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Chapter_20 影遊びの少年

 蠢く影、獣を形作りそれらは大群となって襲い来る。刀を振るいながら息子である護の事が心配だった。

 本当に一人で行かせて良かったのだろうかと、そんな事を今考えてもあいつは行ってしまった。なら、わしは目の前の敵を相手にするだけだ。

 守護四神将の一人である少年を観察する。

「あははは! 行け、行け! 食い殺せ! 骨も残すな! あははは!」

「全く、親はどんな躾をしているんだ。小さな子供か……戦いにくいな」

 子供に刃を向ける事が果たして出来るだろうか? もしかしたら利用されているだけなのかもしれないし、違うかもしれない。さて、どうしたものかな。

 わし以外の戦士達は黒い獣を相手にするだけで手一杯だった、わしがあの子を止めなくてはならないな。

「逃げるだけじゃ楽しくないよ! 早く戦ってよ!」

「最近の子は待つと言う事を知らないのか、まぁいい行くか、覚悟をするんだ!」

「ふん! ボクを舐めてるね、行け! しもべ達!」

 獣の群れが突進して来る、視界全てが黒一色に染まり、それらは個々に動き出す。獣が牙を剥き出し命の危機をもたらした。

 透かさず刀を放ち、獣を真っ二つに切り裂く。容赦なく倒した獣の後ろから新たな獣が出現し止まることを知らない。

 次々と現れる獣を消してはまた戦う、これを繰り返す。

「あっははは! このまま体力を削って動けなくなったら、止めを刺してあげるよ!」

「ふっ、頭が良いらしいがまだ子供だな、自分の作戦を口に出して言うものでは無いぞ? それに考えが見え透いている……行くぞ、覇皇極心流剣術、水龍、乱撃、流星、連続で行く!」

 獣の大群へ向かい水龍を発動、眼前にいたものを消滅させ休みなく乱撃、暫撃の連続攻撃を放ち獣狩りながら前へと突き進む。

 サージュとの距離が近付くまでもう直ぐ、ここで空へと舞い流星を発動、全体重を刀に込めて落下し、獣を潰す。

「目の前まで来たぞ、さぁどうするんだ坊や!」

「ボクが負けを認める分けないだろう!」

 叫び声と同じ瞬間、サージュの背後から獣が飛び出す、それはライオンだ、黒いたてがみに真紅の瞳、それが牙をむく。暫撃を繰り出し水平にライオンが切り裂かれ、崩れる様に消えた。

 まだこんな子供騙しをやり続ける気なのか?

「あははは! 影なら何でも作れるんだ! ボクのとっておき出してあげるよ!」

 すると獣共がピタリと動きを止め、サージュの影の中へと帰還してい、一体何をする気だ。

 全ての影が戻り切った瞬間、静けさが広がって行く。それは嵐の前の静けさを再現したような感覚だった。緊張感が膨らむ中、サージュは影から切り札を切った。それは天まで伸びて行く黒く歪な物。

「どうだ、凄いだろ!」

「なんと……こんな物まで出せるのか」

 空間を食い尽くす様に侵食し、絶対なる存在感、巨大で長い胴体、それは鱗で覆われ、巨大な口と鋭い目、そして角。これは龍だ、黒煙を纏った龍がそこに現れた。

「あっはははは! 行くよ、潰れても知らないからね! 行け! 噛み砕け!」

 雄叫びを上げながら黒龍が動き出す。先ずは天井を進み、頭上へと移動、隕石の様な落下が始まる。

『がああああああああ!』

「わし狙いか!」

 轟音と共に塵が舞う。

 衝撃で部屋全体が揺れた、どうにか回避に成功するが奴は床に穴を開け、その中へと潜り姿を眩ます。何処から来ると考えること数秒も経過しない内にまた振動が部屋を侵食する、また襲い掛かろうとしているのだろう。

 瞬時、右側の壁が壊れ欠片が舞う中、黒龍が姿を現す。口を開けながら迫る。それを右に回避、奴が通り過ぎて行く。

 こんな化け物と戦ったのは久し振りだが、奴は巨大過ぎる、一人で勝てるか分からない。

「苦戦してるね、ボクの力を舐めるからこうなるんだよ! さぁ、食われて死んでしまえ!」

「好き勝手にほざいて……さて、どうしたものかな」

 奴を操っている本体であるサージュを何とかしないとならなきだろう。だが、一つ気にかかる事がある、黒龍を出す前に何故全ての影を元に戻したのか。

 戻す必要があったと言う事なのか? あの黒龍と一緒に出していれば有利だっただろうに。

 これは仮説だが、出せる数に限りがあるのではないか? 外でも何体もの獣達を戦わせている、容量を相当食っている筈だ。なら、あれだけ巨大な影だ接近すれば勝機があるかもしれない。

