲間に入れてよ!」
子供の声が突然響く、どこから聞こえる? 辺りを見回すと森の奥からそいつが姿を現す。
青髪の子供。なんでこんなところに子供が?
「不思議な顔しちゃって。こんちは、ボクの名前はサージュ・ボン。守護四神将の一人だよ!」
こんな子供が守護四神将だって言うのか? もしそうならば三対一で勝ち目はない。
「サージュ、なぜお前がここにいる?」
「暇だったからね、プセバデスがちゃんとやってるか見に来ちゃった! ……さて、ボクにも遊ばせてよ」
少年は僕を眺めあざ笑う。その笑みを浮かべた瞬間、背後からそれは飛び出た。
それは四足の獣、確かライオンとの名前だったか。だがただのライオンではない。背中に鳥の翼があり、尻尾が蛇となっている。
そしてライオンの体は真っ黒に染まっていた。
「ボクの“影”から生まれた下部だよ。さぁ、殺っちゃえ!」
黒き獣は咆哮と共に襲い掛かり牙を向く。翼を広げ、天高く舞い上がり滑空する。
大剣を握り締め、化け物を迎え撃つ。
『ガアアアアアア!』
短剣を元に戻し、巨大な牙をなぎ払う如く振り上げる。
その一撃が化け物を無へと帰した。
「お、殺られちゃった。でも、これなら?」
話し終わるのと同時にまた背後から化け物が生み出され叫ぶ。今度は数十体もの化け物が群れて来た、形がそれぞれ異なり、犬や鳥の形をした化け物ばかり。
こんな大群、一人では無理だ。
「行っけ~! 食べちゃえ!」
森の奥へと駆け出す。ここは一度引くしかない、草木を掻き分けて走る。後ろから咆哮を撒き散らしながら奴等が迫っていた。
黒い影の化け物共は恐ろしく速い。今にも迫る勢いだ。プセバデス達の姿が見えない様だが、どうやら奴等は何とか撒いたみたいだ。しかし化け物はピッタリとくっついて離れない。
真後ろに一匹に迫られ噛み付こうと飛び掛かる。それを剣を振るい、切り裂く。だが攻撃の為に止まってしまった、奴等はそれを見逃さず一斉に飛び掛かり獣一色に世界は塗られて変貌。
「くっ、数か多い!」
遠心力を味方に大剣を滑らせ数匹を倒し、直ぐ短剣を抜き、別の化け物を倒す。後二匹だ。一匹が地を駆け、そこから跳躍して僕に牙を。短剣でそいつを切り裂いた。
が、倒した化け物の後ろにもう一匹現れた。
ダメだ、殺られる。
「頭を伏せろ!」
誰かの叫び声が肩を掴む。
その声に反応し頭を伏せた。すると、茂みから男が飛び出して来た。その男は長い黒い髪を後ろで縛っており、髭を生やし、体格がいい中年の男性だ。男の手に握られていた武器が見慣れたものだった。
それは神代護が使っていた武器。
「乱撃!」
無数の刀の刃が化け物を切り刻んで行き、化け物は姿を消した。あいつと同じ技を使うとは……何者だ?
「大丈夫か?」
「危ないところをありがとうございます。……あなたは?」
「わしの名は神代源一郎と言う」
神代? まさかこいつはあいつの父親か? なんて偶然だ。こんなところでこの人は何をしていた?
「あなたはもしかして、神代護の父親ですか?」
「な! 護を知っているのか! あいつは無事か! ……いや、こんなところで話していたら危ない。場所を移動しよう」
僕らは場所を移動し、ようやく安全そうな場所までやって来た。ここは崖の下にある川沿いの洞窟だ、丁度崖の上からこちらを見ても急な崖が死角になって見えなくなっている。
洞窟の中であいつの父親にこれまでの事を話して聞かせた。
「そうか、護は修行中か……」
神代源一郎は第七の一族に助けられていた。なんたる偶然だろう、彼は僕ら一族と接触していた。一族を守ると決めてくれたらしく、この辺りまでパトロールに来たのだと言う。
「一人でヴァンクールに立ち向かうのは無理だ。えっと、エレオス君だったな、組織を成している奴等はそう簡単にはいかないものだ」
「僕は待ってられません。エリスが平和に暮らせる様にしたいんです……どうすればいいのですか?」
神代源一郎は戦う仲間を増やす事が大切だと言う。僕は頭に血が上って先が見えてなかった様だ。たった一人で巨大な組織を倒すのは無理に近い、なら……。
「源一郎さん、僕と一緒に戦ってくれませんか? あなたは強い。化け物を倒した一撃見た時から素晴らしい戦いぶりでした」
「そうかな? いや、褒められるのはなれとらんからな、照れてしまうよ」
「源一郎さん、お願いします」
「……分かった。わしも奴等と戦う理由がある。お嬢ちゃんやリリーの為に……そうと決まれば仲間を作らなければな」
僕らはこれから奴等を倒す為に仲間探し、ヴァンクールを叩く! 奴等の汚らしい手には、エリスを触らせない。
僕はそう決心した。
◆
熱く、灼熱の太陽が遠慮無く降り注ぐ砂漠の世界。あたい、ヴァンクール守護四神将の一人、カーラは怒りを露にしながらヴァンクールのアジトに向かっていた。
「あの女さえ出てこなけりゃ……」
褐色の肌を持つ女戦士、奴等は姿を消し二か月もの間あたいは探し回った。町や村には潜伏してやしない。一体どこにいやがるってんだい!
こんな体たらくを総帥に報告するために戻って来たことにも腹が立つ。きっと総帥は怒るだろう、気が重いね。
砂漠をさ迷い地面が固くなる場所に遭遇した、砂漠を抜け山脈へと差し掛かる。道なりに進みようやくアジトが山の谷から姿を現した。
城の前まで来た時だ、城の方から誰かが歩いて来る。
「ん? あれはリヴァーレじゃないか……」
リヴァーレ・グローリアが目の前から歩いて来たのだ。あたいら守護四神将を束ねる存在。つまりはリーダー格と言う訳だ。
「どうしたんだい? あたいに何か用かい?」
「ああ、この二か月まったく連絡のないカーラが城に向かっていた。話もしたくなるだろ? 一体何があった?」
「あ、あの女さえ出てこなけりゃ巫女はとっくにあたいが連れ帰ってるよ!」
「あの女?」
リヴァーレにこれまでの事を話した。褐色の肌の女戦士の事を。その話をした途端、リヴァーレの顔が険しくなった。
「爪の武器に褐色の肌の女戦士だと! 間違いでは無いのか?」
「あ、ああ、間違いないよ」
「……そうか……そう言う事か」
「ど、どうしたのさ?」
「ついて来なさい。私は奴の居場所を知っている」
何だって?
「へぇ、そいつは面白そうじゃないか……」
口角が頬を突いた。




