モフ好きを怒らせない方がいい
「…Pちゃんここってダンジョン? 避暑地?」
「避暑地とはこの世界で暑い時に涼を求め…」
「ごめん、なんでもない」
地下6階、てっきり5階と同じ洞窟ダンジョンを想像していたが、予想に反してそこは緑豊かな、明るい森が広がっていた。
何なら鳥のさえずりも聴こえてくる。
「何か魔物が出そうな雰囲気じゃないな」
どちらかと言えば、鹿や、ウサギ、7人くらいでハイホー言ってる小人とかいそうな感じだ。
そんなことを思っていると、本当に白いウサギが太い木の根本から、ひょっこり顔を出した。
いや、顔はウサギに似ているが、耳は短め、目はくりっと大きい。そして見るからにフワフワな毛。
キラキラした瞳でこちらをじっと見つめ、逃げようともしない。
「おいおいかわいすぎだろ〜。よしよし、どうした? ん?」
白ウサギもどきは警戒しているのか、そこから動こうとしなかった。
怖がらせちゃったかな?
俺はチチチッと呼びながら、近づいていく。
「ピ! 航平!」
バッグからPちゃんが声を上げる。
「しっ。そんな声出したらウサギが逃げ…」
木の影から覗いていた白ウサギもどきが、その姿勢のまま、ふわっと浮き上がり消えた。
「おお?」
それと同時に頭上の、葉の生い茂った太い枝が揺れ、葉っぱが落ちてくる。
見上げるとバカでかい蛇が、口を開け襲いかかってきた。
「おおお!?」
噛まれる寸前のところでかわす。
俺を捕らえ損ねた蛇は、ドスッと地面に落ちた。
鎌首をもたげ、牙を剥き出し、威嚇してくる。
両腕を回しても足りないくらいの、太く白い胴体はとぐろを巻き、長く尖った牙がヌラヌラ光っていた。
きっとさっきの白ウサギもどきは、こいつに食べられたに違いない。
…と思ったら、蛇の近くに白ウサギもどきがいた。
正確に言えば、蛇の尻尾の先に、いた。
蛇の尾の揺れと同じように、キラキラした愛らしい目のウサギもどきも揺れる。
肉食系:トリッキースネーク Lv11
攻撃パターン:噛みつき、毒吹き、締め付け、丸呑み
小動物に似た尾を持ち、近づいてきたモノを捕食する
体に攻撃を受けると毒を噴き逃走する
弱点:火魔法、風魔法、水魔法、雷魔法、牙、首、腹への物理攻撃
もどきは、ほんとにもどきでした!
疑似餌の可愛さに負け、もう少しでエサになるところだった…。
なんだか無性に腹が立つ。
「くそう、俺の感情を踏みにじりやがって! 水弾!」
トリッキースネークの片目を潰す。頭が大きく揺れた。更に残った眼に水弾をもう一発。
両眼が塞がったところに、風刃を連続で撃つ。
白い胴体がみるみる傷ついていく。
トリッキースネークが毒を噴こうと口を開けた時を狙い、両手を重ね、刃を2枚重ねるように風刃を撃った。
牙を持った上顎が体から離れ、光って消える。それに続いて体も消滅した。
頭の中で風魔法3、水魔法2に上がったことを知らせるアナウンスが流れる。
トリッキースネークの消えた後に、紫色の液体が入った小瓶2本と魔石が転がっていた。
俺はため息をつきながら、それを空間庫に収納する。
トリッキースネークの魔石 1
毒消し剤×2
「…Pちゃん、可愛いのを利用するのは、ダメだよね?」
俺が笑いながら言うと、Pちゃんがぶるぶる震えながら、片羽を上げた。
「こんな雰囲気の場所だから、油断しちゃったな」
俺はちょっと反省すると、ひとつ深呼吸をして、空間把握と気配探知を放った。
どうやら5階と同じ広さの円形状をしていて、今度は奥側の右隅に階段があった。
気配探知に引っかかった魔物は大小様々、動きも同じ所を往復するモノ、動かないモノ、高速で移動しているモノもいた。
気配探知、空間把握がそれぞれ3になり、かなり使えるようになった。
「あ、そうだ。さっき風と水魔法が上がったよ、Pちゃん。ん、どうした?」
「いえ…さっきは随分一方的に戦っていたので、違う一面を見たと言いますか…ピ」
Pちゃんがバッグから、そっと顔を出す。
「え、そう? いつもと同じだと思うけど? それより腹減ったなー。Pちゃん今何時?」
「13時20分25秒になりましたピ」
Pちゃんはこの世界の時間ともリンクしていて、正確に時刻を教えてくれる。79日後のダンジョン出現に関係しているらしい。
「よし、この辺は魔物の気配も無いし、昼飯にしよう」
「賛成ですピ!」
Pちゃんが両羽を上げた。
少し怯えているように見えたが気のせいだったようだ。
4畳くらいある切り株に座り、空間庫から美波から貰ったハンバーグ弁当と、お椀に入ったわかめとネギの味噌汁も出す。
昨日の夜、Pちゃんを2度目のお風呂に入れた後に作った物だった。今作ったばかりのように、湯気が上がっている。
「頂きます!」
「頂きますピ!」
森の中で、鳥のさえずりを聴きながら食べるハンバーグ弁当も、味噌汁も、いつにも増して美味かった。
「この階も結構広いし、帰りのことを考えると今日はここを少し探索して、終わりだな。…はあ、帰りまたあの洞窟通るのかぁ」
5階もデビルフィッシュに捕まったり、ビッグスラグを倒しまくったせいとはいえ、3時間以上掛かってしまった。
更にブラッドバットに衝撃波を撃たれたらと、考えただけでも憂鬱になる。
「転移すれば良いですピ」
ハンバーグを口いっぱいに食べながら、Pちゃんがさらりと言った。
ガッとPちゃんを掴む。
「あんの!?」
あの有名な…フュンッーって飛んで消える…
「あ、ありますピ…だからはなして…ピ」
「どこにあんの!?」
「この階に…ピ」
なんだってええ!?
あ、Pちゃんがクタってなった。
読んでくれてありがとうm(_ _)m駆け込み乗車滑り込みセーフ…ひぃっ! ブックマークが増えて…スイマセンスイマセン、なんかスイマセン