 黒龍を掻い潜り、サージュを気絶させれば事は終わる。そう確信したわしは何としてでも黒龍を躱しサージュの元に近付く必要があった。

 上手くいくかは分からないが成功させなければなぶられて死ぬだけだ、刀を強く握り締め、覚悟を決める。

「あはは、早く食べられれば良いんだ!」

「さて、始めるかな。わしも年なんだろうな、息が上がって来た……認めたくないが、次が大勝負だ」

 一緒に戦ってくれていた七の戦士達も体力の限界の様だ、さどのみちやるしかない。

 力強く、地面を駆け抜けた。わしの狙いを読んでいたらしい、黒龍が阻む為に目の前に現れ巨大な口を開けた。ギリギリまで引き付けるんだ、奴との距離が凝縮し、ついにぶつかる。左横を黒い線が走った、ギリギリだったが紙一重で抜けることを成功させられた、わしの目に映るのはサージュのみ。

「覚悟しろ!」

「うわあああああああ! 助けて! ……なんてね!」

 不適な笑みに何が起きたのか分からなかった。峰打ちを打とうとしたのだが、逆にわしの胸から出血したいる、なんだ? 切られた?

 三本の線が胸にある、何があったとサージュを観察すると足元の影から獣の足が伸びている。

 わしを爪で切り裂いたのだ。

「ぐっ……」

 傷が深い、わしとした事が不覚だったか。咄嗟に後ろへと飛び距離を取るが痛みと出血で立ち暗みが発生し、地面に膝からついてしまう。くそ、痛みが激しい。

 サージュはそんなわしをニヤリと笑っていた、愉快そうに。

「やっぱりね、龍を出した時、影を戻したのはボクが仕掛けた罠なんだよ。勘がいい人なら使える影に制限があるのでは? なんて考えたでしょ? そう考えたのなら上手くいったって事! あははは、ボクの影はまだ出るんだよ!」

「はぁ、はぁ……まだ出せる? つまり、あと少ししか出せないと言う事だな?」

「……うるさいな、そうだよ。でも、そんなのを知ってどうするんだよ! もう動けないくせに! さっさと殺し……あ、そうだ、ボクが開発した薬の実験体になってもらおっかな」

「実験体だと?」

「ボクはね人体強化の薬を作っているんだよ! ある馬鹿にそれを試したらさ、強くなったけど頭がおかしくなっちゃったからね、あははは!」

 人体実験をしているのかこいつは、本当に子供か? この悪さは子供には思えない。勘に触る笑いを続けているサージュだった。

「さて、やっちゃおうかな!」

 ゆっくり歩いて来る、くそ身体が動かない、わしもここまでの様だな、護、必ずお嬢ちゃんを助け出すんだぞ。

 覚悟した時だった、この部屋全体に銃声が響く。

 サージュに向かって銃撃が放たれた、それを放った人物は後ろにいた。

「大丈夫? マモのパパ!」

「アリア! それに七の戦士とエレオスくん!」

「大丈夫ですか源一郎さん?」

 どうやら、他の守護四神将を打ち倒して仲間達がここまで追い付いた様だ。

「傷が深いわね、リール治してあげて」

「はい! 分かりましたっ!」

 七の女戦士がわしの傷に手をかざし光を放ち始める。すると、痛みがと引いて行くのを体感する。治癒系の能力か、傷が無くなるともう痛みはなかった。

「危なかったなぁ、もう少しで弾が当たるとこだったよ。あははは、雑魚がいっぱい増えたね、まぁいいや、殺しちゃお!」

 また黒龍が動き出す。また厄介になって来たぞ、早くここを突破しなければ、時間が余りない。

「みんな、あの黒龍を何とかしてくれないか? わしはその間に奴を何かする」

「分かりました、僕達で何とかします。源一郎さん、無茶をしないで下さい」

「ありがとうエレオスくん……さぁ、反撃をしようか」

 黒龍の猛撃、天井を進みながら雄叫びを放ち、襲い来る。それを受けてたつのはエレオスくんだ、大剣を振り上げ攻撃し、黒龍にヒットするが傷が浅い。即飛び上がって黒龍の上へと乗り、剣の能力で何倍も重くした一撃を食らわせる。

