魔王7
汝、願わくば——光をもたらす闇とならんことを。
近いものには、意味がない。近いものには……
遠さこそが、価値だった。
勇者よ。貴様と私は、同じものだ。残念ながら。隔たりが、貴様を光に、私を闇に仕立てているだけのことだ。
光の先に闇があるのではない。そして闇の先に光があるのでもない。ただ、闇の内側にはいつも光があった。貴様の輝かしい軌跡も、私の薄暗い場所も、同じ根から生えている。
光とは、形を変えた闇だ。よく考えてみるがいい。何故貴様は私を憎悪する。悍ましいからだ、自分の傷が。恐れているからだ、自身が後ろ暗い欲望に呑み込まれてしまうことを。
私の輪郭は、貴様の暗部そのものだ。傷、誰にもみられないよう奥深くに隠してある傷と、寸分違わぬ形をしている。
否定したいのならその傷を覗きこんでみよ。……無論、できまい。近づいた瞬間、貴様自身の光に、網膜が焼かれる。強すぎる光は、己の闇すら覆い隠す。
皮肉なものだ。私を討とうとして、貴様は己の眼から潰れていく。
光とは、纏うものでも、照らすものでもない。仰ぎ見るものだ。距離……計り知れないほどの。そのただ単純な遠さこそが、祝祭だった。
覚えておくがいい。貴様が私を斬り伏せたところで、それは光の勝利ではない。ただ、隔たりが消えるだけのこと。
勇者に値打ちがあるのは、魔王という土台があるからだ。魔王なき世で、貴様は自らの光に焼かれ、朽ちるだろう。今は、その一時の夢に浸っているがいい。
私が消えれば——貴様の内に眠っていたものが、炙り出される。勇者を光たらしめているのは、都合よく現れ続ける闇の存在、ただそれだけだ。
闇なき世では、誰も彼もが、悪い現実と対決せねばならない。夢は、覚めるまで、夢と分からない。しかも、それが悪い夢だったのかすら、目覚めるまでは……
甘い夢にまどろみ続けるか。悪夢のような現実と向き合うか。……好きにするがいい。
まあ、もっとも、ここが夢か現かも分からぬ者に、負けることはないのだが。
ああ、勇者よ。貴様はあまりにも遠く、そして——
貴様は、ここが夢のような現実。夢にまで見た光景、道の果て、旅路のゴールのように思えるかもしれないが、その実、これは現実のような夢に過ぎない。
貴様は、近すぎた。
何に?
分かるだろう。勇者に。希望に。現実に。そしてあらゆる欲望に。
だから、夢に取り込まれた。現実と夢とは一続きのもの。それを分かつのは、勝手な幻想に過ぎない。
夢とは現実であり、現実とは夢だ。現実はあまりにも遠いが故に夢となり、夢もまた現実となって顕現する。
夢から醒めた世は、さぞかし——素晴らしいのだろうな。




