第11話 「勧誘活動」
「なぁ、信彦。俺と一緒に大会出る気ない?」
向かい合い弁当をつつく穏やかな昼休み。唐突に切り出したその話題に、全く心当たりがないというような困惑した表情を浮かべる信彦。
「大会?何の?」
「ユートピアエデン。」
「‥まじ?」
「まじ。」
そこで一旦会話を遮るように口の中へとご飯をかき込みペットボトルの水を飲み干す。勢いよく飲み込みすぎたのか、胸が苦しくなるがどんどんと叩いてやればやがて落ち着いたらしく、改めて向き直る。
「で?どういう事かとりあえず説明してくれよ。」
もちろんそうなるよな。俺は昨日はてなさんと改めてタイマンしたこと。1周年大会のメンバーに誘われた事を出来るだけ分かりやすく一つ一つ説明した。
一通り話を聞き終えたが、それでもやはり疑問は拭えないようだった。
「事情は分かったけど、それでどうして俺なんだ?認められた人じゃないとダメなんじゃないの?」
確かにもっともな疑問だ。でも、それについてはもう話がついている。
「実は昨日、もう一通り話は通してあるんだ。言った通りまだメンバーも2人だけでさ。とりあえず俺の友達を呼んでみますとは伝えてある。それにほら、信彦とだったら俺も慣れててやりやすいだろ?信彦器用だし大丈夫だろ。」
「んな適当な‥。まぁ俺でいいんだったら全然協力するけど、その1周年イベントってあれだろ?多分めちゃくちゃ凄いやつだぞ。」
「凄いやつ?何がどう凄いんだ?」
「出るんだったらちょっとは調べとけよ‥。えっと、動画あったよな‥。」
苦笑しながらもスマホを操作し、何かの映像を見せてくれる。
これは‥生放送のアーカイブだろうか?そこには見慣れたユートピアエデンの世界で戦うプレイヤー達が映し出されていた。
「これ、こないだの半周年イベントの時の大会の様子。賞金総額5000万円越え。同時視聴者20万人以上。ゲーム界隈でもトップ中のトップの大会だよ。1周年ともなればもっと盛り上がるんじゃねーの?」
言葉に詰まる。想像してた規模の数十倍だ。
え?こんなばかでかい大会だったの?賞金が出るなんて話も聞いてなかったしはてなさん説明大雑把すぎないか?勝手に部活の地区大会レベルのを想像してた。
配信までされてるなんて天と地ほどの差があるじゃないか。正直舐めていた。
「深夜?聞いてるか?」
黙り込んでしまった俺を信彦が覗き込んでくる。
「あ、あぁ。大丈夫。」
「ならいいんだけど。でも、正直こんなのに俺らみたいなのが出て勝てるのかね。プロとかもゴロゴロいるぞ。」
そうなのか。どうやら思っていた以上に壁は高いらしい。まだメンバーすらまともに決まっていないこの状況で優勝目指そう!なんて無謀が過ぎるのかもしれない。
「でも、まぁありがとう。とりあえず出てくれると助かるよ。最終決定は、はてなさんと話してって事になるだろうけど。」
「おっけ、了解。そのはてなさんとも話してみたかったしな。めちゃくちゃうまいんだろ?」
「上手い。まじで自信を持って言える。さいっこうに上手いよ。大会に勝てるかどうかは、めちゃくちゃ不安にはなってきたけど‥はてなさんの実力は俺が保証する。」
そうだ。それだけは揺らがない。あのはてなさんがいるのだ。あの人が負けてるところなんて全く想像できない。
そして、俺もその人に認められて誘われたんだ。やる前から自信失ってどうする。まだ時間はあるんだからどうにでもなるじゃないか。
「楽しみだな〜挨拶するのも今日でいいんだろ?」
「うん、いいと思う。今日も話す約束してるしその時にでも紹介するよ。」
「了解!」
ビシッと頭に手を当て、敬礼でもするかのようなポーズを信彦がとる。
信彦ならきっと、はてなさんにも認めてもらえるだろう。信彦は盾をもった前衛の剣士。パーティーにタンクはいると心強いし、自慢の運動神経を活かした動きは俺とはまた違う才能だ。何度かタイマンした事があるが、その時はやられはしないけど信彦の防御を突破する事が出来なかった。勝負がつかない。引き分けってやつだ。
もし、信彦がはてなさんと戦ったらどうなるのだろうか?信彦のあの防御力は目を見張るものがある。
いや、それでも。はてなさんならゴリ押しで突破してしまいそうだ。あの人相手に受けに回ってずっと凌いでいられるイメージがまるで湧かない。
知らない人が聞けば過大評価だと言うだろう。こればっかりは戦ってもらうしかない。戦えばわかる別格だ。どうしてあそこまで上手い人が有名じゃないのかは分からないけど、断言できる。絶対これから有名になる。
昼休みの終了を告げるチャイムが学校へと響き渡る。
とりあえず、色々考えることは放課後でいいじゃないか。今ここで悩んでも答えは出ない。
楽しみだな。そう自然に浮かんできた言葉に自分でも少しびっくりする。そうか、俺ちゃんと楽しみなんだ。突然の事で今までどちらかと言えば困惑してた部分の方が多かったけどやっぱりちゃんと楽しみなんじゃないか。
自覚し、むず痒く待ちきれない気持ちが膨らむ。
早く時間が過ぎないかな。
窓の外を、空高く飛んでいくツバメの群れを眺めながらそう願った。