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「これは……皆様お揃いで」
呆然としている俺の横をすり抜け、スニーカーを脱いだ澤井さんが隣に立った。
「お揃いで、じゃないわ! こっちはお前が死んだと……」
千駄木オヤジが言葉を切って顔を背けた。
「すまない、澤井。それから田所くん、勝手に家に入って本当に申し訳ない。私の勘違いでこんなに大事になってしまって」
徹さんが90度のお辞儀をする。
「ボクも謝る。いくら心配したとはいえ、大家という立場を利用し、合鍵で入ってしまった。職権乱用だ。航平君、すまなかった」
千駄木も黒髪を垂らし、深々と頭を下げた。
「あの、澤井さんが死んだと思ったとは?」
「ああ、ここにいる3人も『レベルタグ』をつけたんだけどー」
「タグの説明をしてもらっていた時に、徹君が自分の印を触って、突然顔面蒼白になったんだ」
30代くらいの銀縁眼鏡を掛けた短髪男性が、徹さんを見て苦笑いをした。
「印を触ったら自分の名前の下に、澤井の名前が出て『lose』と出ていたから、てっきり……。父さんと薫にその事を伝えてここに来たんだ。中に入ろうか迷っていたら『lose』表示が消えてて、ここで待っていたんだよ」
「田所航平さん、初めまして。千駄木家のホームドクターをしている櫻井研です」
そう言って、さっき苦笑していた銀縁眼鏡さんが印の入った左手を差し出して来た。流れで握手をすると、うんと頷き、握った手に目配せをしてくる。
ああ……そういう事?
俺はそのまま人差し指を伸ばし、印に触った。
星7/8 サクライケン Lv1
「今度は俺。俺の事は知ってるだろ?」
女の子かと思うほど、整った顔。茶色いサラサラの髪が、無造作に白い肌にかかっている。背も美波より少し高いくらいで、声変わりしていない声。アイドルか子役俳優か……でも知らないな。
「いや、分からないな。誰?」
「……俺結構有名なんだけどぉ! ダイジョーブ? このおっさん」
お、お、おっさん!? 俺はまだ若いんだぞ!? おっさんは周りにいるだろ? むしろおっさん率が高い!
ふてくされたように横を向きながら、手を差し出してくる。握手しながら俺も仕方なく確認する。
星8/8 ヒイラギトウマ Lv1
「徹さん、中学生にレベルタグを付けるのは、どうかと思いますよ」
「俺は18だ! 目がクソわりーな」
眼調整10ですけど何か!?
「冬馬、そんな口を利くものではありません」
白い合わせの衣に朱色の袴を着た、長い黒髪をひとつに括った綺麗な巫女さんが、全くの無表情で生意気な冬馬をたしなめる。
おお巫女さん! よく言ってくれた! ……って、なんでこの部屋に巫女さんがいるんだろうか。
「初めまして」
やはり無表情で二人と同じように手を伸ばして来た。華奢な手を同じように人差し指を伸ばして握る。
星6/8 イノウアカネ Lv1
この人、3人の中で一番ランキングが上だな……。
「それでこの人たちは?」
「航平君! 聞いて驚け? この人たちはボクのインスタライブを観てくれていたメンバーなんだ! ボクもホームドクターの櫻井先生がフォロワーだとは思わなかったがな。他の方々とは今日が初顔合わせだ。クククッ! フゴッ」
先輩………。
徹さんが軽く片目をつぶってみせた。危なく耐性が無ければときめく所だった。
「柊冬馬君はアメリカの大学を飛び級して、今千駄木家の会社で働いてもらってる。まあ秀才だね」
「秀才じゃねえ、天才だ」
カワイイ顔に加えて頭脳明晰。しかしこの生意気さ、相当歪んでるな? 性格が。
「伊能紅音さんは、薫のおまじないグッズの浄化を頼んだ人だよ」
「後26個残っています。今月中には終わります」
やはり無表情で、淡々と進捗状況を伝える。
「浄化……巫女さんって浄化もされるんですね」
神楽踊って、御守を売っているイメージだったなあ。
「違います」
「え?」
「巫女ではありません。修復師です」
「修復師? でもその格好……巫女さんでしょ?」
「これは私服です」
「……」
皆さんクセが強すぎるんですけどお!?
「おい、自己紹介は後でも良い。移動するぞ。ここは狭くてかなわん」
千駄木オヤジがさっさと出て行った。その後に皆が続く。土足だった。
6畳部屋に7人いたらそりゃ狭いでしょうよ!? 土足も謝って!?
「すみません、航平様。私がお願いしたばかりに」
「ああ、大丈夫ですよ」
「皆酷いなあ。土足なんて汚い」
最後まで残っていた櫻井先生が苦笑いしながら、ポケットから『除菌も出来るウエットティッシュ』を取り出し、手袋を着けて床を拭いていく。
「私も手伝います。皆でやればすぐ追い付きます」
「ありがとございます。俺もやります」
良かった、新しい星印メンバーで櫻井先生だけはマトモだった。
「澤井さんの腕、ちょっと見せてもらっても?」
ジャージの左袖が破れ、筋肉がついた左腕をマジマジと見ながらも、床を拭く手を止めない。
「ええ、どうぞ」
「ありがとう。……この創傷痕、まるで縫合してから年数が経った様にケロイド化している。切断された? いやまさか」
「そのまさかですよ。航平様が治してくれたんです」
澤井さん、そんなあっさり教えちゃうの?
「それは凄いな……どれ」
床を拭く手を止め、台所から包丁を持って来た。
「……え? ちょっと何を」
「腕はさすがに医者なんで切れないけど、足なら、ね?」
にっこり笑い、スラックスの裾をたくし上げ、首にしていたネクタイで腿を縛った。
「何が『ね?』ですかああ!? 止めて下さいよ!」
慌てて止めに入り包丁を取り上げる。
「残念だ。いつか機会があったらよろしく頼むよ。田所さん」
よろしく頼まれたくない。
「櫻井先生は研究熱心ですから、そうなさると思ってました」
澤井さんがやれやれというように首を振った。
……どうしよう、マトモな人がいない。
ダンジョン出現まで、残り24日。
読んでくれてありがとうm(_ _)m もうちょいしたら人物紹介かな。自分の為に( ・`ω・´)キリッ