「今だ、アリア、リール!」

「分かったわ!」

「分かりましたっ!」

 アリアの銃撃、リールのハンマーが攻撃を仕掛け黒龍が地に落ちた。道は開けた、後は前に進むのみ。走る、早く先へと。

 サージュは影から複数の獣を出現させ一斉に襲わせる、それらと戦う事はない、何故ならその獣達はわしと戦っていた七の戦士達が引き受けてくれたのだ。

「感謝する、行くぞ!」

「くそ、甘く見るなよ! 隠し玉はまだあるんだからな!」

 影がサージュの身体を覆って行く。影の鎧が全身に纏わり付く、どうやら攻撃方法を遠距離から接近戦にした様だな、接近戦ならわしの得意とするところだ、負けてやれるか。

 一瞬で間合いを詰め、斬撃を放つ。だが、それを避けられた。

「見た目で判断するなよ! これを着ると、筋力や瞬発力が上がるんだ! ただ影で遊んでる訳じゃないやい!」

「その様だな、なら、格の違い……見せてやる、覇皇極心流剣術、乱撃!」

 複数の暫撃を奴に向かわせた。それら全て高速の動きで躱され、近距離まで接近を許してしまった。

「食っらえーー!」

 全身の鎧から針が飛び出した、それは長い槍の様な針。すぐに後ろへ飛び、避ける。

「厄介だな、あの鎧……」

「あっははは! ボクは強いんだ! あの頃のボクじゃない、ボクは強くなったんだぁ!」

「あの頃?」

「そうだよ……ボクはこの能力や頭脳の為に人とは見られなかったんだ。パパやママだってボクを化け物扱いをしたんだ! 周りの人達もボクを化け物と見ていた! ただ泣いていた、あの頃は……でも、総帥はボクを普通だと言ってくれたんだ! 嬉しかった、だから戦おうと思ったんだ、ヴァンクールの守護四神将として!」

「……あの人と同じだ、カーラと」

 アリアがそう漏らしていた。ヴァンクールの総帥はこんなに人に慕われる人物なのか。なら、どうしてこの幻想の大陸を支配しようとしている?

 聞いた話では先祖の敵を取る為だと聞いたが、そんな素晴らしい人物がやろうとするだろうか? わしの考えは間違っているか?

「戦う理由、それは分かった……だがその為にいらない血が流れるんだぞ!」

「うるさい! ボクの気持ちなんか分からないくせに!」

 もう、何を言っても駄目だろう。わしが信じているものの為に、ここを突破しなければならない。

 負けられない、やるしかない。

「決着を着けよう、覇皇極心流剣術、弾剣、この技を受けてもらうぞ」

「負けないもん! ボクは、ボクは、守護四神将なんだぁ!」

 視界が回転した、嫌、わし自身が回転しているのだ、遠心力を味方につける為に。

 弾剣、この技は遠心力をつけて、刀を槍投げの要領で投げ付けて刺す。急所は外すつもりだ、さぁ、意思と意思のぶつかりあいだ、負けていられるか。

「おおおおお! 飛び穿て、弾剣!」

「やらせるもんか、やらせる、もんかぁ!」

 サージュから放たれる針の雨、マシンガンの様にわしに降り懸かって来る。

 わしはサージュ目掛けて刀を投擲、針の中を駆け抜ける速さは衰える事無く、数十本の針に邪魔されよくとよ衰えはない。数針身体に食らってしまった、痛みが生まれるが致命傷では無い。

 サージュはようやく気が付いた、この刀が自分を倒す攻撃だと。針を刀に向け、止める為に発射した。何本、何十本、当たろうが止まらない。それだけの力を持った攻撃。

「止まれ止まれ止まれ止ま……」

 止まれと言いかけたがもう遅い、刀はサージュの左肩へと直撃した。鎧は砕け、生身の身体が姿を現し、サージュが吹き飛ぶ。

「うわぁああああ!」

 壁に叩き付けられ、苦痛の声を漏らしている。全ての鎧にヒビが入り、砕け散る。

 ここまでだ。

「嘘だ……このボクが……そんな……」

 黒龍が悲鳴を叫びながら崩れ消えて行く。つまり、能力を使い切ったと言う訳か。

「決着だ、君の負けだ、坊や」

「ボクが負けた? ううっ、総帥を守護しているボクら四神将がやられたんだ……これからどうしよう、ボクは総帥の為に戦ったのに……なのに、負けた」

「わしも守るものの為に戦っている、わし達は先を目指す、済まないな」

 ぶつかりあった思い、決着が付けば必ず片方が壊れる。サージュの泣き顔、いくら天才的な頭脳を持っていたとしても子供だ。

「ぐっ……刺さった針が多いな」

「マモのパパ、そんな乱暴に針を抜いちゃ駄目よ! リール、抜くの手伝って!」

 二人に手伝ってもらい、怪我を治してもらった。

「源一郎さん先を急ぎましょう、時間が無い」

「そうだな、行こう、エレオスくん」

 少年の涙を見て、痛む心、だが今は時間が無い。前に進まなければならない。

 影遊びの少年が遠のき、小さくなって行く。


 

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