Chapter_19 戦闘するアリア
一人、地面に倒れ気を失っている。その人物は七の戦士、口から血を流しているけど、死んではない。
こんな姿にさせた奴は今、そこら中を飛び回る。ただ走るだけなら問題ないけど彼女は異常体質者、瞬発力が異常であり目に止まらぬ速さで駆け抜け、撹乱を生じさせていた。
「速いわねこのおばさん、やっぱり守護四神将なのね」
「誰がおばさんだい! あたいは……」
「二十五でしょ? もう聞き飽きたわよ」
そんなにおばさんって言われたら怒るのかな? まぁ、あたしは若いから言われる心配はないしね。
て、死闘の中に何を考えてるのよ、目の前の敵に集中するだけなんだから。
あたしともう一人、七の戦士の一人が背中合わせになっている、どこから攻められても対応出来る様に。
その七の戦士は女性、年は多分あたしと近いと思う。青空を思わせる青いショートの髪に眼鏡をかけている。童顔で大きな瞳と少し赤み掛かった頬が特長だ。体は顔とは相対してグラマラスで胸が大きい子だ。
こんなに若い子が七の戦士だなんて。
「ねぇあなた、名前は何て言うの? あたしはアリア」
「私はリールです、よろしくです」
「ええ、よろしく。……さて、どうしたもんかな? あのおばさんすばしっこいから……ああもうイライラするわね、ニヤニヤ笑いながら走り回ってるし!」
そう言うとリールは驚いた声を出した、カーラの動きは速過ぎて姿が分からない。そんな状況で表情が分かるのが不思議で驚きの様だ。
「あ、あれが見えるんですか?」
「ええそうだけど……あたし昔から目が良いのよね、かなり遠くのものもはっきり見えるし、あのおばさんの表情までくっきり」
「……もしかしてアリアさん、あなたは異常体質者ではないんですか? 多分……異常視力、それなら能力者ではなくと見えると思うんです」
「あたしが異常体質者? ……そう言われると色んな所が納得出来るわね、数キロ先の人の顔だって識別出来ちゃうし……おっと、あのおばさんが仕掛けて来るみたい、リール、あたなは何か能力を持ってる?」
「私は治癒を持っています。あ、でも、戦う事だって出来ますよ?」
リールは背中に担いでいた物を握り締め、装備した。それは黒光りしたハンマーだ、彼女の身体は華奢に見えるのに良くこんな物を使えるな。
つまり接近戦が得意って訳ね、でも、相手は異常瞬発力を持っていてマモに聞いた話じゃ他にも能力もあるらしい。ちょっとやりづらいかもね。
「さっきから何を話ているんだい! おしゃべりな二人にお仕置が必要みたいね、行くよ!」
「リール! おばさんが来る、油断しないでね」
「は、はい! 頑張りますっ!」
「先手必勝よ!」
銃を両手に装備、引き金に指をかけ、引く。銃口から放たれた弾は抉る様に回転しながら進んで行く。その終着点はカーラ、彼女はそれを躱し、あたしの後ろに現れる、速い。
「さよならだね、小娘!」
「そんな事はさせません!」
リールのハンマーだ天空から落とす、その軌跡は線となり、真っ直ぐ落下。だが、回避され、また動き出して撹乱を始める。
「速いです、速過ぎです! これじゃ攻撃は当たらないです……どうしましょう」
「うろたえちゃ駄目! 何か弱点があるかもしれない、それを探すの!」
「でも、弱点なんてあるのですか?」
確かにどうしたら良いのだろうか? このままじゃ全滅してしまうかもしれない。考えるんだ。マモ達は無事に先に行けたかな? 無事を祈っているからね。
また背中を会わせ、カーラの攻撃に備える事にする。速過ぎる動き、それを止めるにはあの手しかないな。
「リール、あなた治癒が使えるって言ってたわね?」
「は、はい、どんな傷だって治してみせますっ! ……何か考えがあるんですか?」
「あたしが囮になってあのおばさんを誘うわ、その隙にあなたのハンマーで……お願いね」
捕まえるのは無理、ならこちらへと来る様に仕向けるしかない。さて、下手したらあたし死んじゃうわね。それでもやるしかないじゃない。
早くここを片付けて、マモを助けに行かなくちゃ。
「行くわよリール、覚悟を決めてね」
「私は最初から覚悟は決まっています、巫女様の為に戦う、それは絶対の事ですから」
「分かった……じゃあ行くわよ」
駆け出し大きく前へ、全くの無防備のまま。姿は見えている、やはりあたし目掛けて向かって来る。その手にはナイフ、狙われているのは心臓、躱せるかな?
