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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜りんごの花びらが舞う夜〜
25/73

5

本日は2話投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

 2、3日して、珍しくもソフィアが俺に願い事があると言った。


「セオドラ様…。わたくしを書物庫の隠し部屋という所に連れて行っていただけませんか?

 わたくしが閉じ込められていたという場所を…ほんの少し…どんな所だったのか…見てみたいのです。」


 だめでしょうか?


「ソフィア…」


 …目が泳いでるよ。一体何を隠しているのやら。

 

 

 

 次の日、時間を作ってソフィア、ジェイクと共に隠し部屋に行ってみた。


 薄暗い書物庫にずらりと並んだ棚のうち、3つ目の棚を動かすと、隠し部屋の小さなドアが現れた。ソフィアは、まぁ!と両手で口を覆い、すみれ色の眼を大きく見開いた。


 ギギギ〜っとドアを開けると小さな部屋が現れ、ジェイクが部屋の中に灯りをつけた。中は意外にも綺麗で埃も感じず、暖かだった。


 一体、何の目的で作られた部屋なのか…。

 空気の流れを感じる…。もしかしたら、城の外に通じる秘密の脱出口があるのかもしれない、などと思いながら部屋に足を踏み入れた。


「あいつは、こんな所を知ってたのか。

 俺には教えてもくれなかった。」


 そう呟いた時、ソフィアがちろっと俺を見ていた事に、俺は気が付かなかった。

 

 部屋には壁際にソファがぽつんと置いてあった。ソフィアが寝かされていたのはそこだろう。そして、ソファの端の方に綺麗に畳んだ薄紫の布が置いてあった。ソフィアを助けに来たジェイクの部下がこの部屋に元々あった物だと思い、そのままにしておいたに違いない。


 ソフィアは、あっという顔をして薄紫の布を取ろうとしたが、手を引っ込めた。


「セオドラ様、触ってもいいですか?」


 かまわないよ、と言うとソフィアはその薄紫の布を手にして囁く様な声で、お返ししなければ…と言ったんだ。


 ソフィア、誰に返すの?と背後から小さな声で聞くと


「わたくしをここに隠してくださったゾーイさ……

 あっ!」


 うん、ソフィア…。かわいいね。

 簡単に白状しちゃったね。


 薄紫の布を手に俯いているソフィアは、ごめんなさいを繰り返して震えていた。


「ソフィア。

 俺もジェイクも怒ってないよ。だから、謝る必要はない。

 でもね、何があったのかは教えて欲しいんだ。とても大事な事だから、嘘を言ったり隠したりしないで。

 いいかい?」


 頷くソフィアと並んでソファに座り、背中をゆっくりと撫で、ソフィアが話し出すのを待った。


 ソフィアは俯いたままで話し出した。


「月祭りの日の夕方、わたくしが部屋で1人になった時に薄紫の守護神様が現れたんです。突然だったので、びっくりしました。」


 そして、時間がないので説明している暇はないが、自分を信じて欲しい、とここに連れて来られたという。


 明日の朝までここで眠っていてください。

 その間に全てを終わらせますから…。

 

「あなたはだれですか?一体、何が起きているのでしょう?とわたくしが聞くと…薄紫の守護神様はマスクを取って、こうおっしゃいました。」


 ゾーイです。セオドラ様を裏切った…。

 ここでお待ちくださいね。心配はありません。目覚めた時にはセオドラ様がそばにいらっしゃいますから。


「もっと色々とお話をしたかったのに、わたくしはそのまま眠ってしまった様です。

 次にわたくしが目覚めた時、本当にセオドラ様がわたくしのそばにいてくださった…。」


 薄紫の守護神様にもう一度会えて嬉しかったけれど、セオドラ様にはその事を言えなかった、とソフィアは途切れ途切れに言った。


「薄紫の守護神様が、ゾーイ様だと分かったら…セオドラ様はまた苦しい思いをされるかもしれない。また、昔の様に、悲しいお顔になってしまうかもしれない。

 そう思ったらセオドラ様に言えなかったのです。

 ごめんなさい。」


 ソフィア…。

 俺の事を心配してくれてたのか…。

 

