第一章 第十二節 死の淵とブラッディローズ
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
シェアワールド『テラドラコニス』のリンクはこちらです。
https://terradraconis.com/
「ええ。殺めてあげるねわね、アレキ」
彼女の笑みは、夢のようにも
魔性を帯びたようにも見える
彼女は黒き翼をバサッっと羽ばたかせ、魔獣マンティコアと対峙した。
「アレキ見ててね。人の手では、マンティコアに勝てるワケがないもの」
「本当に、大丈夫なのか……?」
「安心して。わたしは……邪神ですもの」
「今、なんて?」
「わたしは、ディストピアの門より出でし邪神、ラウムよ」
「邪神、ラウム……!」
知らなかった、やっぱり人じゃなかった
邪神だったんだ……!
でも……そりゃそうだよな、地獄の門から歩いてきたんだもんな。
ここは洞窟「忘れ去られた遺跡」
この場所は昼だというのに、淡いブルーの光で満たされている。時折さしこむ天空の光がユラユラと揺れて、まるで海の底みたいに……キレイな青の洞窟だ。
うしろの巨大な岩の影には、ダリウスとケガをしたルダが隠れている。
カノンは岩の影から、ラウムと俺を心配そうにじっと……みつめていた。その瞳の奥には、驚きの色がみえる。
「邪神って聞いて、むちゃ衝撃あるけど
ラウムに任せてみよう!」
でも、男として
ラウムが危険に晒されたら、命を懸けて戦ってやる!!
絶対にだ。そう俺は、しずかな決意を胸にした。
グルルルルルルルルルルルルルルルル
マンティコアが完全に身を起こすと、砂煙をあげて突進する! ヤバイ、狙いは、ラウムただ一人だ!
漆黒のロングドレスに身を包んだラウムは、黒き両翼をひろげ、天空に飛ぶ……筈だった……!!
「ラウム!!」
「莫迦な……体がっ……!」
ラウムは1mほど跳躍したものの、バランスを崩し、地面にドシャっと倒れた。そこへ苛烈なスピードを乗せたマンティコアが、突進する!!」
「ラウムーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
マンティコアがすれ違いざま、サソリのような尾をブン! と振ると、棘が24本あるという尻尾で肩にザシュっと攻撃をくりだした。ラウム、肩が……!!
「くっ……! まさか、かような時に体が……!」
「ラウム、肩から煙でてるぞ……!」
シュウシュウウウウウウウウウウ
彼女の肩から、白煙があがっている……!
「どうして、こんな……! 体から煙が……!?」
急いで彼女に駆け寄ると、うつくしい顔に苦悶の色が浮かんでいる。苦しいんだろうか、俺にしてあげられる事はないんだろうか!?
「アレキ、体が……このままでは崩壊するわ……」
「なんだって……!?」
「依り代がいるわ。人の世では、長くこの体を保っていられないの」
「そんな事……! 俺、どうしたらいい?」
「アレキ、一つだけ方法があるの……」
ラウムが、大切なその「方法」を口にしようとした、刹那。
マンティコアが振り返り、邪悪な口をあけて「ルロロロロ……」と、謳うように照準を定めているのが見えた……!
「あきらめるな、絶対に助ける!!」
俺は無我夢中で、彼女をお姫さま抱っこする!
めっちゃ恥ずかしい!
でも、そんな事いっていられないっっっ!!
「俺は、反魂使いになれなかったけど。せめて、俺を助けようとしたラウムのこと、絶対に守りたいんだ!」
「アレキ……」
「どこか安全な場所へ……!」
駆ける、走る!
むっっちゃ駿足で!!!!
抱いた腕の中で、モウモウと白い煙があがる。なんだよこれ、ラウムの体どうなっちゃってんだよ……?
「くっ……ううっ……」
ラウムの花びらの如き美しい唇から、苦しい声が密やかに漏れる。
「やっと出逢えたのに、わたしの体が……」
「あきらめんなよ!!
ぜってーーーに、助けるから!」
俺、めっちゃ心配!
でも走る!!
口の中はカラカラだし、青の洞窟じたい、そんな把握してないから、もう必死で逃げるしかない!
岩とかいっぱいあるけどっっっっ!!!
「霧と消えるわ……人と……合体しなければ…」
今、何か。ちいさな聲を聞いた気がした。
「アレキ!アレキーーーーーーー!!」
カノンが涙を浮かべて、こっちへ走っていこうと絶叫してた。ごめん。今俺、そっちには行けない……!