「死にな、小娘!」
「がぁあ!」
痛覚が広がる、即死を免れる為に回避して左肩を貫かれた、血が流れ出て来る。生暖かくて、その熱が滴り落ちた。
「ぐっ、つ、捕まえたわ!」
ナイフを握り締めている腕を両手が捕まえた、逃がすもんかこのチャンスを。
「リール! 今よ!」
「はい! 行きますっ!」
突撃してくるリールはハンマーを握り締め、叩き付けようと掲げた。
「……なるほどね、小娘、あんたは陽動って訳だね。あはは、馬鹿だね、あたいには利かないよ?」
目を隠している前髪の隙間からカーラの目が現れ、リールと視線をぶつける。途端にリールの様子がおかしくなり始めた、いきなり止まり、辺りをキョロキョロと見回している。まるであたし達の姿が見えないみたいに。
「リール? 一体どうしたのよ!?」
「あははは! 無駄さ、あの小娘はあたいの幻の瞳で幻覚を見ているんだからね、しばらくはあのままさ」
幻? そうか、これがおばさんの能力なんだ。厄介な能力、幻を見せる目だなんて卑怯よ。
どうする? 掴んだのは良いけど、このままじゃ時間の問題ね、肩をやられているから手に上手く力が入らない。この手を放したら、やられる。
「苦しそうだね、大丈夫さ、一瞬で片付けてやるよ、あのお方の為にあたいに殺されな!」
「あのお方って、イデアの事ね、……どうしてあんな奴に忠誠を誓うのよ! この大陸を支配しようとしているのに!」
「そんな事はどうでも良いんだよ、大陸がどうなろうと知った事じゃ無い、イデア様の為ならあたいは死んでもいい、あたいの全てがそう願うんだよ!」
「どうして、そこまで奴を崇拝しているの?」
「……まぁいい、教えてあげるよ、これを見な」
カーラは髪をかき上げ素顔を曝す。あたしは驚愕してしまう、彼女の額に大きな傷跡があった。せっかくの美しい顔が傷跡に浸蝕されている。
「どうだい? 醜いだろう? 女としては致命的だよ。……この顔で、あたいはどれだけ酷い思いをしてきたか。愛した男がいた、その時はまだ傷跡は無かったからね、幸せだったよ。でもある時落石事故が起きてあたいは下敷きになった。幸い命は助かったけど……顔に傷が残った。男は醜くなったあたいを捨てた、捨てたのさ」
酷い、なんて男だ。彼女は敵だけど同情してしまう、同じ女として。
「そんなあたいをね、あたいの顔を、イデア様は美しいと言ってくれた! 嘘偽りも無い、情けでもない、真っ直ぐな気持ちで言ってくれた! どんなに嬉しかったか、どんなに救いになったか。醜いあたいを美しいと言ってくれたあのお方の為なら……命を賭けられる! あのお方が喜んでくれるなら、それがあたいの全て! 世界を敵にまわしても、この気持ち、思いは、変わらないんだよ!」
力一杯、ナイフを押し込む、その瞬間、激痛が身体を走り回り顔を苦痛に歪ませる。
痛い、これが彼女の思いの力、あたしは勝てるだろうか? これだけの意志を持つ彼女に。
「……あなたの気持ち、分かったわ、……でもね、こっちだって大陸の運命と、友達の命が掛かってるのよ! だから負けない、負けたくない、あたしの全てに誓ってあなたを倒す!」
瞬時、蹴りを発動。カーラの横腹に食い込む様に入る、すると彼女の顔が苦痛に染まり小さな喘ぎ声を吐く。
「ぐぅ、ううう、こ、小娘め!」
「リール! 目を覚ましなさい! リール!」
あたしの声、届くだろうか? ぼーっとして全く動かないリール、何度も名前を呼ぶ、目覚めて。
「……あれ? 私は一体? まさか、今見ていたのは……幻?」
「リール! ぼーっとして無いでおばさんにガツンと一発お願い!」
「え? ……あ、そうだった、よ、よし、行きますっ!」
ハンマーを構え直し、走り出す。カーラ目掛けて一直線、これで終わりよ。
「……甘いね、甘過ぎだよ!」
カーラと視線がぶつかる、なんて深い瞳。段々と吸い込まれて行きそう。
嫌、違う、もう吸い込まれてしまったんだ、幻の瞳に。
目の前が霞み、霧に包まれた。実際は幻だけれども、本物としか思えない霧に包まれてしまった。
油断した、これがカーラの能力なのね、どうしよう、このままじゃやられるだけだ。
「くっ、どうしたら……きゃあ!」
ナイフが刺さっていた場所が痛み出す。どうやらナイフを引き抜かれたみたいだ、なら、また攻撃が来る筈、ここを離れなきゃ。その思考は遅過ぎた、右太股に激痛、これは刺される痛み。
「ぎゃう! ううっ、くそ!」
『あははは、痛いかい小娘! あたいの姿が見えるかい?』
声だけは聞こえて来る、でも、少し曇った様な声、あたしを切り刻んで楽しむ様だ。
痛い、何とか立っていられるけど、動けない。このままやられるだけなんて、そんなの嫌よ、どうにかしなくちゃ。
幻術なら痛みで解けるものだけど、さっきナイフを引き抜かれた時に生じた痛み、それでは解けなかった。でも、リールはもう解けている。つまり、一定時間だけの効力じゃないのかしら? それならこれも時間が経てば戻る?
