エサ場
「…あー! 航ちゃん止まって!」
突然ゆんが声を上げると俺の頭をバシバシ叩き出した。
なんだ!? 胸には触ってないぞ! 不可抗力で顔が埋まってるだけだぞ!?
「あった! 魔鉄があったの! 通り過ぎたよ!」
ズザザッと小石を飛ばし止まる。ゆんが軽やかに地面に降りた。
今度はうたた寝する魔鉄喰いゴーレムだったりして……。
ただ気配探知には、すぐ近くに赤い反応はなかった。
「ほらそこ、道がカーブして、岩壁に繋がってるでしょ? 道の行き止まりが洞穴で」
赤味ががった崖の壁に、縦横10メートルくらいの穴が空いている。その穴の手前は妙にならされた道が出来ていて、その道の両脇に赤いっぽい岩がゴロゴロ転がっていた。
ゆんが小走りに道脇の普通車ほどある岩に近づき、かがみ込んだ。
「この岩の間に…ほらこれ!」
ゆんが持ち上げたのは赤っぽい岩ではなく、マンホールの蓋みたいな黒い岩。
魔鉄塊:鉄鉱石に魔力が長い間染み込み、同化し生成された物、不純物のない魔鉄の塊。
非常に硬いが粘りもあり、鋼より軽量である事から武器、防具、道具として利用される。
状態:魔鉄喰いによって潰されている。
「鑑定に『魔鉄:硬い』って……どう? 合ってる?」
ゆんが不安そうに魔鉄塊を見せてくる。
「合ってる…。間違いない、魔鉄の塊だよ、これ」
でもなんだ? 魔鉄喰いが潰した?
(航平、魔鉄喰いは魔鉄を好んで食べますピ)
(ああ、なるほどね。この道はアイツが通った後か。そしてあの岩窟はエサ場)
きっとアイツの歯にでも挟まっていたのが落ちたのだろう。他を見渡しても普通の鉄鉱石としか鑑定に出なかった。
「他には、ないねえ…。でもこれだけあれば、ハサミ30本は作れると思う。手触りがなんとなく玉鋼に似てる。黒いけど」
辺りを鑑定していたゆんが、ニカッと笑う。
「ああ、大手柄だよ、ゆん」
空間庫に魔鉄塊をしまっていると、
「ねえ、あの洞穴の中にもっと魔鉄があるんじゃない?」
と、ゆんが魔鉄喰いの採掘穴を指差した。
「多分。でもなあ」
気配探知であの穴の中には魔物がいない事は分かっていた。反対側には反応があったが、間に岩壁を挟んでいるので問題はないだろう。
でもゆんも、となると話は別だ。
「あのデカい穴は、さっきの魔物のエサ場みたいだから、入るなら俺ひとりで行くよ」
「さっきのって…口だけお化け?」
「ああ、魔鉄が好物みたいで、あの穴を掘ったのは多分そいつだ。中にはいないみたいだけど、危ないからー」
「嫌、一緒に行く。もし航ちゃんが中に入ってる時、口だけお化けに襲われたら怖いし」
それもそうか。光のテントがどこまで保つのか検証もしていないし…。
「じゃあ俺から離れない事、いいね?」
「分かった!」
いつものチャーミングスマイルで、ゆんが嬉しそうに頷いた。
「暗いね…」
ゆんが辺りに目を凝らす。俺には少し赤味がかった昼間のように見えているけど。ゆんは転移前に、眼調整1を取得したばかりだった。
「どれくらいの明るさ?」
「うーん、熾火くらい?」
「さっぱり分からん。ライト出すか?」
「大丈夫、足元と手を伸ばしたくらいは見えてるから」
ついっと前へ手を伸ばす。洞穴の中は起伏もなく歩きやすかったが、壁は赤錆色、黒や茶色などの地層がグニャグニャと入り乱れ、じっと見ていると目が回りそうだった。
なんの音もしない。聞こえるのはジャリッジャリッと小石を踏んで進む、俺たちの足音だけだ。
「ゆん、鑑定しながらね」
「うん、やってる」
魔鉄が鑑定に引っかからないまま、奥の行き止まりまで来た。辺りには大小様々な岩が転がっている。その中にいくつか、黒い小さめの岩が落ちていた。
「…あった『魔鉄』! あ、こっちにも!」
リンゴやメロンくらいの大きさの黒い岩石を拾っては、俺に渡してくる。
俺は遠くに見える出入り口の方に集中し、渡された物を次々に空間庫にしまっていった。
「ゆん、そろそろ出るぞ」
積み重なった岩をよじ登っていたゆんに声をかける。
「ちょっと待って! この先にもうひとつ魔鉄が」
岩の隙間に手を差し入れ、なんとか取ろうと頑張っている。
「ちょっとどいて。よっ! と」
ゆんを下がらせ、邪魔な岩を持ち上げると、安全な横に放った。ドゴッと、地面に着地した部分の岩が砕ける。
「航ちゃん…筋力ヤバくない?」
「…それは感じてる」
「はは! ありがとう、待ってね。今取るから」
体を岩の隙間に入れ、スイカ大の白い岩を取り出した。
「なんか白いけど魔鉄ホニャララって鑑定に出たんだよね」
「へえ、どれー」
白い岩を鑑定しようとした時、出入り口の光がふっと消えた。
「来たぞ!」
ゆんの手にしていた白い岩を収納すると、雷光を手に取り出し身構えながら、
「Pちゃんたちは後ろな!」
前からぐるっとバッグを後ろに回す。
地面が振動する。出入り口から入って来たのは、さっき逃げて来たヤツより明らかに大きな魔鉄喰い。10メートルの横幅いっぱい、しかも動きが思っていたよりも早い。左右に体を揺らし、その反動で前に進んで来る。
魔鉄喰いが揺れる度に、地面も揺れる。
「こ、航ちゃん…」
ズズズッー
更に振動が大きくなった。しかもその震源地は前からじゃなくー
「ピイ! 航平!」
「キュキュ!」
後ろだ!
さっきまで魔鉄を採取していた最奥の行き止まりが、一瞬で崩れる。
現れたのは、もう一匹の魔鉄喰い。デカい口の端からは、ザラザラと細かくなった岩が砂となって流れ落ちていた。
「ひゃああ!」
ゆんが後退り、俺の後ろに回った。
入り口からの魔鉄喰いがすぐそこまで迫っているところに、後ろからも。
これはマズい……。逃げよう!
「賢者の家!」
フォンッ
前後の魔鉄喰いが巨大な口を揃って開いた瞬間、俺はゆんを抱え、半透明の膜に飛び込んだ。
読んでくれてありがとうm(_ _)m魔鉄を手に入れ、賢者の家に逃げ込んだ航平たち…続く。




