第一章 第九節 人か魔獣、神か悪魔か
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
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はい!この話にて、もう一人のメインヒロイン登場します!
「人か魔獣、神か悪魔か」ぜひ、読んでみてくださいませ〜!
「だから、もしも俺が死んだらさ、お前が生き返らせてくれよな、ダリウス!」
俺がそう、ダリウスに向けて叫んだ瞬間
グルルルルルルルル………
フォルネウスって魔獣が、俺の背後に立っていた。
荒い息、獣の香り、飢えと渇きに満ちた瞳をたぎらせるソレは、闇色の体毛を生やし、4本のツノが生えていた。
「こいよ、俺が……相手をしてやる!!」
タンカ切ったものの……こっっわ!
真紅の瞳は4つもあり、3メートルはあろうかっていう巨体が、俺をターゲットに身構えている。
「でも、俺は囮になる」
そう。それが、みんなで生き残る唯一の道。
魔法が使えるルダはケガで動けないし
カノンは女の子だ
ダリウスは、このスキに対抗できる魔物を召喚すべく、魔法陣を描いている。
やることは決まった!
「走る!」
逃げる!
走る!
マジ、それしかない!!!
少しはこの地形は理解した、俺はなるべくカノン達から離れ、大きな岩がゴロゴロと転がっている方へと足を急がせた!
やった、ちょうど岩の狭間に身を隠せそうな、小さな空間があるぞ!
俺は岩と岩のスキマに、サッと体を滑り込ませる。外の様子をそっと伺うと、ここからちょうど、一心不乱に魔法陣を描いているダリウスの姿が瞳に映った。
「がんばれよ……ディストピアの門、開いてくれよな」
俺は小さな小さな声で、つよく祈りを馳せた。
ファルネウスは、こつ然と姿を消した俺を探して、ゆっくりと散らばった岩をみつめている。
あいつ、眼は悪いのかもしれないな
あーーーーお願いだ、見つかりませんように……!!
息を殺して、ダリウスの方に視線を走らせる。もう少し、あと少しで魔法陣が完成しそうだ……!
うおおおおおおおおおおおおおお
地獄の門、いよいよ開くのか……! あれ?
「カノン、何してんだよ……?」
ダリウスが、地面に魔法陣を書ききった。
線を引いていた棒切れを、カノンが奪いとったんだ。は?
どういうことだよ、何故カノンが?
フラリ……前屈みになると、焦点の定まらない瞳で、完成した魔法陣にカノンが『謎の文字』を、つけ足した。
それは、先刻までのカノンならざる、カノンだった。眼に闇が宿っている、こんな時に……?
な、なに……してんだよっっ……!!
ありえねえ……。完成した魔法陣にひと文字書き足すなんて、とんでもない事だぞ……! あれは、この世の理を覆す一種の魔術だ。ディストピアの門がひらくっていうのに、あまりにも危険すぎなーーーーーー
轟音
グッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
破裂音とともに、苛烈な光が明滅する……!!
ウッソだろ……?
地獄の門が、開きやがったーーーーーーーーー
ダリウスの正面に空間を穿つ、ダークホール。その大きな漆黒の穴から、ズルリ……一匹の魔物があらわれた。
「魔物が……召喚されたのか……?」
フォルネウスは躊躇する事なく、その闇深き穴の奥から這いでてきた魔獣へと牙を向き、突進する。ダリウスがやってくれたーーーーーーー!
敵視してるんだ。よっしゃ!!
うまくいけば、ファルネウスVS召喚された魔獣の戦いになるはずだ。いや、そうでないと困るしな。魔獣同士で戦ってる間に、スキを見てダッシュで逃げないと、もう生きて帰れるない気がする!
「あ、どんな魔獣なんだろう?」
俺はドキドキと鼓動が脈打つのを感じながら、隠れた岩のすき間から、魔獣の姿をそ〜っと確認する。
「マ、マンティコアだ……」
まさかの、召喚されし魔獣はマンティコアだった……!
記憶がさざめく……
マンティコア、その名を俺は知っていた。
じっちゃんの本棚にあった、古びた書物に描いてあったんだ。体は真紅に染まり、尾はサソリのように毒を持っているとか。確か、トゲトゲの尻尾には24本の毒針が生えていて、背筋がゾワリとした記憶があった。
えっと、あのマンティコア……毒針とかあるのかな?
もう一度じっくり見てみ……。あ、うん、生えてますね、毒針。もう、トッキントッキン。あれ、ぶっ刺さったら俺死ぬんだろなあ。
は〜どう見てもマンティコアだよ
図鑑にあったソレだよ、もう絵本の魔獣だよ?
そう思いながら、岩と岩の狭間からマンティコアをじっくり観察する。ふいに奴が振り返った。
人面だ……!
体は虎のようで、みっしりとした密な毛が生えているのに、顔は人面だ。
ゾクッと、肌が泡立つ。魔獣の顔は、年を重ねた男性のようだった。どうか、どうか俺に気づきませんように……!!
たしか……じっちゃんの本にはマンティコアの絵とともに、「人間を好んで食べる」という、一文が添えられていた。
「人間を好んで食べる」
真紅の虎みたいな、顔は人面の魔獣。
そいつは、俺と目を合わせることなく、フォルネウスに向かって突進する。今だ……! 今のうちに、カノンたちを連れて逃げなきゃ! その刹那ーーーー
「嘘……だろ……?」
俺の眼前で、衝撃のビジュアルが繰り広げられていた
マンティコアの口がバカリと開く。大きく牙を剥きだし、フォルネウスの尻尾を一口でガブリと、勢いよく飲み込んだ……!
