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化ける猫と黒縁眼鏡  作者: 佐伯 みのる
<翌春の章>
30/30

黒縁眼鏡③<最終話>

 ひとしきり笑いが収まってくると、ぜえはあと全力疾走した後のような息切れを起こす。二人ともソファに座ったまま、項垂れて肩で息をしている。その呼吸も落ち着いてきた頃に、ふ、とお互い顔を見合わせて視線を交わした。

 距離が近い。今までこんなに近いことがあっただろうか。と、不意に猫柳が武藤に顔を寄せてくる。唇が触れ合う。武藤は黙ってそれを受け入れる。これが、お互いの想いの形。

 唇が離れ、距離を開けようとした猫柳を、両頬を手で覆うことで捕まえて、武藤はこつんと額を合わせた。

「これは………そういうことで、いいのか」

「………うん。武藤くんこそ、これでいいの?」

「愚問だな」

「そっか」

 ふふ、と猫柳が穏やかに笑う。武藤の身体をソファに寝転ぶように倒すと、その上に乗った猫柳が、武藤の黒縁眼鏡をそっと外した。

「およ、……意外と童顔?」

「うるさい。あんまり見るな。気にしてるんだ、これでも」

「あは、どんな武藤くんでも大好きなのに」

 ことり、と眼鏡をテーブルに置くと、猫柳は顔を寄せる。

「このぐらい?」

「もう少し遠くても大丈夫だが、……いいな」

「何が」

「眼鏡が無くても、この距離ならお前の顔がよく見える」

「イケメン?」

「そんなこと一言も言ってないが?」

「じゃあ、もう少しもらっても良いってことかな?」

「それも言ってないが……まぁ、それなら」

「うん」

 すっと顔を近づけて、猫柳は武藤にキスをする。角度を変えて何度も。舌先で武藤の唇を撫でるように舐めると、うっすらと開いたその口腔に舌を滑り込ませる。

「ん…ぅ」

 今まで感じたことのない感触に、武藤の肌がぞわりと粟立つ。だが手は猫柳の首に回されたまま、徐々に猫柳の動きに応えるように、舌が動く。絡めて、吸いあって、お互いにこれ以上は止まれない、というタイミングで猫柳は武藤を解放した。

「初めてだった?」

「こんなの……何度もあってたまるか」

「やったぁ、武藤くんのハジメテをいただきましたー」

「くッ(ころ)……」

「どこで覚えたの、それ」

「ライトノベル」

「だいぶ古いよ?」

「知ってる」

 抱き合って、くすくすと笑いあう。ソファの下では、放り出された文芸誌が、寄り添うように落ちていた。






俺は今、恋をしている。

以前、俺は『小説』に恋をしたと話したと思う。

しかし本当の相手は小説じゃなく、『化け猫』だった。

まるで『妖怪』に惚れた変人のようだろう?

だけど、どうやらそれも間違いだったみたいなんだ。

物語には作家の感情や思想が入る。

そして、それらは妖怪じゃなく『人間』が持つ。


だから ――― この気持ちは、恋と呼んでいい。

しかも、恥ずかしながら、これは最初からただ一人に向けてのものだった…らしい。


【”恋”を理解した、ある読者のはなし】




<完>






最後までお付き合い下さりありがとうございました!

面白かったと感じてくださった方は、是非コメントなどくださると嬉しいです!

※後日、エピローグを一挙公開予定です。少しお待ちくださいね!


☆面白かったときは評価や感想、レビューなどお待ちしています☆

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