魔王6
静まり返った玉座の間で、私はただ、君が息を切らす音を聞いている。
聖剣の輝きが私の目に刺さる。眩しすぎる。君の瞳に宿る、その揺るぎない正義の光。それはまるで、完成された物語の一ページのようだ。だが、そのページをめくった先に待っているのは、君が期待するようなカタルシスではない。
私が何を語れば、君は満足するのだろう。世界を闇に包むとか、古の怨念を晴らすとか、そういった言葉を期待しているのだろうか。残念ながら、私の胸にあるのはそんな高潔な憎悪ではない。ここにあるのは、ただの事務的な……作業だ。
朝が来れば窓を開ける。書類が回ってくれば判を押す。村を焼く命を出すのは、それが効率的な統治のルーチンに組み込まれているからに過ぎない。そこに特別な愉悦も、震えるような悪意も存在しない。私はただ、この場所に座っているだけの、代わり映えのしない象徴だ。
君はさっきから、私の所業を許しがたい暴虐と呼んでいるね。だが、私にとってはそれは、昨日の夕食に何を食べたかと同じくらい、手触りのない記憶だ。
「なぜ、こんなひどいことができたんだ」
君の問いは、青空に手を伸ばして雲を掴もうとするようなものだ。掴んだ瞬間に指の間から抜けていく。形があるように見えて、その実、中身は何もない。私は悪の化身ではない。ただの退屈な日々の、集積だ。少しばかり声の大きい者の意見を聞き、少しばかり不都合な存在を排除し、組織を維持するために最適な選択をし続けた。その集積が、君の言う絶望になったらしい。
君が倒すべき巨悪など、最初からどこにもいなかったんだ。私は、誰の心の中にもある面倒くささや無関心を煮詰めて、玉座の形にしたものに過ぎない。君が今、その剣を私の喉元に突き立てても、解決するのは私の不在だけであって、悪の不在ではない。私が死ねば、次の平凡な人物がこの椅子に座るだろう。彼は私と同じように、欠伸をこらえながら君の故郷を滅ぼす書類にサインをする。それはきっと、窓の外の天気を気にするのと同じくらい、自然に行われる。
これはどこにでもあるのさ。残念ながらね。誰の中にも、それは静かに、当たり前に存在する。結局のところ、誰も彼も大して変わらない。
私はたまたま魔王になって、君はたまたま勇者になった。役割が割り振られた、ただそれだけのことだよ。他に何か、私たちを分かつ特別な違いがあると思うかい?
……ふふふ。そうか。もし違うと言うのなら、証明してみせてくれ。だが、君がもし私なら、間違いなく私と同じことをするだろう。仕方がないという、その薄暗い免罪符を握りしめて、平然と誰かの日常を切り捨てていく。今の君と全く同じようにね。
さあ、一思いにやってくれ。
君がその剣を振り下ろしたとき、手応えのなさに驚かないでほしい。私は今、自分が消えていくことに対してすら、何の感慨も抱けないでいる。君が持ち帰る平和は、おそらく君が想像していたものよりも、ずっと味気なく、ただ淡々と続く日常に埋もれていくはずだ。ドラマチックな終焉などない。あるのは、明日からも続いていく、退屈な繰り返しだけだ。
私が消えた後の世界で、君は気づくことになる。本当の恐怖は、禍々しい角を持った怪物ではなく、ただそこにいる、何でもない誰かが、何の悪気もなく別の誰かの世界を壊し続けているという事実に。
…ふむ、そろそろ時間だね。
最後に一つだけ。今日の夕飯、君は何を食べるつもりだい?




