検証! 各話のつながり (その2) 「待って、忘れ物」
もう一度、ストーリーを振り返って、ポイントとなる回を抜き出して読み返してみようというコーナーの二回目です。
今回は、セカンドストーリーの中で使われた「待って、忘れ物」です。
セカンドストーリー第二話より。
とっくに交差点に着いていたが、俺と彼女はまだ話をしていた。
「やっぱり、ダメなんだよな俺。……あと、彩乃に言ってないことがある」
「何? 告白? ……なわけないか。『みゆき一筋』だもんね」
彩乃はふざけたように笑った。
「彩乃、そういうの、やめてくれ。らしくない」
「あ、ごめん。言い過ぎた。今日は私、やっぱりどうかしてる」
「うん、わかればいいよ。……それで話してないことなんだけど」
「そうだった。……何なの?」
「『終止符』の追加したラスサビ、あったでしょ?」
「うん。私の一番お気に入り」
「ありがとう。あれね、たしかに彩乃に向けた言葉なんだけど、それだけじゃなくて、ほんとは自分自身に向けた言葉だったんだ。もうみゆきのことは忘れて前を向けって自分に言い聞かせるつもりで書いたんだ」
「やっぱりね」
「気づいてたの?」
「なんとなく、そうじゃないのかなって。でも、そうだとしても、そうでなかったとしても、私の想いに寄り添ってくれたことは事実だから、嬉しかったよ」
「やっぱりバレてたか。彩乃には敵わないな」
「そんなことないよ。さっきだって納得してない私のためにギター弾いて歌、歌ってくれたじゃない」
「あれは、そうでもしなきゃ、みんな帰れないと思ったから」
「そう。そういうところが崇君のいいところなのよ」
「そう……なのか? 全然、気づいてないや」
「ま、意識してできることじゃないし、気にしなくていいよ」
ふと、辺りを見渡すと、誰もいない交差点の街灯の明かりが、『もう帰ったほうがいいよ』と言ってるように見えた。
「わかった。もう遅くなるし、帰ろ。また明日な」
俺は自転車にまたがって向きを変えた。
と、
「待って、忘れ物」
「え?」
振り向くと、彩乃の顔がすぐそばにあり、自分の頬に当たる熱い感触があった。
それは一瞬の出来事だった。
「勘違いしないで。これは今日、助けてくれたお礼と『終止符』を曲にしてくれたお礼だから。じゃ、また明日ね」
彩乃は、そう言って自転車を漕いで帰って行った。
俺は、そのまま動くこともできず、ただ遠ざかる彼女の後ろ姿をぼーっと見送っていた。
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セカンドストーリー第四話より。
俺は待ち合わせた交差点へ車を走らせた。
このまま帰るには惜しい気がしたが、家の車を借りてること、彩乃が途中まで自転車で来てることを考えると、あまり遅くなることもできなかった。
夏とはいえ、八月も中旬を過ぎると少し陽が短くなる。
交差点に着く頃は薄暮状態になっていた。
路肩付近に車を停めたが、二人とも、そのまま、動けずにいた。
ハザードランプの点滅がお互いの鼓動音のようにも思えた。
耐えきれなくなって、彩乃が口を開いた。
「ねぇ、私、崇君と付き合っていいんだよね?」
「それはこっちの台詞。俺と付き合ってくれるんだよな?」
「もちろん。……よかった。これで安心して、向こうに行ける」
「俺も。彩乃がいてくれるって思えたらなんか心がスッと軽くなった」
「私もそう。でも、崇君。向こうに行っても、その気持ち、忘れないでね」
「忘れないよ」
「どうかなぁ? 音楽のことになると相手の気持ちの中にどっぷり入っちゃうからなぁ」
「それを言うなら、俺だって、彩乃に言い寄ってくる男の近くになんか帰したくないよ」
「え? ヤキモチ妬いてくれるの?」
「そりゃ、そうだよ」
「そっか。ヤキモチ妬くんだ。ふふ。なんかうれしい」
「変な笑い方するなよ」
「いいじゃない。これまでずっと待ってたんだから」
「待たせてごめんな」
「うん。でも、今日はありがと。じゃ、帰るね」
と彩乃は車のドアを開けようとした。
「待って、忘れ物」
「え?」
振り向いた彼女のくちびるに俺は自分のくちびるを重ねた。
彩乃は、一瞬、戸惑ったように大きな目をしたが、すぐにその目を閉じた。
数秒、俺たちの時間は止まった。
それはあっという間にも、永遠にも感じる時間だった。
ゆっくり離れると、彩乃は頬を染めてこう言った。
「……やったなぁ。こんなのずるい」
「二年前のお返し」
「あ〜、そっか。ふふ、お返しされちゃった」
「へへっ」
「もう、またすぐ会いたくなっちゃうじゃない」
「このまま帰したくない」
「私も帰りたくない」
「でも、……な」
「でも、……ね」
お互い、それ以上は言わなかった。
彩乃は、
「じゃあ、本当に帰るね」
と言って、車を降りた。
手を振る彩乃に手を振り返して、俺は車を動かし、その場を離れた。