 俺はソフィアの肩を抱いて、引き寄せた。


「心配させたんだね。

 でも、俺は大丈夫だ。

 ソフィアがこうして、俺のそばにいてくれるから。」

 

 ソフィアは顔を上げ俺を見つめて、頷いた。


 それでどうしてここに来たかったの、とソフィアに聞いた。


「わたくしは知りたかったのです。


 セオドラ様と婚約をしていたゾーイ様は違う方とどこかに消えてしまった。それなのに、なぜ、あの様な姿でわたくし達の前に現れて、わたくし達を護ってくださったのか。


 なぜだったのでしょう。


 わたくしは、その "なぜ" が知りたくてゾーイ様を探したいと思ったのです。でも、誰にも聞けませんし、何の手がかりもありません。

 だから…。」


 だから、ここに来たら何か見つかるかもしれないと思った、というわけか…。


 …ソフィア。

 その "なぜ" の答えは…難しい。

 俺はその答えを知っているが、ソフィアには言えない。

 それに、ゾーイを見つけ出すのも簡単じゃない。

 

 ソフィアは涙を浮かべた。


「セオドラ様。

 月祭りの夜に何が起きたのか、誰もわたくしには話してくれません。でも、たくさんの人が刑に処せられた事は知っています。


 ゾーイ様がここに隠してくださったから、月祭りの夜、わたくしは怖い思いをせずに済んだのでしょう?

 ゾーイ様はわたくしをここに隠して、寒くない様にマントをかけてくださったのでしょう?


 わたくしはゾーイ様にもう一度お会いして、きちんとお礼が言いたいです。そして、できるなら…わたくしの "なぜ" の答えも知りたいです。


 わたくしのわがままだとは分かっています。

 でも、もしゾーイ様の居場所をご存知なら教えてくださいませんか?」


 俺はソフィアの顔を見た。ソフィアの眼はまだほんの少し泳いでいた。

 一体、まだ何を隠しているのやら…。




 ゾーイとアレックスの捜索はルークとジェイクに任せているのだけれど、優秀なジェイクの配下の者ですら何も掴めていなかったんだ。


 山間の隠れ家はそのままだったという。


 村人達は、馬車の事故で2人が大怪我をし治療を受けている、と涙目で言っていたらしい。息子のゼノンとお祖父さんが村人にそう説明したとかで、2人の知り合いなら無事に戻ってくる様に祈ってくれと言われた、とジェイクからの報告を受けた。


 アレックスの母親がいる修道院に匿われているかと訪ねて様子を窺っても、そこには年老いた3人の修道女がいるばかり。思わず薪割りなどして手伝ってしまった、とジェイクの部下が言ったほどの暮らしぶりで、2人の存在はかけら程も感じなかったという。


 本当に、今の所、なんの手がかりもないんだ。




「今、ゾーイとアレックスを探してる。見つけたら教えるよ。約束する。だから、もう自分で探そうなんて思わないで。」


 俺はそっとソフィアの額にキスをした。



 だけど…とその時、俺は心の中で思っていた。


 あの2人には、光を放つ、人ではないゼノンという名の息子がいるのだろう?それを信じるなら、あの2人にはなんだって起こりうるわけだ。


 死んだと思われたアレックスの遺体が消えた。

 ゾーイが光に包まれながら消えた。


 それがゼノンの力のせいだとしたら、ゾーイは2度と俺達の前には現れないだろう。2人の言う "つぐない" が終わったのだから、もう現れる理由もないはずだ。




 で?あの2人を探し出して、殿下は一体何をなさりたいので?


 心の中でそう思っているであろうジェイクが表情も変えずに、もう少し様子を見るしかありませんね…と俺に小声で言った。


 隠し部屋を出る時、ソフィアは薄紫の布を大事そうに持っていた。


 ソフィアの肩を抱いて歩きながら、俺はゾーイ達が見つかったとしても、ソフィアに何をどこまで話せばいいのだろう、と考えを巡らせていた。

もう1話投稿いたします。

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