『さて、止めをさしてやるよ、あの人の為に死に……くっ!』
『アリアさんに手を出させません! 私が相手ですっ!』
どうやらリールがあたしを守ってくれているみたいだ、これなら時間を稼げる。でも、相手は守護四神将、安心出来ない。
耳をすませ、幻に取り付かれたが、耳は生きている。カーラの声の方を狙って撃つんだ。銃を構え、全神経を耳と人差し指に集める。
どこだ、どこにいる? 走る音、打撃の音、前者がカーラで、後者がリールね。
下手したらリールに当たってしまうかもしれない。でも、この状況を変化させる為には動かなければならない。やらなきゃ、あたしがやらなきゃ。
集中、足音目掛けて引き金を引く瞬間、叫んだ。
「リール! 避けて!」
反響する射撃音、撃った衝撃が手を伝い、腕を伝い、身体中に伝わる。肩の傷に痛みが走るが更にもう一撃放つ。心の中で幾度と当たれと繰り返す、次の瞬間、悲鳴が聞こえた。
『くっ! あ、あたいに当てただと? 一体どうしてだい……』
やった、カーラに当てる事が出来た。安堵が込み上げる中、視界が晴れる。
幻の効力が切れたんだ、すぐにカーラを直視。
「くぅう……あたいに当てるなんて、ふざけるな、くっ」
足だ、足にヒットしたみたい。右足を撃ち抜かれて足を引きずる。
「幻が解けたんですね、直ぐに傷を治しますからっ!」
駆け寄って来るリールは手を傷の上に近付けて光を放ち始める、するとみるみると痛みが引いていく。光が止まると傷は完治していた、さすがは七の戦士だな治すのが早い。
「ありがとうリール、もう痛くないわ」
「良かったです。……あの人はもう、速く動けないでしょうね、あの傷では戦えません」
「そうね、これで決着ね」
「……ふざけるな」
怒りを震わせた声があたし達を襲う、カーラは壁に寄り掛かり、何とか立っていた。
「あたいの負けだって? ふざけるな! 小娘共にあたいの思いが負ける筈が無い! あのお方の為に、あたいは戦う! 負ける分けない! あたいは……」
「いい加減にしなさい!」
あたしの声がこの場の空気を震わせる。
「あんたね、本当にその人を思うならこんな事をやめさせるべきだったのよ! 信念とかは分かるけど、大悪人になるって分かっていて何故止めようとしないのよ!」
「うるさい! 小娘に何が分かる! あたいの気持ち、分かるものか!」
「あんたの気持ち? 分かる分けないわよ! だってあたしはあんたじゃないもの! ……大切な人だから、間違った事は間違いだと教える、これが本当に思うって事じゃないの?」
これはあたしの考えだ、誰かに強制させる様なものでは無い。でも、言わずにはいられなかった。
「……あたいは間違っちゃいない、間違ってない……」
「もう行こうリール、後は彼女が答えを出す筈だから」
「はい、……皆さんが心配ですからね」
あたし達は駆け出して行く、彼女は動けなく、ただ力無くうずくまっていた。そんな姿がどんどんと小さくなって行く。
「あたし、間違った事を言っちゃったのかしら? 好きな人が望んでいる事を支持して力になる事……それとも間違いだと教えて目を覚まさせてあげる事……どっちが正しいんだろう?」
「アリアさん、この世界に正しい答えなんてありませんよ? 自分が信じたもの、それが自分なりの答えになると思うんです。他人にどんなに間違っていると言われても、信じているから、自分の信念を信じているから、それが答えなんじゃ無いでしょうか?」
「……そうかもしれないわね、あたしが信じている答え、カーラが信じている者、だからあたし達は対立し、戦ったんだ……」
自分の信じるものが答え、それこそが答えなのかもしれない。
さぁ、前に進もう、自分の信念を信じる為に、マモ達の力になる為に、エリを助ける為に。
力強く、この一歩を踏み出した。




