表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/222

千駄木オヤジからのご褒美?




 目の前でなにが起きたのか、俺は理解できずにいた。


『なんだよ……なにやってんだお前……おい、ベン?』


 曇った空を虚ろな目で見上げるベンに問いかけても、返事は帰ってこない。



starG8321/9235 Ben Mogan Lv4 dead


 

 首のstarに触ってもいないのに、勝手にレベルタグスクリーンが出現し消える。そこには血溜まりの中、仰向けに倒れているベンだけが残った。


『ひぃっ! クライド! ヤバいぞ……クソッ』


 アルフが辺りを警戒しながら、ジリジリと後退る。


『待てよ、まだベンが……』


『もう奴は駄目だ! スクリーンに出ただろっ! 俺は行くっ』


 走り出したアルフの背中を呆然と見つめる。どうにも足が動かない。その時ベンの血にまみれた体が一瞬動いたように見え、急いで近寄った。


『……おい、ベン!』


 相変わらずベンは、生気のない目で宙を見ているだけだ。そうしている間にベンの体が、硬い岩盤の中にズブズブと沈んでいく。動いたんじゃない。動かされたんだ……。


『クソッ! どうなってんだ!』


 ベンのソードをバックパックに差入れ、首にかけられた銀色のドッグタグを引きちぎり、走り出す。足が鉛のように重い。まるでベンが置いていくなとすがっているかのようだった。


 突然現れた()()()はまるで無数の刃を持ったトルネードの様に回転し、立ちすくんだベンを切り刻み去って行った。


 聞いてない……あんなのが2階にいるなんて聞いてない!


 1階へ続く階段まであと少しの所で、うつ伏せに倒れているアルフがいた。背中が真っ赤なのが遠目でも分かる。


『アルフッ』


 仰向けに抱き上げたアルフの体はまだ温かい。呼びかけに反応し、アルフの目が微かに開き俺に笑いかけた。


『……すまない。お前を置き去りにした罰だな……ダチなのに』


 抱き上げたアルフの腹から、血が溢れて止まらない。


『……神よ……お許しを』


 そう小さく呟き、目を再び閉じた。ガクリと首が下がる。


『おい! しっかりしろっ! 階段はすぐそこに……』



starG8245/9234 Alf Cnnor Lv5 dead



 ……クソックソッ! クソッタレ!


 地面についたアルフの踵が、ズブリと沈んでいく。いくら引っ張り出そうとしても抜けなかった。体は諦め、アルフのドッグタグを取る。


 俺は死なない!……死んでたまるか!


 目の前に階段に飛び込もうとした時、背中に強い衝撃を受け、そのまま前に倒れ込んだ。背中が燃えるように熱い。バックパックが背中から切り離され、熱く脈打つ場所を手で触る。触った手が、ぐっしょりと濡れる。倒れたまま後ろを見ると、異様な姿のあいつがそこにいた。


 ……クソ、もう駄目だ……お前は一体、どっから来たんだ?


