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緊急報告会


「新年おめでとう。今年もよろしく頼む」


 千駄木オヤジが会議室のスクリーンに映ったギルドマスターたちに頭を下げる。


「では早速だが緊急報告会を始めよう」


 挨拶から続いた言葉に、それぞれが緊張した面持ちで頷いた。


「1月4日未明、バレンツ海域でハリケーンが発生。乗組員は全員無事だったが大型タンカーが沈んだ」


 千駄木オヤジが指を組み、スクリーンに向かって話を進める。


「なに、この時期にはポーラーロウと呼ばれる局地的寒気と海上の水蒸気で、積雲対流が発生することはあるらしい。まあ台風みたいな物だ。ただ本来なら海上で発生し、沿岸部に接近すると勢力を失うところなんだが、今回はそれがなかった。つまり沿岸部で発生したハリケーンが海上に影響を及ぼしている」


「でもハリケーンは移動するから、別におかしいことではないでしょう?」


 ひとみさんがスクリーンの中で首を傾げた。


「沿岸部のハリケーンは動かないまま消えていきました」


 徹さんが千駄木オヤジに変わって答えると、パソコンを操作し、


「気象衛星データです。8日前ロシア沿岸、バレンツ海域に各1ヶ所、大型のハリケーンが出現しました。時系列で映像を進めます。まず1月3日にロシア側で発生、その後バレンツ海域を巻き込むように勢力が拡大していきます」


 スクリーンの中央に、気象衛星画像に2つの台風の目と、それを取り巻く白い渦が映し出された。


「……ほんと、動かないね。前に内戦地域で発生したサイクロンみたい……もしかして、ダンジョンが破壊されたのかな?」


 気象画像で隠れている美津さんの声が、会議室に響いた。


「爆発があったというニュースは聞きませんが」


 紅音さんの声が続く。


「でも62ヶ所のダンジョンは、それぞれの国が他国から攻撃を受けないよう、管理されているはずでしょ?」


 端に映る二葉さんが、食い入るように画面を見つめていた。


「ロシアにハリケーンが発生する前日、この海域でマグニチュード7の地震を観測しています。特に建物の崩壊や津波などの被害はでていませんが……」


 スクリーンの地図上に赤い円が映し出される。


「ああ、ダンジョンが地震によって崩れたってことかな? 兄さん」


 先輩がスクリーンの横に座る徹さんを見ると、徹さんが頷き返した。


「そうだろうね。地震によりダンジョンが崩壊。漏れ出た魔力によって低気圧が発生し、新たなハリケーンを生み出したと考えているよ」


「徹先輩、ロシアのダンジョンはどうなってるんですか?」


「報告によれば5つだね」


 美津さんの質問に徹さんが両肩をすくめた。


「ピ、ロシアは日本の国土面積の45倍ですピ。この世界の面積は1億3612万7000平方キロメートル、日本の国土面積は世界の0.28%、日本のダンジョンが航平のモノを入れて7つとなれば、特殊な条件下での出現とはいえ、この世界にはダンジョンはもっとあるはずですピ」


 Pちゃんがテーブルの座布団の上で片羽を上げた。


「現在確認されているダンジョンが62ヶ所。確認されていないダンジョン数は、それよりも遥かに多い……ということですか」


 遠野さんがふうっと息をついた。


「それは想定内だ。人間の立ち入らない場所なんてごまんとある。ただ今回は被害を被ったものがものだけに、ハリケーンが人為的に作られたと噂が流れ、少々禍根が残った」


「禍根?」


「天然ガス液化プラント施設が半壊。先日沈没したのはLNGを積載したタンカーです」


「バレンツ地域は微妙な場所でな。石油、天然ガスと海底資源が豊富で、ノルウェーと二分するまで係争状態で、10年前に決着がついたばかりだ」


「でも人為的って、そんなことできないでしょう?」


 まさかねえ……。


「偶然起こったとしても重要施設が破壊されれば、そこに作為的なモノを感じるのが人間だからな」


 ふんっと千駄木オヤジが息をつくと、目を軽く閉じ、やがてテーブルの上のPちゃんに向き直った。


「Pちゃん、この世界はいつまで持つだろうか」


 千駄木オヤジの言葉に、会議室の俺たち、スクリーンに映るギルマス全員が息を呑んだ。


 いつまで、持つか……。


「分かりませんピ。ただ国同士が争えば、ダンジョン拡大より早く荒廃していくのは、皆分かっていることですピ。世界が終わるとすれば、ダンジョンによるものか、人間によるものか」


「ちょっとPちゃん、人間はそこまで馬鹿じゃないよ」


 ははっと思わず笑いが漏れる。


「……そうだろ?」


「……エミーナはまだ5歳です。もちろん世界の終わりなんて受け入れられない」


 スクリーンの中で、遠野さんが膝に乗せたエミーナの、ふわふわな金色の髪をなでる。


「エミですよ。とおのエミです」


 エミーナがぷっと小さな頬を膨らませ、頭をなでる遠野さんを見上げた。


 世界の終わりなんて冗談じゃない。美波だってまだ16歳だ。


 ここにはいない美波の、着物姿が浮かぶ。初めて着た着物にあんなに嬉しそうだったんだ。ウエディングドレスなんて着たら、どうなってしまうのか。俺はそれをからかって、おめでとうを言うと決めている。


(世界がどうなろうと、航平には賢者の家がありますピ。初め航平は、美波と母さん、家族だけ助けると言っていましたピ)


(そりゃあそうだけど。エミーナはまだ5歳だぞ?)


(ではエミーナも連れていけばいいですピ)


(……父親の遠野さんと引き離せないだろ? 遠野親子だけじゃない。雁屋三姉妹に紅音さん、冬馬に澤井さん、三好さんに櫻井先生、ゆん、つぐみさん、定爺、職人のじいちゃんばあちゃん、ギルドの職員……。ほら、あの騒がしパーティーの鮭たちだって。そうだよ、イーサンたちはどうなる?)


 顔を上げると、先輩と目が合った。初詣、楽しかったな。考えてみれば、女性と二人で初詣に出かけるなんて初めてだった。Pちゃんとマシロがいたけど。


(随分と守りたい人間が増えましたピ)


(……ほんとだ)


「まずは人間が先か」


 静まり返った会議室に、千駄木オヤジの低い声が響いた。







読んでくれてありがとうm(_ _)m 投稿が最近遅くなってしまっているけど、まだ一緒に楽しんでくれてるとイイなあ(;一_一) 感想の返信も遅くなって申し訳ない。でも力もらってるんだよー。元気玉

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― 新着の感想 ―
[一言] 大丈夫。楽しんどるぞ!
[気になる点] 地震でダンジョン崩壊からハリケーンて地震の多い日本は最悪ですね 未発見ダンジョンも困ったものです 困ったときはドラえもんじゃなくて冬馬君に期待です [一言] 対人恐怖症の耕平君の守りた…
[良い点] 関係性から守る対象増えちゃってるのいいぞー [一言] 年末が近づいてますからね。リアル優先体調優先で。 ところで異世界ってどう滅んだんでしたっけ。 魔力があふれて魔物を処理しきれなくなっ…
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