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異世界転生した俺が本物の戦士に脳を焼かれる話  作者: 廃くじら


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第15話~僧侶~

『…………』


故郷が燃えていた。


生まれ育った鉱山街が、気の良いドワーフたちが住む集落が、炎に包まれていた。


──いっそ、全て燃えてしまえば良かったのに。


マードレッドはそんなことを思いながら、紅い世界で呆然と立ち尽くす。


よく知る人たちがそこにいた。いつもシチューを差し入れてくれたアルナおばさん、金にうるさい運送屋のベッツ爺さん、この間赤ん坊が生まれたばかりのマーズ一家に父の友人で自分に剣を教えてくれたヒューマンのガンドルフォ、意地悪な幼馴染のベーリンに、他にもたくさん、たくさん。


集落の人たちは皆そこにいた。動いている。もう生きてはいないけれど。亡者となってこの世を彷徨っていた。


『────!!!』


目の前では今より少しだけ幼い自分が、泣きながら父の形見の剣を振るい、顔見知りの亡者たちを叩き潰していた。


これが夢だと理解していながら、マードレッドはその凄惨な光景を直視する。


目を逸らすことは出来ない。逃げることは出来ない。この惨状を引き起こしたのは自分の母。


お前にはこの地獄を終わらせる義務があるのだと、悪夢ががなり立てていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「司祭様。どうかご協力いただけないでしょうか……?」

「い、いやヨシュア君。君の言いたいことは理解できるが、我々にも規則というものがあってだね……」


この宿場町の太陽神神殿を取り仕切る司祭が、私のお願いに申し訳なさそうに顔を逸らす。


「住民たちが不安に思っています。彼らの不安を晴らすためにもどうか」


半月かけてアンデッド対策を整えるとマドさんに宣言した私は早速その翌日に町の太陽神神殿を訪問していた。目的は対アンデッド戦に長けた僧侶クレリックを紹介してもらうこと。太陽神は至高神の兄弟神であり、その教義は夜の眷属たるアンデッドに対して特に苛烈なものとなっている。その僧侶たちはいわば対アンデッド戦の専門家。アンデッド退治の協力を仰ぐ上でこれ以上の適任はない。


「む、無茶を言わんでくれ。いくら君の頼みであっても、無償で討伐など引き受けていては収拾が──他の者たちへの示しがつかんのだよ……」


しかしこの神殿の責任者である老司祭は、私が手を握って懇願しても頬を赤らめるばかりで首を縦に振ろうとしなかった。


神の奇跡は有料だ──誰かが高額な寄進無しには治癒呪文の一つも使ってくれない教団を皮肉った言葉だが、これに関しては教団の側にも言い分がある。


僧侶たちだって霞を食べて生きていけるわけではない。労働に対して対価を求めるのは人として当然の権利だ。加えて彼らの手にも限りがある。要望に対してはどこかで線を引かなければならなかった。とは言え一つ一つ事情を精査し勘案していたのではとても手が回らないし、どうしても恣意的な運用が混じってしまう。その為ほとんどの教団では画一的に、国家や領主の要請、あるいは教団全体の方針として行う活動を除き、定められた金銭的対価無しに奇跡を行使してはならないという規則が設けられていた。


「ですが、太陽神様にとってアンデッドは不倶戴天の仇敵でしょう?」

「そ、それはそうだが、我らとて噂一つ一つを潰していたのではとても手が回らん。アンデッドとはいえ戦うべき相手と場所は選ばねばならないのだよ。君の要請だけを特別扱いするわけには──ッ!」


──ツツゥ


私の指先が老司祭の首筋を撫でると、その身体がビクンと震えて言葉が途切れる。


「いや、だから……くふっ!?」

「別に私もルールを破れなんて言うつもりはありません。ただどなたかをパーティーメンバーとして紹介していただければ……」


無償での奇跡の行使は禁じられている。だが当然そこにも例外はあった。


その一つが僧侶が修行の一環として奇跡を行使する場合。修行中の僧侶が冒険者として奇跡を行使する分には一々対価を求める必要はない。まぁこれは本来依頼料の中に対価が含まれているからでもあるのだが、依頼でなければ奇跡を行使してはいけないというルールも存在しなかった。


私はこのルールの抜け穴をついて、司祭に部下を冒険者として紹介して欲しいとお願いしていた。


「そ、そうは言うが、それも決して簡単なことでは……!」


老司祭は息を荒げながら抵抗する。そもそも僧侶とは神の寵愛を受けたエリート、一方の冒険者は世間的にならず者と大差ないアウトローだ。


宗派や思想信条にもよるが、安定した神殿勤めを捨てて不安定で危険な冒険者になりたがる僧侶はあまり多くない。何らかの理想や目的のため、あるいは修行のために冒険者になる者は一定数いるが、それは決して上司の圧力により選ばせてよいものではなかった。


仮にもしそうした事案を部下が神殿本部に訴えでもしたら、司祭はその地位を利用して知人に利益を図ったとして厳しい処罰を受ける可能性さえあった。


「大丈夫。決して迷惑はおかけしません。司祭様は適当な方を紹介して下さるだけでいいんです。本人の説得は私がしますから……ね?」


しかし私は老司祭に身体を寄せ耳元で甘く囁く。決して嘘を吐いているつもりはない。要は本人が納得しさえすればいいのだ。ヨシュアが本気で“説得”すれば、老若男女を問わず大抵の人間はコントロールできる自信があった。


「いや、だが……」

「大丈夫。私に任せてください、司祭さ──」


これまで教義一筋でやってきて”人”に免疫のない老司祭は私のお願いに篭絡寸前。もうあと一押しで──



──ドゴォッ!!!