 自分のドッグダグをなんとか引きちぎり、ベン、アルフのドッグタグと一緒に階段の一段目に置く。


 ……せめてこれだけは、ダンジョンに食われたくねえな


 そこで意識がプツリと途絶えた。




 コンコンッ ガチャッ


『おいイーサン、上層部から調査要請がきてるぞ』


『……うん、無理』


 ノックと共に部屋の明かりをつけられ、暗闇を求めベッドに潜り込む。まだ日も昇っていない。


『下士官の二等兵3人がやられたらしい。二人が死亡。ひとりは意識不明の重体だ。……()()()陸軍兵士の初めての死者だ』


『……どこで?』


 ベッドの中から同僚のアレンに尋ねる。


『サンフランシスコ市トレジャーアイランド』


『トレジャーダンジョン? あそこはそんなにモンスターレベル高くないだろ? 何階? イキって4階とか行ったんじゃないか?』


『いや、どうやら地下2階らしいぞ』


『2階? 初心者か?』


 思っていたよりも浅い階層に、思わずベッドから顔を出す。


『ランクはstarGだが、Lv4、5。Lv9の奴が重症者だ。そいつも背中に新しいソードを入れてなかったら、間違いなくお陀仏だったらしい。他2名の遺体はない』


『あの黒い刃紋のソードか……。他の奴はモンスターに食われたらタグは残らないし、ダンジョンに呑まれたんだろう』


 軍部がドッグタグを背負わせたネズミで検証した結果、死んでからしばらくすると死体は地面に沈んで消えるが、無機物はその場に残ることが分かっていた。


『まあ、死んでしまえばどっちでも同じか。軍葬?』


『いや、探索者自体が秘密事項だからな。何もしないだろ。だから親兄弟のいない者を集めたわけだし。俺も、お前も』


 ブロンド短髪のアレンがふうっと天を仰いだ。


『3枚のドッグタグ、随分重いな』


 アレンの呟きにああと頷きながら、ベッドから出た。完全に目が覚めてしまった。時刻は朝の5時。ここラスベガスからトレジャーアイランドまで車で5時間はかかる。


『アレン、朝食は"ホットバード"のフライドチキンがいい』


『え? またかよ……好きだからって朝からそんなの食うやついないぞ?』


『いいじゃないか、旨いんだから』


『はいはい分かったよ、リーダー』


 アレンが大げさなため息をついた。




 同日22時、東京


「それでね、冬馬君がその『気配探知図』を製作するまで、品川ギルドは閉鎖。品川の探索者は八王子ダンジョンに潜るらしいわ。今月中にできるかも分からないって、冬馬君も徹さんも青ざめてたから、お母さん、連休ができちゃった」


 うふふと母さんが悲しそうに笑う。うん、嬉しそうだな。思えば母さんはずっと働きづめだから、たまにはゆっくりしても罰は当たらないだろう。それにポーションや魔石を売って、金銭的には俺もずいぶん余裕が出てきたから、母さんひとりくらい温泉に連れて行ける。


「じゃあ、温泉でも行く?」


「えー! ほんと!? それって家族旅行みたい! 行きたい!」


 美波が自分も行けるものだと思ったのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


 そういえば家族旅行なんて行ったことがない。なんだか急に美波が不憫に思えてきた……。


「でもお前は学校だろ?」


「旅行再来週にして! そうしたら文化祭の振替休日で4日間休みがあるから。もちろんピヨちゃんとマシロちゃんも一緒に!」


「お前そんなに長く……宿代だって」


「ねえみんな、実は長が自衛隊員を守ったご褒美にって、海外行きの旅行券くれたの。行く?」


「……きゃあー! 行く行く! はってでも行く!」


「お母さんも!」


 母さんと美波が、もうトランポリンをやってるんじゃないかというくらいに跳ねる。


「ちょっと待った! 海外って……行けないだろ? パスポートなんて高級品、みんな持ってないんだから」


「それがね、澤井さんがパスポート申請してくれるみたいなの。私たちは書類を書いて、1週間後に取りに行くだけですって」


 母さんが、うふふと笑う。


「パスポートなんてすごいねえ」

「ほんとねえ」


 美波と母さんが、うっとりと呟く。


「なんか至れりつくせりだな……場所はどこ?」


 どうも怪しい。千駄木オヤジがなんの見返りもなく動くか?


「ラスベガスですって」


「ラスベガス……たしかカジノだよね!? きゃあぁ! カジノ!……カジノって、何するんだっけ? お母さん」


「たしかサイコロで、半! 丁! って感じじゃないかしら?」


「へえ……ハンチョウってなあに?」


 美波が首を傾げる。


 ……絶対怪しいだろ!? 田所家に一番縁のない場所にご招待なんて!








 




読んでくれてありがとうm(_ _)m パスポートって高いよね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 千オ「お前ならカジノで勝てるだろ? ついでに俺の友達に挨拶もよろしくな!」 田所家は旅行できて、千駄木家は貸しを作れて、お友達は悩みが解決して、これがWIN-WINってやつですね! [気…
[気になる点] トレジャーアイランドがある場所は。 さすが主人公、勘が冴えているな。
[良い点] 主人公の不憫さ目立た無いのがかわいそうだけど面白い。 [気になる点] 話が広がって広がって着地が見えない点。 全部回収して終わらすのって大変そう。 長いマラソンのような作品になりそう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