【男と男と雄】
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カナザワ港より出港してしばらく。
作戦に向けて各部署が忙しなく動き出します。
カナザワ港を出港し、次の作戦の概要がクルー全員に伝わった頃。
ソメイヨシノはオキナワ本島沖の海上を白波を立てて進んでいた。
南国特有の緑の海、さんさんと照りつける太陽は南下をするに連れて徐々に強くなり、今や外気温は三十五度を超えた。
しかし湿度は低く、日陰にさえ入れれば潮風のみで涼を取れる。夏のオキナワなんてどれだけ暑いんだろうと覚悟していたけど、これならマレーシアとやらの気候もなんとか耐えられそうだな。
「へぇ、上原少佐はオキナワ出身なのか」
俺は格納庫の隅にある自動販売機スペースでサイダーを買って、備え付けの長ベンチに腰を下した。
その長ベンチは波で転がってしまわないように鋼鉄の床面にボルトで固定されている。
「そうだよ。士官学校もオキナワだったから、二十歳まではオキナワから出た事もない田舎者だったんだけど。軍に入るなり世界中を行ったり来たりさ」
俺はサイダー入りのペットボトルの蓋を捻る。プシュッと炭酸が抜ける音がして中の液体に瞬時に泡が混じる。
俺は一口飲んでから話し相手にペットボトルを差し出す。
「……いるか?」
金色の瞳で俺を見上げると、彼は首を振った。
「ううん。猫に炭酸なんか飲ませないでよ」
「だよなぁー。すまんコジ、ほんの出来心だ」
〝黒猫〟のコジローは俺を見上げて肩を竦めた……ように見えた。
そう、コジは上原少佐が連れている黒猫。
金色の瞳と全身ツヤツヤもふもふの黒毛に覆われたなんの変哲もない黒猫。でも喋る。
この世界には『対話種』と呼ばれる人語を解する動物がいるらしい。それはルゴール王国がこの世界に現れた百年ほど前から確認され始め、今となっては世界の常識であるらしい。
厳密に言うと対話種の動物は、動物として生まれてきた妖精。らしい。
ファンタジー過ぎてよく分からないけど、動物であって動物ではないって事だけど……まぁそうだよな。喋るとはいえ、唇が動くわけでもないし。口を閉じたまま喋っている辺り、色んな常識から逸脱している存在であるのは言わずもがなだ。
佐倉も何匹かの対話種の動物に会った事があるらしく、このコジローと出会ってもさほど驚いていなかった。
けど、俺が飛び上がるほど驚いたのは言うまでもない。
「全く。飛鳥じゃあるまいし」
呆れたようにそう言うと、コジローこと、コジは前足で毛繕いを始めた。
こういう所作を見るとどう見ても猫なんだよな。まぁ本人も妖精の自覚は無く、猫だって言ってるし。
ソメイヨシノに乗ってから、俺はこの黒猫のコジと一緒にいる事が多々あった。
俺の人見知りスキルはどうやら黒猫には発揮されないらしく、彼となら気兼ねなく話す事が出来た。
ほら、動物に語りかける人いるだろ? あんな感覚に違いのかも。
まぁコジの人見知りしない性格もあるけど、何と言っても『男同士』ってのがデカいな。
このソメイヨシノ、とにかく女性クルーが多い。
というか、この世界の兵士は女性の割合が圧倒的に多い。その理由はもちろんパトリオット。
女性にしか魔力が宿らないらしいから、軍は戦場の主役のパトリオットに適応した兵を育成したがる。そうすると必然的に女性兵士が多くなるって事らしい。
あっちもこっちも女の人ばかり。
それは俺だって男なんだし、女の人は好きだ。
けどやっぱり肩身は狭い。女子校に編入させられた気分はきっとこんな感じなんだと思う。
だからこうしてコジとボーイズトークをする時間が何となく、俺の中で癒しの時間になっている節がある。
「おーい、二人とも、こっちに来てくれるかのー?」
「あ、はーい……行こうぜ」
「うん」
俺はサイダーのキャップを締めると立ち上がった。
俺たちを手招きしているのは、このソメイヨシノの整備班班長の山本康隆大尉だった。
熊のように大きな身体は身長一九〇センチを超える巨漢。山小屋のマスター的なヒゲモジャの豪快そうな人だ。
所々、油で黒ずんだ整備兵用のオレンジ色のツナギにでっぷりとしたお腹を詰め込んでいる。しかし捲り上げた袖から覗く二の腕は非常に筋肉質で、血管が浮き出ている。
年齢は六十代半ばのベテラン整備兵だ。
俺とコジをグローブのように大きな手で手招きをしている。
山本大尉は“ワルキューレ・ブレイズ”と“雷桜参式”の調整を兼任して進めていてくれていた所だったから、その事なんだろうな。俺は山本大尉に駆け寄った。
「ちょっとこれを見てくれるか」と言いながら山本大尉はタブレット端末を俺に見せてくれた。
山本大尉は“ワルキューレ・ブレイズ”の調整……デュアル・パイロット・システムをいじるのは初めてらしく結構細かく確認をしてくれる。
最初はプログラミングの画面みたいなヤツを見せられて「は?」ってなってたけど、いつまでも素人のままな訳にはいかない。自分なりに勉強して、細部の設定値などにはまぁなんとなく話せるくらいにはなってきた所だ。
「やはり三十六mm弾では“ヴォルガー”の装甲は貫けんか」
「一概には言えないすけど。良い角度で入れるか、場所にもよるっすね。それに連続で当てればいずれは破壊できます」
山本大尉が見せてきたデータはサッポロでの俺の戦闘データだ。武器の使用率や相手の被弾箇所、撃破した機体の損傷データ。それらがタブレットに表示されている。
そしてそこから分かるのは、俺が敵機を撃破した武器にアサルトカービンは無いという事だった。
【魔導力増幅装置】を積んでいない量産型の“ヴォルガー”ならバリア、魔導光子障壁を張って防御される事は無い。けれどその装甲にアサルトカービンライフルの三十六mm弾が数発当たった程度では、弾かれてしまう。
装甲の切れ目や、頭部などのメインカメラなどの露出した機器を破壊するには良いけど、正面から撃ち合って装甲を貫くには連続で当て続ける他ない。
だから俺にとってはアサルトカービンは牽制の意味でしかない。
けどそれは帝国側だけの話。ルゴール側の銃はと言えば、弾丸一つ一つに魔力を込めているらしく、同じ三十六mm弾でも貫通力が帝国側のそれとは比較にならない。
当たればかなりのダメージは受ける事になってしまう。
「……というわけで、これじゃ」
と自信満々でタブレットをスライドさせる山本大尉。画面には“ワルキューレ・ブレイズ”の3D展開図。けどいつもの“ワルキューレ・ブレイズ”ではなく、左前腕部に見慣れない機器が装備されていた。
コジはそれを見て俺の肩の上で首を傾げていたけど、俺はその装備に見覚えがあった。
「新装備のフォールディング・ライオット・シールド、略して【FRシールド】じゃ」
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