うそだろ……マンティコアの口と、フォルネウスの尻尾が溶けるように、一つになっていく。
「が、合体……してる!」
そんなまさか、マンティコアがフォルネウスを吸収してんだけど……!! シュウシュウ……と奇怪な音を立てながら、マンティコアは魔獣を取り込んでいく。
まるで自らの栄養にでもするみたいな光景だ。吸われたフォルネウスはみるみる透明になっていく。後ろの背景がうっすらと透けて、射し込んだ淡きブルーの光が、その体内をキラキラと駆け抜けていく。
フォルネウスはもう、透明な魚みたいなんだけど
なんだよこれ、どういう状態だよ……!?
「依代にするんだろう、あれは」
「ダリウス……!」
いつの間にか、ダリウスが俺の背後にいた。ルダ、カノンもいっしょに。
「だ、大丈夫かよ、みんな!」
「あたしは大丈夫、それよりダリウス。あの魔獣……どうなってるの?」
ダリウスは、まっすぐに魔獣2匹を指差し、託宣する神みたいに言葉を告げる。
「カノン、皆もよく聞いてくれ。今、俺が召喚した魔獣マンティコアは、フォルネウスを吸収し、依り代にしてるんだと思う」
「依り代?」
「ああ、恐らく生きている動物と合体しないと、この世で姿を保てないのだろう」
「ダリウス、あの子たち……合体すると、どうなっちゃうのかな?」
カノンの瞳が、不安でちいさく揺れていた。
さっきまで何かに取り憑かれたように、虚無の眼で魔法陣にサラリと文字を書き足した彼女とは、全然ちがうよな。
あれは、一体なんだったんだろう?
カノンは時折、俺の知らないカノンになる。
……ま、でもいっか。
今、ここにいるカノンは、紛れもなく俺の知ってる大好きなカノンなんだし……。危機的状況なんだし。そう、ムリやり自分を納得させた。
そんな事に思いを馳せているうち、ダリウスがカノンの髪をふわっと撫でて……るよな。って、おい!
「カノン、心配しなくていいよ」
「ダリウス……だって、フォルネウスって魔獣、どんどん吸収されてるよ」
「あれは、やがて一つの魔獣となる」
「ひとつの……?」
「ああ。取り憑いて、吸収して、この世で体を保てるようにメタモルフォーゼするんだ」
「お、おい! ダリウス、あれなんだよ……!」
俺は言葉を遮って、まだ開いたままのディストピアの門を指さした。
なんだろう……闇深い漆黒の穴から、何か……蠢く何かの姿があったんだ。
「これは……黒い雪……?」
瞬間。洞穴いちめんに、黒い雪が降りそそぐ
いや、ちがう
これは鴉の羽か?
地獄の門から吹く風に、ダークブラックの鳥の羽が舞う。ふわりふわりと舞い散るさまは、さながらこの世の終焉のように幻想的だ……。
そこに、美しい人が凛と立っていた。
ディストピアの門から、ユラリと現れたのだ。
「なんて……キレイな……」
思わず、感嘆の声が零れる
だって、ただただ美しい。
地獄の門から降り立つ彼女は
夢のように麗しいと思ったんだ……。
腰までながれる黒髪は風を孕み、さやさやと揺れる
その唇は、椿のような真紅の色をして
月のように白い肌に
黒レースのドレスを纏っていた。
その背には、おおきな黒き翼が生えていて
ふっと、艶めいた笑みを刻む。
なんだろう、時を忘れるーーー
今、魔獣から逃げないといけないのに。なんかもう、美しいと思ってしまった……。
漆黒の羽は花びらみたいに降りそそいで、その只中を彼女はひとり、裸足で歩いていた。ふとカノンが俺の袖をツンツンと引っ張る。なんだ?
みると怯えた顔で俺に問いかけてきた。
「……アレキ、あれは……誰?」
「わからない。たぶん、人じゃない」
「だよね、だってディストピアの門から出てきたもの」
「カノンは、誰だと思う?」
「あたしは……ダリウスが召喚した、魔物じゃないかと思ってる」
「やっぱ、そうだよな。あんなに美しいけど……」
「アレキ、多分あのひと人外だよ。心を許しちゃいけないと思うの」
「ああ、そうなんだろうな……」
なのに心惹かれる
心臓がドクドクと脈打つ
何故なんだろう?
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
マンティコアの咆哮
思わず、正気にかえる。
いかん! 絶賛、命がけの現場なんだった!
声の方角を見ると、フォルネウスを吸収しきったマンティコアが荒い息を吐いていた。気のせいじゃない、前より身長がひとまわり大きくなってる……!
魔獣を取り込んだせいだろう、エネルギーに満ち満ちているのが遠くからでも分かる。ヤバイ、今こんな状態で突進でもされたらーーーーー
バサリーーーーーーーーーーーーーーーー
まさに、俺たちに果敢に立ち向かってくるマンティコアを、黒き翼の美人が、その翼を広げて払いのけた。
「……懐かしき香り……。
久しいわね、世界
人の世にもう一度、降り立つことができるなんて」
人なのか、魔獣なのか
敵なのか、味方なのか
神なのか、悪魔なのか
うつくしき彼女は、無邪気にくるくると
シルクのような黒髪を、指先に絡める。
これが恋になるなんて、俺にはこの時
予想もできずにいたんだーーーーーーーー
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