【艦内ブリーフィング】
ご覧頂き、ありがとうございます♪
カナザワ港から出港したソメイヨシノ。
転属先での初任務のブリーフィングを受けます。
今回は少し長めですが、どうぞ最後までお読みください。
後書きにて、この世界の勢力図を解説しております。
数日に及ぶ補給作業を終えたソメイヨシノはカナザワ港を出航。
しばらく航海した後に、俺たちはブリーフィングルームに招集されていた。何でも次の作戦の説明があるとの事で、その説明会があるらしい。
学校の教室ほどの広さの部屋に、サイドテーブル付きの椅子がずらりと並べられており、各部署のトップかそれに準じたメンバーが思い思いの席に着いていた。
俺たちパトリオット部隊、特別遊撃分隊、通称〝SRS〟は全員その会議に出席している。……まぁ全員とは言っても、今のソメイヨシノには上原少佐、佐倉と俺の三人しかいないんだけど。
少しガヤガヤする室内に、一人の女将校が入って来ると一気に静かになった。
年は三十代前半くらいか、黒髪のミドルヘアをセンターで分け、やや端の下がった瞳。目尻に泣きぼくろがあり、白の軍服を着崩し、カッターシャツのボタンを三つほど外しているので、胸の谷間が見えてしまっている。
なんというか、有り体に言えば色っぽい女の人だ。
えーと、確かソメイヨシノの副艦長の楊美玲中佐だったかな。
楊中佐が用意された大型モニターの前に立つとクルー全員が一斉に起立して敬礼をした。
もちろん俺は出遅れてしまった。両脇にいる佐倉と上原少佐を見上げてから慌てて立ち上がって、見様見真似で敬礼をした。
楊中佐は敬礼を返すと皆に座るようジェスチャーをする。
それから室内の照明が絞られて正面の大型モニターに灯が入る。
「ごめんね、出航したばかりの忙しい時に。みんなに集まって貰ったのは他でもないわ。次の作戦概要を伝えておかなきゃいけない事があるからよ」
楊中佐は妖艶な雰囲気を纏った女性だけど、そこは帝国最強と云われるソメイヨシノの副艦長。
軍人の雰囲気を纏いつつも色っぽい口調でそう言うと、手元の資料に目を落とす。
モニターにはどこかの国の地図が3Dマップで表示され、画質の粗い工場のような建物の写真とその建物周辺のものと思われる衛星写真が映し出されている。
建物の周りには鬱蒼とした森が広がってるっぽくて、屋根が見える程度だ。
「これはここ最近会敵する事例が相次いでいるルゴール軍の〝生物兵器〟。それの研究なのか開発なのかをしていると思われる施設の写真よ」
楊中佐のその言葉にブリーフィング室内の空気が一瞬にして張り詰めた。
左隣の佐倉も表情を強張らせている。一方、右隣の上原少佐は腕組みをして背もたれに身体を預けて、じっとモニターを見ていた。もしかしたら上原少佐はこの作戦の概要を知っているかもしれないな。
少し間を置いて楊中佐がレーザーポインターでモニターを指しながら作戦の内容を説明し始めた。
今回の作戦は、マレーシアの内陸部にあるとされるその施設の調査。出来れば占拠し、必要な情報や資料を奪取。必要に応じてその施設の破壊。
帝国軍もルゴール軍も、双方共に戦場に於いての主力兵器はパトリオット。
だけどパトリオット以外の兵器で戦うことも当然あるわけで。
帝国軍の場合は、この戦艦ソメイヨシノ然り、航空機や戦車。海上であれば戦闘艦などの船舶。近代的な兵器が主流という事。
一方のルゴール軍にもそんな近代兵器もあるらしいんだけど、パトリオットに次ぐ脅威になるのがその〝生物兵器〟の【アームズ・ドラグーン】みたいだ。
この戦争の開戦時からルゴール軍は魔獣を使役し、魔法と織り交ぜてこの帝国に攻め込んできた。
後に帝国のパトリオットを鹵獲し、研究、量産して戦場に投入してきたという話だ。
魔獣を使役する能力と、パトリオットに使われる技術力。それらを併せた兵器こそ〝生物兵器〟の【アームズ・ドラグーン】らしい。
【アームズ・ドラグーン】は、簡単に言えば魔獣を武装してサイボーグ化、戦場に投入するというとんでもないシロモノという事だ。
ただでさえパトリオットと同等に戦える魔獣が武装して襲いかかってくるんだから、明らかにヤバい兵器。って、これも佐倉に教えてもらった事だけど。
絶対数はまだ少なく、俺はもちろん佐倉も【アームズ・ドラグーン】とは戦った事はないらしい。
【アームズ・ドラグーン】は事例はまだ少ないけど、世界各地に投入が開始されているらしく、多数の被害が出ているみたいだ。
それの研究施設の場所が分かったという事なんだったら、みんなのこの反応もわかる。
楊中佐が一通り作戦概要を説明し終わったのを見計らって一人の女性が手を挙げた。
アフリカ系と思しき彼女はフライトスーツを着てるし、所属は航空部隊とかかな?
