ムキムキは勘弁
空はどこまでも青く澄み、所々に白い雲浮かんでいる。心地良い風が草原の草花を揺らし、雲をどこかへゆっくりと運んで行った。
「…な、何? あたしの田舎みたいなんだけど?」
驚きの表情を浮かべて、ゆんが隣に立つ俺を見る。
Pちゃんとマシロとだけで潜った先週の土曜日、賢者の家がようやく7になり、100m×100m×100mが開放された。
てっきり次は50メートルくらいだと思ってたんだよな。だけど、一気に100メートル。
30メートルの平屋の時で、俺、Pちゃん、マシロが入れたから、レベルと一緒に人数制限も上がっているとふんで飛び込んだけど、正解だったな。
あの頃の平屋も良かったが、今建っているのは、丸太が支柱に使われたニ階建ての白い壁に、やっぱり渋い赤色の屋根の家。中にはまだ入っていなかった。
レンガで作られた小道が、赤い薔薇と白い薔薇のアーチ門を通り、庭を抜け、玄関ドアまで続いている。
「うわ…おとぎ話に出てきそうな家」
「まあね。とりあえずここで、魔鉄喰いをやり過ごそう」
そう言って俺が草原に座ると、ゆんも緊張が解けたのかペタリと座り込んだ。
「…はあ。ここって何? 風は気持ち良いし、花の匂いがする。さっきの洞穴のわけないよね?」
そう、レベルが上がって今までなかった『風』が吹いているし『雲』も浮かんでいる。
次にこの世界が広がる時、この世界になかった風と雲があれば良いと思った。癒やしのソファーがずっとあれば良いと思ったのと同じように。
『スキルの持ち主の想いが反映されやすそう』と、Pちゃんも言っていたしね。
レベルが上がって、オプションのように増えたのか、俺の願いが反映されたのかは分からないが、失われた世界の復元ということだから、その世界が俺にとって、気持ち良い世界だったんだろう。
「俺のスキルだよ。異空間って感じかな」
「い……マジですか?」
「大マジです」
「じゃあここに口だけお化け、入って来られないの?」
「ああ、でもここの時間経過は俺たちの世界の1/5、ここに来て5分くらいだろ? 向こうはまだ1分くらいしか経ってないから、もう少しここにいよう」
今頃魔鉄喰いたちは俺たちがいきなり消えて、ブチギレてるかもしれないし…。
「もう色々あり過ぎて、頭が追いつかない…」
頭に巻いた白いタオルの上から頭を押さえる。
分かるぞー、Pちゃんが現れた時の俺もそうでした。あ、そうだ。
「Pちゃん、マシロ出て来ていいよ」
バッグの天板を開けるとふたりが飛び出して来た。
「ピィ、危なかったですピ」
「キュィッ」
マシロが草原に飛び降り、辺りを走り回る。背の低い草に体が半分隠れていたが、ぴょこっぴょこっと白い背中が草の間から時々見えた。
「マシロ、待つですピ!」
その後をPちゃんが重たそうに飛び、追いかける。
「で、あそこに見えてる家、誰か住んでるの?」
「いや。ここには誰もいない。一度失われているからさ」
「何その謎かけみたいな返事。…まあいいや。ねえ、ここに来たの、あたしが初めて?」
「いや、先輩が先。まあ10メートルずつの世界で、建っていたのは納屋だったけど」
「むむ、薫が先かあ。まあ流石にインスタで教えてくれないのはわかる。人のスキルをペラペラ喋るもんじゃないし、まず誰も信じないもんね。でもなんか悔しいから、今度会った時くすぐりの刑にしよう」
両手をワキワキしながら、にやっと笑う。感電するぞ?
「そうだ、さっきゆんが取った白い魔鉄ホニャララ、あれなあ…」
空間庫を頭の中で開く。
魔鉄喰いの糞 ×1
空間庫に収納した時、思わず投げ捨てようとしたが、そんな場合じゃ無かったからね…。
「はあ!? あたしガッツリ触ったし!?」
草に手のひらをこすりつけながら、なぜかゆんが俺を睨む。糞って表示があると知れて、テレポの魔力丸が糞でないことが正式に分かったから、俺はちょっとほっとしたけど。
「行こう! 航ちゃん! あいつら変なモノ触らせてええ、許さない!」
ザッとゆんが立ち上がる。Pちゃんとマシロが何事かと戻って来た。
「それは流石にちょっと、魔鉄喰いたちに責任は…」
まだ、向こうは2分くらいしか経ってないから、ブチギレの最中かもよ?
「なに?」
あれ? ゆんは威圧取ってないはず…。
「…行きます?」
結局ちょっと、様子を見に戻る事になった。
出入り口の膜を出す。これで入った時の場所に戻る。半透明の膜の向こうは何もいなかった。ただ出入り口の光も見えない。少し先にバカでかい繭のような物が、天井からぶら下がっているのが歪んで見えた。
「なんだ、あれ?」
新手の魔物か?
ゆんを置いて出られないので、一緒に膜から顔を出し、辺りを伺う。
(ピ! 航平! これはー)
(…ああ、間違いない)
「航ちゃー」
「……」
声を出しかけるゆんに向け、指を口に当て静かにと伝える。
魔鉄喰いは2匹ともまだいた。お互い巨大な口を開け、ぶつけ合い、力が拮抗しているのかピクリとも動かない。俺たちが賢者の家の内側から、半透明の膜を通して見ていたのは、魔鉄喰いの口の中。そしてあの繭はー。
一気に繭まで走りながら、取り出した雷光に魔力を流す。象でも産まれ落ちそうなほどの大きさの喉ちんこを雷の光りと共に切り落とした。
一匹が消滅する前に、もう一匹の口の中に移り、同じように喉ちんこを切り落とす。
「航ちゃん!」
ゆんの悲鳴が聞こえた時には、既に2匹の魔鉄喰いが光となって消滅していた。
レベルが上がりました
レベルが上がりました
レベルが上がりました
頭の中に声が響き、久々に連続でレベルが上がって行く。
「…航ちゃん、あたしのレベルが、凄いことに…」
「キュイイイ」
ゆんとマシロが声を上げる。
二人ともムキムキになったら、ちょっと嫌だな…。
読んでくれてありがとうm(_ _)m滑り込みになりそうな今週…。仕事と、でも書きたいジレンマと戦いつつ、夜はふけるのであった。