「ぶへらっ!!?」


横殴り──うん、比喩ではなく本当に横殴りに私のこめかみを襲った打撃に、私の身体は錐もみしながら吹き飛んだ。


しかしこの展開にも慣れたもの。私は神殿の床を転がりながらも辛うじて受け身をとり、すぐに立ち上がり抗議する。


「司祭様とのお話の途中にいきなり何するんですかマドさん!?」

「やかましい!!」


私を殴り飛ばしたマドさんは、何故か顔を真っ赤にして私を睨みつけていた。


「お前こそ神聖な神殿で何をやっとるんだ!! こんな──」


そこで彼女は、へたりと床に崩れ落ち頬を赤らめながら乱れた服を直す老司祭を蔑んだ目で一瞥。


「──こんな気色の悪いもの見せつけやがって!!」

「だから宿で結果を待っててくださいって言ったじゃないですか!?」

「やかましいわ!! そもそもこんな気色の悪い真似をするなと言うとるんだ!!」

「そんな……」


そこにまだ交渉途中の司祭がいるのにそんなことを言わないで欲しい。確かにいい歳した爺さんが美少年ヨシュア──自分で言うのもアレだが──に迫られて新しい扉を開いている光景はキモいが……うん、まぁ言い訳しようがなく無茶苦茶キモいが、これも僧侶を勧誘するためだ。


「マドさんのためにやってるんですよ!?」

「知るか!! こんな気色の悪いやり方で勧誘した僧侶なんぞ、キモ過ぎて仲間と呼びたくないわい!!」

「だからいいんじゃないですか!!」

「何がだからだ!?」

「下手に立派でまともな僧侶なんて勧誘したら私より先にマドさんと親しくなってしまうかもしれないでしょう!?」

「死ね」


──ドゴォォッ!!


二度目の拳は先ほどより鋭く、速く、私は受け身をとることもできず吹き飛ばされた。辛うじて意識はあるが、世界がぐるぐる回って動けない。


それを見てマドさんは嘆息一つ。そして改めて老司祭に視線をやり──


「…………」


改めて紹介を頼むべきかどうか迷っていたが結局嫌悪感が勝ったようだ。


「……失礼した。この馬鹿の話は忘れてくれ」

「あ……!」


老司祭の喉から切なそうな声が漏れる。


待って欲しいマドさん。あと一歩なんだ。この爺さんもそれを望んでいる。抵抗していたのはもっとして欲しいというアピールなんだよ──ゲフッ。


私はそう訴えたかったが、マドさんに襟首を引っ張られてずるずる引きずられ、首がしまって何も言えない。



「──あら、僧侶をお探しではないのですか?」



涼やかな女の声がマドさんの足を止める。


神殿の物陰から僧衣姿の女がクスクスと笑いながら姿を見せた。


「エルフ……」


マドさんが足を止め、尼僧に対し少し警戒の混じった声を漏らす。


その尼僧は銀髪のエルフだった。見た目は若いが実際のところは分からない。長身でスタイルが良く、細身で知られるエルフとしては珍しい母性的な身体的特徴を有していた。


「……何か用か?」


マドさんが硬い声音で尼僧に問う。


「あら、僧侶に用があるのは貴女方の方では?」

「何?」


尼僧の言葉にマドさんは顔を歪めた。


「……お前、この醜態を見て声をかけて来るとか正気か?」

「クスクスクス。中々面白い見世物でした」


そのやり取りに老司祭がはだけていた服を直して慌ててその場を去っていく。


待ってくれ爺さん! まだ話は──ぐえっ!


「生憎だが、こいつはともかく俺はこんなキモ──もとい卑怯なやり方で神殿に迷惑をかけるつもりはない。さきほどのアレは見なかったことにしてくれ」

「司祭様の名誉に関しては心配ご無用です。私は神殿を宿としてお借りしていただけで、太陽神の信徒というわけではありませんから」


そういって、エルフの尼僧は扉の引手を模した聖印を掲げてみせた。


「私の名前はディネルース。放浪神に仕える僧侶ですわ」


放浪神──光の神々の中では珍しい神殿を持たない特異な宗派。一般には旅人の守護神として知られ、その僧侶たちは各地を巡って人々に交流の大切さを説いている。


「…………」

「……あら? まだ警戒されてしまってます?」

「言っただろう。あのキモイやり取りを見て声をかけてくる奴なんてマトモじゃない」

「クスクス。個人的に男同士の関係は肯定も否定もするつもりはありませんが、別に痴態に興味をもって声をかけた訳じゃありませんよ」

「何?」


未だ警戒を解かないマドさんの視線を気にした様子もなく、ディネルースと名乗ったエルフの尼僧は涼やかに笑う。


「東の輸送路にアンデッドが現れ、人を襲ったとか。運がいいのか悪いのか、ちょうど私も東に向かおうと考えていたところなんです」

「……討伐に、協力すると?」

「それはもう少し詳しく話を聞いてみませんことには何とも」


ディネルースは言質を取らせぬ物言いでマドさんの言葉を受け流し、口元に手を当てて付け加えた。


「ただし、死への旅路を妨げるアンデッドは我ら放浪神の信徒にとっても仇敵。捨て置けぬ存在であることは確かですね」

「……いいだろう。話をしようじゃないか」

【パーソナル・レコード】

 名前:ディネルース

 種族:エルフ?

 年齢:183歳

 性別:女

 外見:銀髪、銀目 162cm 45kg

 出自:???

 属性:真なる中立


<基礎能力値>

 筋力:16 耐久:15 敏捷:13

 器用:10 知力:12 知覚:13

 魅力:19


 職業技能:クレリックLV7

  スキル:神聖 ???

  呪文 :???


 個別技能:エルフ語 医術 宗教 看破 説得

      捜査 歴史

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