「研究なのか開発なのかをしていると思われる施設、との事ですが情報がその……」
そこまで言うと挙手した兵士は言葉を詰まらせる。そこに彼女の心情を汲み取った楊中佐が捕捉を入れて先を促す。
「あやふや?」
情報が不鮮明なのは楊中佐にも自覚があるのか。挙手していた手を下げて、少し意を決したように話し始めた。
「……ええ、そうです。アームズ・ドラグーン関連の施設という事ですが、その信憑性はどれほどの物かと。マレーシアと言えば敵国の太平洋方面の拠点とも言える場所です」
ああ、この地図の場所はマレーシアなのか。
ルゴール軍の拠点になってるって事は占領されてしまっているって事なのか。
「そのマレーシアに侵攻しようと、先日インドネシアに展開していた帝国軍が撤退したばかりだというのに。命をかけるには余りにも情報が不透明過ぎます。それに、作戦も我々ソメイヨシノ隊だけで対応しなければならないのも戦力的に不安が残ります」
楊中佐はそれを静かに聞いていた。部屋にいる多くの兵士も同じ事を思ったのか、皆、その意見に無言で賛同しているみたいだった。
「ジョーンズ少佐の言うことも分かるわ。だけど私たちは【アームズ・ドラグーン】を攻略する必要がある。知る必要がある。魔獣をどのように調達しているのか、個々の装備は、その装備の流通を止められれば戦況を打開できるかも知れない、わね」
「それは分かりますが……」
「例えば大軍を率いて攻め込めば施設の破壊、占拠は容易かも知れない。けれどそれでは意味がないのよ、ジョーンズ少佐」
そこまで言うと楊中佐は上原少佐に向き直る。
「上原少佐、特別遊撃分隊には施設への攻撃をしてもらいたい」
……攻撃って、情報が欲しいって言ったばかりじゃ無いか。
潜入して情報を盗む、みたいな事言ってたのに俺たちがパトリオットで行ってもいいのか? 八mの巨人が近づいていったらバレバレになっちゃうだろ。
そんな事を思っていたけど、俺の考えは的外れだった。
「了解です。私たちが施設に近づけば当然補足されて迎撃部隊が出てくる。それと戦っている間に歩兵部隊が突入なりしてデータを持ち帰ってくれるって事でしょ?」
俺に分かりやすいようにしてくれたのか、上原少佐は少し噛み砕いてそう言った。
「その通りだ、特別遊撃分隊には囮のようなことをさせる事になるが、貴君らのスキルあっての作戦だ、すまないが悪く思わないで欲しい」
なるほど、そういう事か。
もちろん分かっていたさ。自分で自分を騙しただけだ。うん。俺の考えは間違っていなかった。
……ちょっと浅はかだったか。
「大丈夫、いつも通りやれば。それに新戦力もいます。彼らならやってくれますよ」
上原少佐のその言葉で俺と佐倉に部屋中の視線が集まる。俺はにへらと不気味な愛想笑いを浮かべ、佐倉は恐縮したように会釈した。
そんな俺たちを見た上原少佐は軽く微笑み、楊中佐とジョーンズ少佐に向き直る。
「全力を尽くします。苦戦したら航空部隊も期待してますよ、ジョーンズ少佐」
「もちろんだ。私たちもいつでも飛べるように準備しておく」
上原少佐が差し出した拳にジョーンズ少佐が拳を合わせる。おお、なんかカッコいい。俺もいつかやろうっと。
他に意見が無かったようなので、楊中佐はまとめに入る。
「概要は以上よ。各部署への細かな作戦概要とタイムテーブルは個々にメールを送るわ。それでいいわね、品川軍曹?」
「はい、メールは一二〇〇までに送信しておきます」
品川と呼ばれたばっちりメイクで、くるくるウェーブヘアの軍曹さんは、その派手な外見からは想像出来ない鈴のなるような美しい声で応えると、メモ帳になにか書き込んだ。
「結構。では解散」
楊中佐はブリーフィングをそう締めくくった。
お読みいただき、ありがとうございました。
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続きは近日中に投稿予定ですので、楽しみにして頂けるとありがたいです。
この世界は帝国とルゴール王国と大きく分けて二つの勢力で二分されています。
帝国はオセアニアから太平洋を渡りアメリカ大陸を。
ルゴール王国はユーラシア大陸からアフリカ大陸を。
特に戦闘が多いのが、大西洋側と、東南アジア。
日本も帝国の勢力圏内にギリギリ収まってはいますが、いつ占領されてもおかしくない状況です。
日本(この世界ではニホン)は優良なパトリオットを生産する術を持っている国なので、重要な国だと言えます。




