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8・【レオノール視点】思い出した

 

 けれど、煩いのはイリーナだけではなかった。


「どういう事か、説明願えますか? レオノール様」


 スモークを吸いに学院の外に出て、研究棟にある俺にあてがえられた教諭室――研究室と言う名の教師個人の部屋――に戻る道すがら、研究棟の入り口で濃紺色の髪の男が俺を待っていた。グレッグ・ウィンドモア。顔は笑顔なのに、圧が強い。俺は、グレッグを避ける様に通り過ぎ廊下を歩くが、めげもせず後ろからついてくる。


「逃がしませんよ。フォンテーヌ侯爵令嬢とはどういった仲なのですか? あの日とは、一体なんなんですか!」


 俺は自室の前で立ち止まり、溜息を吐きながら振り返る。

 

「……俺が聞きたいくらいだ。そもそも、何かあってもお前には関係ないだろう」

「関係なくはありません! 僕は、彼女とは縁戚関係にあり、実の妹のように思っている子です。何かお心当たりはないんですか?」

「ないなぁ、全くない」


 通り過ぎる教師陣の視線も痛い。全く、ただでさえ面倒くさい事ばかりやらされているのに。一先ず、立ち話もなんだからと魔法で掛けられた施錠を解き、部屋にグレッグを通す。この状況をもたらした彼女をどうしてくれようか。

 

 部屋の中は、濃い茶色をベースにした机や本棚、ビロードのソファにローテーブルと、城の執務室にも負けない装いとなっている。隣室にはベッドや水回りも用意されており、生活するに不便のない作りだ。どの教師もがこうなわけではない。新任教師とはいえ、俺が学院側に依頼されてやってきた特別講師だからこその破格の待遇だ。

 

 グレッグは、部屋の様子が珍しいらしくキョロキョロと室内を見回しながら、ソファーに腰を掛ける。

 

 俺はドサッとソファーに腰掛け、テーブルに用意しておいたポットに火と水の魔法で瞬時に湯を沸かし、茶葉を入れる。頃合いを見計らって注ぐのは自分でやってくれとばかりに、カップだけをグレッグの前に適当に置き、俺は自分の分だけをすぐ注ぐ。味なんてどうでも良いからだ。すると、グレッグが呆けたような声を出す。


「……レオノール様は、複数属性使いなのですか?」


 ああ、そうか。この世界の魔法には属性が存在する。火、土、水、風の四大元素が中心であり、人々は生まれながらに特定の属性に親和性を持って生まれてくる。そして通常は、その生まれ持った属性を基盤にして、光や雷、雪や氷などの上級魔法までを習得していく。王族には、生まれつき光属性の魔法を使える者が多く、その影響で髪や瞳の色が金色を持つ者が多い。グレッグが驚いたのは、俺が火と水の魔法を同時に使った為だろう。複数が使える事も珍しいが、性質が真逆の属性を使う事はもっと稀だ。


「ああ。元は王族だから()()なんだけどな。各地に戦闘に行き、磨いている内に四属性全部が使えるようになった」

「四属性! そんな事、あり得るのですか?」

「まあ、あり得るんじゃないか? 使えてるんだから」


 グレッグの頬が紅潮し、瞳が輝きだす。そうか、こいつは古魔術の専門家だったな。


「それは……すごい。是非、今度ゆっくりお話を……あ、じゃなくて。今はロゼ、じゃなかった、レディ・フォンテーヌの事です。本当に、本当に、お心当たりはないんですか?」

(くど)いな。今度、彼女に聞いてみてくれ。俺はもう接点を持つ気すらねぇよ」


 俺が言い切ると、グレッグはきょとんとした顔をする。何だ?

 思わず、俺も首を傾げそうになる。

 

「それは……どうかと思いますが。授業だって受け持つでしょうし……」

「は? 俺が受け持つのは『武具と魔術を用いた実践的戦闘術』だぞ? 侯爵令嬢は、さすがに受講しないだろう」


 つい驚き、目を見開く。元々、騎士相手にしか訓練なんかやったことがない。怪我をする恐れがある事や制服やドレスではなく身動きのしやすい格好で受講する事、最終的には実際に魔獣討伐に赴く為、それを加味して受講を検討する事を念入りに注意事項に書いておいた。けれど、グレッグは首をフルフルと横に振る。


「彼女は、そういう子です。フォンテーヌ侯爵領は、大きな魔獣の森を有していますし、諸外国と接している場所にあるので、小さな頃からお父上が出兵する姿を見ていて、いつか自分も剣を取りたいとよく言っていました。守られているだけは嫌なのだと。侯爵は許していませんが、陰ながら鍛錬も欠かさなかった筈です。国の英雄から師事を受けれるこの機会を、逃さないと思います」


 そうなのか。いやいや、無理だろう。黙って守られてろよ。逆に怖いわ。

 今度はこっちが呆けてしまう。でも、少しヒントを得た気がする。父親の出兵……。彼女と会った事ばかり思い出そうとしていたが、フォンテーヌ侯爵とは何度か顔を合わせた事がある。侯爵領にも訪れたが、そう言えば彼女には一度も会わなかったな。王都にいたのか?

 

 グレッグが、自分のカップに茶を注ぎ飲み始める。ほっと息を付き、零すように言う。


「でも、そうか……レオノール様が複数魔法使いというレアケースなら、彼女も学ぶ事が多そうだ。彼女は、単一種なんです。花がメインで、微量に植物も。昔から、戦闘にあまり使えない魔法である事がコンプレックスで、よく零していました」


 単一種。稀に、四大元素に属さない属性を持つ者が生まれる。代表的なのが、花や植物と闇。人や植物の神経に影響を与えて捜査したり、無の空間から花や花びらを出したりする事が出来ると言われている。四大元素内ならば、俺のように鍛錬次第では複数使える事もあるが、単一種は生涯に一種類しか使えないとされている。まあ、使い方次第ではあるが。“神の気まぐれ”と呼ばれるほどに希少で、単一種の者は大抵魔力量が多い。魔力量が多ければ、その分見た目にもその影響が表れる。あの瞳と髪色は、花の属性の為か。そういえば、昔一度だけ、目の前で花属性の魔法を見たことが……。


「あ」

「あ?」


 ……思い出した。俺は、うっつぶしてはぁぁ~~~~と大きく息を吐く。何で一目見ただけで気がつかなかったんだ。いや、でも、無理もないだろう。いつだ? もう10年は昔の事じゃないか? あの時、俺は何をした?


 グレッグが、イリーナ同様なんやかんや言ってくるがもう頭に入らない。とにかく「帰れ」とだけ言って、部屋を追い出した。そして、10年前の朧気な記憶を呼び戻すため、俺は机の中を漁り始めた。



貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。

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