泣きじゃくるカノンを、ダリウスが必死で背中から抱きしめて、制しているのが目の端に映る。
ダリウス、なあ。ダリウス頼むよ……!
「今俺さ、そっちには行けないから。なんとかカノンを押し留めてくれ……!」
思わず、ちいさく呟いた。
俺はそんなに強くないから、今はラウムでいっぱいいっぱいだから。せめて皆、生きて帰れるように。神様に祈るみたいに、ダリウスのこと強く思った……!
「落ち着いてくれ、カノン!」
「だってアレキが……、マンティコアに殺されちゃうよ!!」
「カノン、今のうちに逃げなきゃならない!!」
「ダリウスは、勝手に逃げればいいよ!
あたしは、アレキを助けるから。一緒に帰るって、もう決めたんだからーーーーーーーー!!!!!」
背中からカノンをはがい締めするダリウスの腕に、カノンはおもいきり噛みついた……!
「ぐっ……!」
「アレキ、死んじゃったら嫌だよーーーーーーー!!」
ダリウスの腕をスルリと振りほどき、突き飛ばす。何やってんだよ、カノンが俺に向かって駆けだしてるけどーーー!
「ファイアーボール!!」
ボウッッ!!
音をあげて、ルダの魔法がマンティコアに放たれた。
マンティコアが、俺たちじゃなく、カノンへと照準を定めたからだ……!!
「カノン!!」
炎を背中に浴びて、マンティコアがゴロゴロと地面を転がっている。そのスキをついて、カノンがこっちに向かって疾走した。彼女の真っ白なワンピースが、風を孕んでひるがえるのが見えたんだ。
「……アレキ、わたしを地面に降ろして」
呆然と立ちつくす俺の頬に、そっ……と手を添えると、痛みをこらえながら、ゆっくりと地面に足を降ろした。
「ラウム、どうして……?」
「考えがあるの。ふふっ……最良の方法よ」
「一体どんな方法なんだよ」
「それは、教えてあげない」
艶やかな笑みで瞳を細めると、カノンの方へ視線を向けた。
「あの子、危険よ。食べられてしまうわ」
「本当だ、いつの間に……!」
カノンは大きな岩があった場所から、俺に向かって、一直線に駆けだしていた。
「カノン、うしろに……!!」
炎を消したマンティコアが、いつの間にか立ち上がり、カノンの背後まで迫っていたんだ。でも肝心の彼女は、夢中のあまり、その気配に微塵も気づいてないみたいだった。
いけない……!
「カノン、背後に……!!」
「アレキ、もうすぐ届くよ……!」
カノンが、思いっきり手を伸ばす
その指先が、俺に触れそうな刹那
マンティコアの口がバカリと開く
その牙が、彼女の首筋を狙っていたから
「させねーよ……!」
俺は咄嗟に、グッと一歩踏み込んだ
彼女を横にドンッ!突きとばし、正面にマンティコアを見据える。
「嘘だろ……!」
こんな筈じゃなかった
魔獣の棘にまみれた尾
それが残像を残して、風を切る。
「ぐっっっ……」
マンティコアの尾が、俺の心臓を貫いていたんだ……。
「は……?」
あ、俺死ぬ……かも……?
「嘘、アレキ!? いやああああああああ」
「な、泣くなよカノン……」
白く……淡く、空間が白濁していく。
これって意識が薄れていくって感じなのかな……?
涙をはらはらと流しながら絶叫するカノンの姿と、彼女を聖母のように抱きしめる、ラウムの姿が映るんだけど……。
俺……反魂使いには、なれなかったし
好きな女の子守れてねーし
なんか、尻尾刺さってるし
ここで死ぬとか、人生……さいあくなシナリオじゃね………?
ゆっくり、ゆっくりと地面に体が落ちていく感覚
なんかさ、色彩さえも消えていくんだ。
輪郭も朧げなラウムが、カノンの首筋にキスしてる姿が見える。なんだろ、これ……
「惹かれるわ、カノン。貴方がいい」
うっとりと夢見るように囁く、ラウムの声……
これって、どこまでが現なんだろう……?
「自分が死ぬ感覚」って、こんな感じなのかな……
ビックリ……したよなあ
まさかさ……誕生日に自分が死ぬとか……思わないじゃん
そんな事を考えながら
俺は、死の淵へと堕ちていったんだーーーー
ブックマーク、評価、していただけますと
とても励みになります。
(最新話のページの下部に評価を入力する場所があります)
よろしくお願いいたします。




