【夕涼み。見渡す街】①
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山の中腹にある居住区。
佐倉のアパートにほど近い小さな公園に俺は居た。
とっくに陽は落ち、辺りは暗い。
しかし街灯と、影が出来るほどの月明かりで足元はよく見えている。
夕食後、シャワーを浴びた俺はそこで夕涼みをしていた。
佐倉家の夕食は案の定カレーライス。それを佐倉家の三人と俺とで食べた。人と一緒に食事をするなんていつぶりだったかな……。
ちなみに佐倉のお父さんは基地の整備担当の兵士らしく、今日は緊急でしなければいけない仕事が出来たので、帰って来れなくなってしまったらしい。
『異世界にジャガイモなんてない』という話を聞いた事があったので、試しにカレーの中に入っていた芋っぽい物体をスプーンで持ち上げ、これは何かと聞いてみたら、しっかりと『ジャガイモ』だと言った。
「そんな事も知らないの?」と佐倉妹(名前は莉乃)から笑われてしまう始末。いや知ってるし! 知ってるからこそ聞いたんだし!
子供にバカにされて……ちょっと悔しかった。
それと家の中の『家電』。これに驚かされた。
そもそも『家電』と言うものが普通に家庭にあるという事に。
【パトリオット】の様な超科学兵器が活躍する世界なだけあって、家にある家電は確かにハイテクだった。
けれどそのどれもが俺が住んでいた世界の物と酷似していたことには驚いた。
テレビ、冷蔵庫、洗濯機。それらはもちろんのこと、レンジやトースター、さらには炊飯器に至るまでがそこにはあった。
流石にメーカー名は知らない名前だったけど、デザインは見慣れたものが多かった。
てかこれ日本だろ、絶対。
佐倉莉子という名前や、街の看板、テレビの文字や言葉。世界は違うかもしれないけど。
けど飛ばされた、呼ばれた世界が住み慣れた日本と同じような場所でよかったな。
主食がトカゲとか虫とかの世界だったら流石に暮らしていく自信ないぞ、俺は。
どうやら俺の世界と似たような生活を送っているようで、少しだけ安心した。
感覚的には、俺の居た世界とあまり変わらない。
だけど確実に元の世界とは異質で……。
【パトリオット】がある。
【魔法】がある。
【魔女】がいる。
【異世界からの侵略者】がいる。
【魔法】で呼び出された俺が【パトリオット】に乗って
【異世界軍】相手に戦う。
【魔女】と一緒に……。
「有馬くん」
不意に声をかけられて、俺は振り向いた。
「ああ、佐倉か」
そこにはタンクトップにショートパンツ。そこから白くてハリの良さそうな脚がスラリと伸びていて、素足でビーチサンダルを履いた佐倉が立っていた。
丁寧に塗られた赤いペディキュア(?)が目に入り、思わずドキっとする。
繰り返しになるが、女っ気の無かった俺には刺激が強い。
佐倉の頬はほんのり高揚して、ショートの黒髪は少し湿っている様だから、多分風呂上がりだろう。
いつも俺があまりにも驚くもんだから、今回は優しい声で、少し離れた所から呼びかけてくれたみたいだ。
しかしまた無防備な格好を……。
俺はそんな佐倉から視線を逸らすと、街並みに目を落とす。全く目のやり場に困る。
逃した目線の先は、それはそれは美しい景色が広がっていた。
山の中腹から麓まではマンション風の団地が立ち並び、平地にはこじんまりとした商店街が、その先には古ぼけた【帝国軍】の基地。
さらにその先には大きな湖が広がっている。
そこには巨大な満月が映し出され、ゆらゆらと揺れていた。
「お母さんのカレーはどうだった? 美味しかったでしょ?」
「んん、美味かった」
「ふふ、でしょ? お母さんの得意料理だからね」
そう言って佐倉は得意げに鼻を鳴らした。
何でも今日食べたカレーは、お母さん自身がスパイスを調合して一から作った物らしかった。
その味は今まで食べたどのカレーライスよりも美味しかった。
「それにしても有馬くんがジャガイモを知らないだなんて。あっちの世界にはジャガイモは無いの?」
「ジャガイモ問題は永遠のテーマなんだよ」
「……?」
まぁこれで異世界にもジャガイモがあるのが分かったので、ジャガイモ問題はこれで終いだ。
といっても俺は二度とあの世界に戻る事はない。
そう考えても全く寂しさは感じない。あの世界に俺はなんの未練もないんだなと、再確認出来たわけだ。
「隣、いい?」と俺が座っているベンチに腰掛けようとしながら佐倉がそういった。断りを入れるタイミングがどう考えても遅い。座る気は満々の様だ。
しかしもちろん断る理由も無いので俺は短く「どーぞ」とだけ言った。
「どーも。……あ、どっこいしょー」
「おっさんか」
「ふふっ、よく言われる」
「マジか」
そんな取り留めのないやり取りを終えた俺たちは、何を話すでもなく街を見下ろした。
「……」
「……」
何か用があったんじゃ無かったのか?
もしかして俺が迷子にでもなっていないか心配で見に来てくれたんだろうか。
どちらにしても、この沈黙は不思議と苦痛では無かった。
日中は汗ばむほどの陽気だったが、陽が落ちた今は随分と過ごしやすくなっていた。
夜の風が風呂上がりの熱った体の熱を少しづつ奪ってくれた。
その時、ふわっと強めの涼風が吹いて佐倉の黒髪を揺らした。
その長い前髪を左の耳にかけ、目を細めて一言「涼しいね」とだけ言った。
俺は何故か佐倉のその一言に何も返すことが出来ず、慌てて目を逸らした。
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