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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜りんごの花びらが舞う夜〜
26/73

6

本日2話目の投稿となります。

 それからソフィアはちょっと元気がなくなった。

 落ち込んでる、っていう表現がぴったりくる感じで、見ている俺も辛くなってきた。

 

 どうしたものかと考えた俺は、ソフィアが庭師のナハドの手伝いをしたいと言っていたことを思い出し、ナハドを執務室まで呼び寄せた。


「急に呼び出して悪かった。

 妻のソフィアが庭の手伝いをしたいと言ってる様なんだが…皆の仕事の邪魔になったりしないだろうか?」


「大丈夫…ございます…です…」


 などと言うナハドは優しげな初老の親方で、ソフィアの事を頼んでも大丈夫そうな、柔らかな雰囲気を持っていた。


 まあ、城に出入りする職人達は身元がしっかりしてるから、大丈夫なんだけど…。ソフィアのために、ちゃんと会っておきたかったんだ。そうすれば、ソフィアも安心だろう。


 …いや、違うな。俺が安心するために…だ。


 俺はナハドにソフィアの身体の調子やら何やらと知っておいて欲しい事を話し、後はソフィアの侍女アリスと相談してくれと告げてナハドを解放した。

 


 ナハドが部屋を出た後、俺はちょろっとジェイクを見た。


 はいはい、分かっておりますよ。

 ソフィア様が庭師達といる時は、しっかり護衛をいたしますから、ご心配なさらずとも大丈夫でございます!


 そう思っているであろうジェイクは無表情を装って執務室の隅に立ち、俺の護衛をしていた。


 ジェイクの事だ。ゾーイの時の事も踏まえて、しっかりとソフィアを護ってくれるだろう。


 きっと俺は、これから先もずっとジェイクには頭が上がらないんだろうな…そんな事を考えながらジェイクを見て、よろしく頼む、とだけ言った。




 3日ほど経った暖かな日。

 俺が自室にいると、トントントンとノックをしてソフィアがドアから顔だけを出した。


「セオドラ様。

 今からナハドさんのお手伝いにアリスと行ってまいります。」


 どうした?顔だけ出して…と聞くと、ソフィアはぴょこんとドアから飛び出した。


「セオドラ様。見てください!

 アリスが服を選んでくれました。庭仕事は服もすぐ汚れるから、こういうのがいいのですって。

 わたくし…なんだか…似合っている気がします!」


 ソフィアは下働きの者が着るような地味な服に身を包み、鍔の広い帽子に手袋、ブーツも履いて、にっこりと笑った。そして、くるくると回って見せてくれた。


「おぉ、いいじゃないか!

 動きやすそうな格好で、似合ってる。

 けがをしない様に気をつけるんだよ。」


「はい!」


 では、行きますね、と手を振るソフィアは白銀の髪を1つの三つ編みにして、キラキラとすみれ色の瞳を輝かせていた。


 よかった。ソフィアに笑顔が戻って来た! 


 ソフィアの笑顔を見て、俺の心も安らいでいく。




 それからソフィアは、週に2回ほど花壇の手入れをナハド達とする様になった。

 アリスとナハドが打ち合わせをして暖かな日を選び、午前中、1時間余りの庭仕事。体力のないソフィアに大した事ができるわけもない。それでもソフィアにとっては初めての事ばかりで、いつも楽しそうだった。


  


 庭仕事を手伝う様になってから、ソフィアがあちこちに小さな花を飾ってくれる様になった。


 剪定をした方が花壇の花がきれいになるらしくて、切った花をソフィアが小さな一輪挿しに飾っている。


 執務室には入れないから、侍従に頼んで俺の机に飾っているらしいが、いつもちょっとしたカードを付けていて読んでいて楽しい。


 この前はひなげしの花を飾ってくれた。


 小さな小さな種はお料理やお菓子に使うのだそうです。今度お料理に出て来たら、セオドラ様にも教えて差し上げますね、とカードに書いてあった。


 数日後の朝食に出された一口サイズの小さなパンに小さな粒々が付いていた。

  

「セオドラ様!これ、これです!

 これがひなげしの種。ポピーシードです。

 食べてみましょう!」


 目を輝かせながらモグモグ、モグモグとパンを食べたソフィアは、クスッと笑った。


「香ばしい香りがする様にも思いますけど…ポピーシードが小さすぎて、わたくし…味はわからないです!」


 ソフィアが料理人達にポピーシードの事を話して、パンを焼いてもらったのだという。料理人達は違いがわかる様に、ポピーシードの他にマスタードシードやクミンシード、セサミシードなど色々な種を載せて焼いた小さなパンを出してくれた。


「どれもおいしくって、楽しいですね!セオドラ様。」


 いつになく食欲がある様子のソフィアを世話係のビクターとアラン、そしてアリスがニコニコと笑って見ていた。



 ある時はピンクのカーネーションが一輪机の上に飾ってあった。そして、カードにこう書いてあった。

 

 ソフィアからセオドラ様にこの花を!

