お風呂と魔法とちょっと危機
ミミちゃんはご飯を食べた後、すぐにお風呂へと向かった。
おお〜、これが異世界の風呂かあ。露天風呂なんすねえ。
それにしても結構簡素な作りだな。石っぽい何かでできた浴槽と、大きな樽の中にある水を下から火か何かで温めているのか、ボォ、ボォと持続的に音が鳴っている。
『お風呂に入れるのはこの世界じゃ貴重なことなんだよ。そのおかげで他のところに行くと体が気持ち悪くて仕方ないんだよね』
なんか、風呂が貴重なのは予想ついてました。
ザブーン、と湯船に浸かるミミ。
『お姉ちゃんは私の考えてることとか、分かるの?』
『ぐへへへへ』
『どうしたの?』
『ホクロの位置から髪の毛の本数、ミミちゃんが考えてることぜーんぶ、好きな人のこともぜーんぶ知ってるからね』
『嘘つき。好きな人なんていないもん』
ちぇ、面白みのないガキが。
『正直言って、なにも分からないよ。強いて言えば感覚を共有する位』
『そう、安心した』
その口調には少し薄暗いものがあった。知られたくないことでもあったのかな。
『え、でもミミちゃんは私が考えてること分かるんだよね?』
『いや、分からないよ』
『え!?でも考えてること当ててなかった!?』
『うーん、なんだろうね?感情は分かるのかも。お姉ちゃん簡単な女なんだろうね』
簡単な女だと!?
『ほら、今みたいに』
『これはこれは、一本取られましたね』
ミミちゃんの見た目は中学1年生位だけど、発言がやけに大人っぼい。
『ミミちゃんはさ、見た目よりも大人びてるよね』
『そうかな?16歳だけど』
『16!?見た目が、幼い……』
でも、私って何歳なんだろう?20は超えてるのかなあ。
『馬鹿にしてる?でも、実際そうなんだ。一族の呪い?みたいな?』
じゃあ、お母さんも見た目より年いってるのか。
『明日はここの近くにあるレインセレス村に行こうかな』
異世界の村かあ。楽しみですわね。
ミミちゃんとは出会ってから数時間と経っていないのに、ずっと前から一緒にいたような気もしてくる。
『ミミちゃんありがとね~。最初に会ったのがミミちゃんで良かったよ』
『ほんとにね。血なまぐさい"グローリアス・アリーナ連邦"なんかにいたら、どうしようも無かっただろうね』
『え、なにその国』
『そっか、お姉ちゃんは知らないか。激つよな人達が集まって年中殺し合ってる激ヤバな国だよ。立ち寄ったら最後、秒で殺されて身ぐるみ剥がされるだろうね』
どうやら私はとんでもない世界に転生してしまったようです。
『でも、私なら問題ないね』
『うん、お姉ちゃんなら問題ないね。……ずっとお姉ちゃんっていうのもなんだからさ、なんか名前ほしくない?』
たしかに。名前かあ。
『ミミちゃんがつけてよ!』
『えー、私が?』
『名前って自分で付けるもんじゃ無いよね!』
『お姉ちゃんの世界じゃそうでもさ、私はお母さんに名前つけてもらった訳じゃないよ』
あら。異世界カルチャーショック。
『うーん、自分で名前付けるってもなあ。やっぱりミミちゃんがつけてよ』
『えぇ……』
ミミちゃんはしばらく考えてこんでいた。
『セレスティア、はどう?』
『それが私の名前?』
すっごい異世界風。
『嫌ならまた考えるけど……』
セレスティア、セレスティア、いいね!なんか清楚で可憐な女の子って感じ!あれ、じゃあ別の方がよかったり?でも、なんかしっくりくるんだよね。
『いいや、大丈夫!気に入った!今日から私はセレスティア・グレイスヴェールだ!』
あれ?私なに言ってんだ?グレイスヴェール……?
「う、うわあ!!」
『ミ、ミミちゃん、大丈夫!?』
『あれ?私の体……消えてる……?』
「ミミ!どうかしたの!?」
ミミちゃんのお母さんが急いでこっちへ来ている。
やばい。なんとかしなきゃ。
『お姉ちゃん、なんとかならないの!?』
『大丈夫……すぐ戻すから……たぶん』
『たぶんじゃこまる!』
うーん、これは論理的に考えても解決しないよな。なんか契約みたいなことが起こったのかなあ。グレイスヴェール?がキーワード?
『ねぇ、ミミちゃん。グレイスヴェールって何か分かる?』
『どうして今そんなこと……あ』
なにか心当たりがあるようだ。
『どうしたの?何かあった?』
『多分、大丈夫だ』
ミミちゃんの先程の慌てようが嘘のように、一つ一つ、糸を紡ぐように丁寧に言葉が唱えられた。
『グレイスヴェール・リバーター』
体が足元から実体化していく。
「ミミ!」
風呂のドアが勢いよく開く。
「ミミ!大丈夫!?」
ギリ間に合ったぜ。
「お母さん、大丈夫だよ。ちょっと大きい虫がいてびっくりしただけだから」
「そう、そんなことでまだ驚く年齢だったのね。強くなりなさい」
「もう。いつまでも子供扱いしないで。大丈夫だから」
ミミのお母さんさんがじっとミミの体を見つめる。あれ、私はみ出てる?殺される?異世界生活初日で終わっちゃう?
「……、あなた、意外とおっぱい大きいわね」
ミミがさっと胸を隠す。ぐへへ、それは私も思ってました。伸びしろがまだまだありますね。
「余計なこと言わないで!」
恥じらう姿もかわいいぜ。
「ふふ、早くお風呂出ちゃいなさいね」
危機は過ぎ去った。ミミのお母さんは風呂のドアを閉めて立ち去る。
『今すぐ私の体から出ていって貰おうかな、変態のお姉さん』
ばれてましたか。
『私の名前はセレスティアなんですが』
私がそう言うと、ミミがクスっと笑う。なんやあんさん!あたいなんかおかしなこと言ったかいな!
『なんか、お姉さんの顔で言われると似合わないかも』
そうだよねー。それは私も思ってたんだよねー。
『セレスティアじゃ長いし、セレスとか、ティアとか、レスティとか』
『うーん、なんでもいいよ』
『じゃあセでもいい?』
『ふざけてる?』
『ふふ、セレスって呼ぼうかな……いや、やっぱりお姉ちゃんでいい?』
『まあ、ミミちゃんがいいなら』
『じゃあそうするね。お姉ちゃん』