バックミラーにこちらを向いたままの彩乃の姿が見えた。
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セカンドストーリー第八話より。
俺はKAHOちゃんとのことを包み隠さず話した。
聞き終わると彼女は、またコーヒーをひと口飲んだ。
「崇、モテるのね」
「なんで? フラれてばっかりだよ?」
「だって、相手の気持ちがあなたの心の中にしっかり入り込んで来てるってことでしょ?」
「え、そう……なるのか?」
「いいなぁ。私は全然ダメ。高校卒業しても、年下の彼に振り回されて、彼がやっと高校卒業して自由に会えるようになったら、大学に行って、すぐに他の彼女ができたの。それで別れた」
「え、『死ぬ』って言ってたのに?」
「そう。私も『別れたら死ぬ』って言ったくせにって言ったら、『そんなの、その場のいきおいさ。それに別れたら他の同級生の手前、かっこ悪いだろ。年上の彼女がいるなんて、お前やるなぁってクラスで言われてたんだから。だけど、もう卒業したし、終わりにしよう』って」
「なんだ、それ。お前、そんなヒドイやつと付き合ってたのか?」
「そうみたい」
「そうみたいって、そんな他人事みたいに……」
「他人事なら良かったのに」
「え?」
「崇が悪いのよ。あの時、私をほっといたから」
「俺のせいか?」
「そうよ」
「……ごめん」
「謝らないで。謝られたら、余計にみじめになるでしょ」
「……そうか」
「だから、今日は崇に、責任とってもらって、私の恋人になってもらおうと思ったのに。……それなのに、三井さんと付き合ってるなんて。……めっちゃ、ショック」
「……ごめん」
「だから、謝らないで」
「……うん」
俺は冷めたカフェオレをひと口飲んだ。
口の中に残る後味が心まで甘苦くした。
「……でも、もういいの。私、ちゃんとわかってるから」
「え?」
「崇は、どうやっても私とは恋人になれない存在ってこと」
「それは、まぁ、そうだな。でも俺……」
「『ずっと好きだったよ』って言わないでね」
「なんで……」
「『なんでわかんるんだよ』とも言わないで!」
みゆきは語気を強めて言った。
「崇は、やさしすぎるのよ……。でも、それが結局、相手を追い詰めるの。わかってるでしょ?」
「……わかってる。たぶん」
「ううん、わかってない。あなたは本当にただやさしいだけ。それだけなのよ」
みゆきの目から涙がこぼれ落ちた。
「みゆき……」
「もう、戻れないね。戻れるんなら、高一の出会った時に戻ってやり直したい」
「……もう、戻れないよ。戻れないけど、今からなら……」
「言わないで。三井さんを不幸にする気?」
「あ、いや……」
「崇は、その場の雰囲気で、すぐその人に寄り添っちゃうから、ずるいよ」
「ずるい?」
「ずるいよ。人の心に入り込みすぎだよ。もうどうしたらいいかわからない」
「みゆき……」
俺は、もう何も言えなかった。
帰りの車の中では無言の時間が続いた。
そして、家の近くのコンビニまで来ると、
「ここでいい」
みゆきがそう言った。
「家まで送るよ」
「ここでいいの。これ以上、私をみじめにさせないで」
「……わかった」
俺は、コンビニ駐車場の一番外れに車を停めた。
「じゃあね」
「うん、じゃあ」
しかし、彼女は車を出ようとしなかった。
「……崇」
「うん?」
「キス、しよ」
「え?」
「もう一回、言わせる気?」
「あ、いや……」
ここでみゆきにキスしたら、彩乃を裏切ることになる。そんなことはできない。
でも、思い詰めたみゆきの顔を見た俺は、
(このままだとみゆきが壊れる。ここは彼女の言う通りにしよう)
と心に決め、くちびるをよせた。
と、バシーッと頬を熱い痛みが走った。
「イテッ、何するんだよ」
「ほら、やっぱり流された」
「あ、お前、まさか……」
「そうよ。このままだったら、崇、私のこと忘れられなくなるでしょ。だから、こうやってフッてあげるの」
「みゆき……」
「じゃあね。三井さんによろしく」
そう言って、みゆきは車を出ようとした。
俺は咄嗟に、
「待って、忘れ物」
「え?」
振り返ったみゆきに俺は今度こそ、口づけをした。
みゆきは、驚いたように目を大きくしたまま、俺を振り解いた。
「何するのよ」
「わからない。でも、勝手に体が動いた」
「バカ。崇のバカ。こんなことしたら崇を忘れられなくなるじゃない」
「そうだよな。でも、お前だって、このまま終われないだろ?」
「……うん。本当は終われない。わかってる。崇、……ごめんね」
そう言うと、みゆきは目を閉じた。
俺は、彼女にもう一度、キスをした……。
「待って、忘れ物」
同じ台詞でも、シチュエーションが変わると感情も違ってくる。
書いていてそんなことを感じました。
まぁ、キャラが勝手に喋っただけですが。笑




