家族旅行
ゲートから出て人の流れに沿い、なんとなく皆で固まって歩いて行くと、きらびやかな赤い文字を掲げたエスカレーターが目の前に現れた。
【LAS VEGAS】
「家を出てから16時間……やっと着いたあ」
美波がウーと伸びをする。
「初めての飛行機に乗ったけど、広くて静かだから、お母さん熟睡しちゃったわ」
「俺も」
「でもなんだかみんなビシッとしてて、場違いな感じがしたよね」
千駄木親父が用意してくれたのはファーストクラス、料金が高いということは、なんとなく知っていた。待合室は高級ラウンジのようで、ドリンクも無料だったが、あんなものなんだろうか? 飛行機自体乗ったことがなかった俺たちにはよく分からなかったが、快適だったのは間違いない。
「ターミナル1で荷物を受け取ったら、迎えの人が来てくれるらしいよ」
行き方、乗り方まで細かく書かれたメモを見ながらふたりに告げる。成田空港まで送ってくれた澤井さんがくれた物だ。
「アメリカの人かな? 英語分からないけど。やだ緊張してきちゃった……」
長いエスカレーターを降りながら、美波が両手を頬に当てる。
「大丈夫、現役学生の美波が分からなかったら、お母さんも航も分からないから」
なにが大丈夫なのか分からないが、母さんが悲しげに笑った。
「なんか空港が甘い匂いがするねー! ドーナツみたいな。ピヨちゃんたちがよだれ垂らしそう。……ピヨちゃんたち、大丈夫かな」
美波が心配そうに俺を見る。
飛行機に乗るとなった時、Pちゃんはぬいぐるみで通せるが、問題はマシロだった。ペットを飛行機に乗せるためには、事前にマイクロチップの装着、感染症などの採血をしなきゃいけなかったからだ。
「大丈夫だよ。Pちゃんの指示なんだから。こっちは11時だけど、日本は19時くらいだから、今頃三好さんのご飯を食べまくってるよ」
そこから巨大なベルトコンベアーに流れてきた自分たちの荷物を受け取り、エレベーターに乗って指定された駐車場に向かうまで、更に1時間以上かかってしまった。広いし待つし迷うし人は多いし……もう帰りたくなったのは内緒だ。
『遅いな……なんで俺たちが来なきゃいけないんだよ?』
マッカラン国際空港の駐車場に車を止めたアレンにぼやく。そんな俺にアレンが苦笑いを浮かべた。
『だから言っただろ? 上からのお達しだよ。VIPだから丁寧にお迎えしろってさ』
『どっかの金持ちが金を落としていくのを、俺たちがお守りするってわけだな』
『イーサン、またそんなこと言って相手を怒らせるなよ? 俺はもう減給されるのは御免だ』
『あれはムカつく奴だったからしょうがない。ちょっと肩を掴んだだけでギャーギャー喚いて』
『今度は日本からのVIPだから、失礼な事を言ったら日本刀で斬られるぞ?』
アレンが斬られる真似をして、にやりと笑う。
『ハッ! サムライソードじゃ斬れないさ』
『それもそうだ。おい、来たぞ』
アレンが車から降りて、手を振る。仕方無しに俺も助手席のドアを開け、外に出る。
「ソーリー、あいむれいと……ないすとぅーみーちゅー」
発音は置いといて挨拶の聞こえたほうを見ると、細い女、女の子、そして男がひとりぎこちなくアレンに手を振り返しながら近づいてきた。
『金持ち……っぽくないな』
手を振っている若い男が着ているTシャツはどう見てもまがい物だし、しかも今にも吐きそうな感じだった。細く綺麗な女はどこか悲しげだ。飛行機で何かあったんだろうか? 元気なのは女の子のチビちゃんだけだな。
『やあ、みんなよく来たね! 僕はアレンだ。こっちの赤毛がイーサン。よろしくね!』
さすがアレン、人懐っこい笑顔が3人の緊張を一瞬で解いようだ。
「えっと、アレンさんにイーサンさん……『さんさん』になっちゃった」
何を言ってるか分からないが、チビちゃんがにっこり笑うと、華奢な女性もふふっと笑った。更に悲しそうになったのが不思議だったが……。若い薄い顔の男もホッとしたようで、顔色が戻っていくのが分かった。
『日本では敬称が"さん"なんだよね? こいつはイーサンで良いよ』
『なんだアレン、日本語が分かるのか?』
アレンが笑いながら答えるのを聞いて、つい口に出る。
『いや、でも多分そう言ってる。こんなのはフィーリングだよ』
『その通り、日本語は敬称で"さん"をつけます。俺は航平、この子は妹の美波、それと母の凪子です。荷物の受け取りで迷ってしまい遅くなってすみません。ミスター』
薄い顔の男がさっきの挨拶が嘘のように流暢とまではいかないが、十分聞き取れる英語を話しだした。俺たちが驚いていると、同じように驚いているミナミとナギコが矢継ぎ早にコウヘイに問いかける。
「こう兄!? 英語話せるの?」
「航、そんなに英語得意だったかしら? 確かにいつも赤点ギリギリアウトだったような……」
「ギリギリアウトって、だめじゃん!?」
「まあ俺だってこれくらい、できるさ?」
なははーと笑ってごまかしているっぽいコウヘイに、アレンが笑顔でその肩に手を置いた。
『コウヘイが英語ができて良かった。さあ乗って、とりあえずホテルに送るよ』
コウヘイが頷くと、ナギコとミナミにひと言いい荷物を手に持った。
ん? コウヘイの腰の黒いウエストバッグ、あんなの着けていたか?
俺がジッとウエストバッグを見ているのに気づいたのか、コウヘイがさり気なく体の向きを変えニコッと笑った。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 進んでるよ? 進んでますって……Σ(・∀・;)
誤字報告ありがとうございます!