 いつもありがとうございますの心を込めて。

 花言葉は…温かい心、感謝です。


 あぁ、もう、ほんとに!

 ソフィアは可愛い。

 俺はもう仕事なんかやめにして、ソフィアと2人でずっと一緒にいたいよ。

 



 幸せを感じるやりたい事のノートにも庭に関することが増えていた。


 1番驚いたのは、ソフィアが青虫や毛虫を育てる、と書いた時。


 四阿の周りに色々な種類の青虫や毛虫がいて、最初は気持ちが悪いし、ちょっと嫌だったらしい。


「でもナハド親方が、今はこんなだけど綺麗な蝶になるって言ったのです。わたくしは本で読んで知ってはいたのですけれど、本物を見るのは初めてで…そうしたら、どんな蝶になるのか…とても気になってしまって…。

 綺麗な蝶がお部屋の中をたくさん飛んでいたら、きっと素敵で、幸せだと思うのですが…。」


 部屋で育てる、と言ったらアリスが真っ青な顔になって、虫はお止めください…と言ったそうだ。


「だから今、どうすればいいのかを考えているのです。

 ねぇ、セオドラ様…。

 セオドラ様も青虫が蝶になる所を見たいですよ…ね?」

 

 俺はそんなソフィアの顔を見て、ちょっと笑った。

 ソフィア、俺に甘えるのが上手くなったよね。


 そうだねぇ…。

 俺も子供の頃、青虫を捕まえて育てていた…。

 その時は…と思い出して、アランに声をかけた。


 アランは、ソフィアが虫を育てたいと言っている、と聞いてニコッと笑った。


「殿下の "虫部屋" はそのままでございます。

 セオドラ殿下の後、ウィリアム殿下も虫を捕まえて育てておられました。

 大丈夫でございます。私どもは慣れております。

 アリス殿はきっと虫はお嫌でしょうから、私どもにソフィア様のお手伝いをさせてください。」


 その話を聞いて、ソフィアはアランに抱きつきそうになって喜んだ。


 虫部屋は南向きの小部屋で、棚を並べ、ガラスの入れ物に網を被せたモノがずらりと並んでいる。色々な小道具はそのままあるらしい。


「あとは青虫を捕まえて来てくだされば、私どもと一緒に育てられます。」


 こうして、ソフィアは青虫を育てる事になった。

 

 アラン達には面倒をかけている。

 仕事を増やしてしまってごめんね、ありがとう、と声をかけるとアランは笑って答えた。


「青虫の世話など、大したことではございません。それに、ソフィア様は私達にいつも感謝の言葉をかけてくださるのです。ありがたい事でございます。」


 青虫が蝶になったらソフィアと相談して、皆に何かしてあげねばならんな…。


 そんな事を考えるのも楽しかった。




 別のある日、ソフィアは幸せを感じるやりたい事ノートにこんな事を書いた。


 冬の庭にたくさんの花を咲かせる


「だって、冬は花壇のお花が少なくなってしまうでしょう?寒い中でもお花をたくさん咲かせることができたら、うれしくって皆、幸せを感じると、わたくしは思うのです。

 ナハド親方に聞いたら、うーむって唸ってしまって…。この辺りで冬に咲く綺麗な花はないと言うのです。

 でも、わたくし、何か考えてみます。」


「冬の花…ね。今度2人でゆっくり考えてみようか?」


 ソフィアの顔が、さっと明るく輝いた。




 ソフィアの世界がどんどんと広がっていく。

 幸せを感じるやりたい事が、どんどん増えていく。


 庭で過ごす時間を持つ事で、ソフィアの身体の調子も良くなっている様に思えて、俺は本当に嬉しかった。


 このまま、ゾーイの事なんか忘れて欲しい…。

 ゾーイの "なぜ" を知ろうとなんかせずに、楽しい事だけに囲まれて過ごしてほしい。



 でも、ある日、ソフィアの侍女のアリスが俺にこっそりと、ソフィア様のご様子が少し変です、と言ったんだ。


 えっ?


「時々、窓辺に座って、涙ぐんでおられるのです。理由を聞いても、なんでもないわとおっしゃって、殿下には黙っておくようにと…。」


 ソフィアは楽しそうに振る舞っていただけだったのか?

 

 何も気づかなかった俺は…まだまだ…だった。

 こんなに可愛い…心から愛する妻なのにね。

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