第一章 第十節 黒き翼の人ラウム
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
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それは、雪に咲く薔薇のように美しい
黒き翼の人だったーーーーーーーーーーー
漆黒の羽が、はらはらと舞い降りる洞穴
渦巻くディストピアの門から、現れたのは
禍々しい獣でも
地獄の邪神でも
鬼や悪魔なビジュアルでもなくて
黒髪サラツヤの、夢のような美人だった。
え、あれ……俺すごい好きかも。好みかも……。
「アレキ、気をつけて! あの人、敵かもしれないもん」
カノンがツンツンと、俺の袖を引っ張る。
「心配なのか。大丈夫だよ! 俺が守ってやる」
「うん、心配。だって、地獄の門から現れた人だもん」
「そうだよな」
「すごい美人だけにさ、なんか怖いよ……」
俺の右肩にギュッと体をあずけるカノン。ちょっと、かわいい。改めて漆黒のドレスを翻し、マンティコアの正面に凛と立つ彼女をみつめる。
うん。どうみても、美人だ。
角や尻尾はない。ただ、おおきな黒い翼が、堕天使みたいに背中からバサリと生えていた。
「てことは、やっぱり人外だよな……」
その唇は、凍てつく花びら
陶器めいた肌は雪華のよう
おおきく潤んだ瞳は、深紅のジュエルみたいで
ーーーーー俺はすこし、魅了されていた。
ゴオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア
「マンティコアが、吠えた……!」
咆哮のために、大きく開けた口を……
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ
漆黒の彼女が、その翼の一撃で、ズバーンと跳ねとばした……!
黒い蛍みたいに舞う、羽。
はらはらと降りてくる、その羽毛の下、艶めいた笑みを刻んだ彼女が立っていた。
こんな時なのに、じっちゃんの言葉を思い出すーー
「マンティコアはペルシア語で『人を喰らう生き物」って意味があるんだ。あれは強いぞ、尾に24本の棘もある。ライオンの如き生き物だ。もしもこの先戦うハメになったら、命がけで挑めよ!」
そう、強い筈
強い筈なんだよ!
なのにマンティコアが倒れてる。強すぎだろう、彼女……!
ズズズ……と、あの24本の棘を携えたマンティコアは、尻尾をブンブン振ると、ゆっくり立ち上がった。驚いたのは、マンティコアも同じだろう。姿勢を低くすると、闘牛みたいにドドドドドド! と突進した!
「あぶなっ!」
声の刹那、彼女は天使が羽ばたくみたいに、フワッと飛翔する。激突する寸前で、目標が消えたマンティコアは、そのまま岩に頭突きをかましたっ!!!
ゴッッッッッッ!!!
破裂音がして、マンティコアは岩にブチ当たった。空中では彼女の白い腕が、みるみる鳥の羽に覆われていく……!
え、ちょ、待てよ……巨大な鴉の姿にメタモルフォーゼしていくんだけど!
「うっそだろ!」
「アレキ! あれカラスだよね……」
そう、巨大な鴉が上空にいた!
足には金色の鋭い爪。そのまま真っ直ぐに、マンティコアの背中を鷲掴みにいくっっ!!
「ギョアアアアアアアアアアアアアアアア」
悲痛な叫びと、咆哮と、血の匂い。
圧倒的な強さで、さっきまで歩いていた漆黒の美人が、マンティコアをその鋭い爪先で、ザクザクと鮮血に染めていく。
はらりはらり
ただただ、降りそそぐ黒い羽
「これさ、夢じゃないよな?」
「アレキ、あの人こっちに来る……!」
その声ではじめて気づく。
いつの間にか勝負はついていたのだろう。マンティコアは荒い息を吐き、ピクピクと足を震わせ、地面に倒れていた。
「ねえ、鴉だったのに……人に戻っていくよ、アレキ」
カノンがぎゅうううっっと、俺の右手を抱きしめる。ムリもない、俺も恐怖だ。
おおきな漆黒の鳥は、その巨大な羽を2枚だけ残して、あの美しい女性の姿へと変化していく……!
それは、すこし怖くて
それは、とてもキレイで
それは、おそらく悪魔の化身。
あっという間に、黒い羽でおおわれた体が、肌色にかわり、そしてブラックのドレスへと華麗に変身を遂げる。
黒いシルクのような髪がサラサラと揺れると、もうそれは鴉じゃなくて。ディストピアの門から現れたままの、美女の姿になっていた。
彼女の濡れた瞳が、その視線が。俺の目を捉える。
「あなたが、私を呼んだのかしら?」
「え、俺……?」
しゃ、しゃべった……!
マンティコアみたく、言葉は話せないんだと思ってた。言葉通じるのかよ!? えーー、ちょ、どうしよう……。
俺は背後に隠れているカノンに、ヒソヒソと小声で言葉を告げた。
「カノン、言葉が通じるみたいだ」
「うん、だ、大丈夫かな?」
「少し話してみる。カノンは、ダリウスとルダの方に行ってて」
「そんなっ!!」
「危険な事はしない。少し話すだけだからさ、……頼む」
「……アレキ……わかった」
おずおずと離れていくカノンの気配を見送ったあと、俺は改めて漆黒の美女と、正面から対峙する!
……氷細工のバラみたいな、美しさだ。
でも、敵かもしれない……!
俺は唇をギュッと噛みしめて、彼女をキッと睨む。
と、彼女が飛んだ。
「え?」
背中の巨大な翼をバサバサと羽ばたかせ、フワッと浮かんだと思った刹那、もう俺の眼前にいた。
「貴方、あの人に似ているわ」
舞い降りた彼女は、懐かしい誰かを想うように呟いた
夢のような声
あまい花のような薫り
「あ、あの……?」
いつしかその白い指先が、俺の唇を優しくなぞる。
「声もすこし、似てるのね?」
「ちょ、近い……です」
「そうね。近くで聴かせて? その懐かしい……声を……」
大きく広げられた翼は、ゆっくりと俺の両肩を抱くように閉じていく。
深紅の花びらのような唇が
俺の唇にそっと触れたーーーーーー
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