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「RPGパラレル・パラドックス」  作者: しんTAKA


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第八話 「裏と表、リアルとフェイク」

「トロンプ・ルイユ(だまし絵)」――トリックだらけのこの世の中で。

崇が奏でる旋律には、かつて救えなかった「彼女」への贖罪が滲んでいた。

ユキノに語られる過去。それは、今の自分を形作った失意の記憶。

だが、真実はいつも「見えないところ」に隠されている。

【フェーズ4(戻り)】


(前回のリフレイン)


気づくと、そこは「ふみ町」のお手洗いだった。時間はほとんど経っていない。


(また変な夢みたな)


と思って、スマホを見ると「Dreamin'」の文字はどこにもなかった。

俺は、不思議な気持ちのまま、外へ出た。

そこへ、ユキノも出てきた。




その晩、俺たちは初めて一緒に夜を過ごした。

ベッドで俺に腕枕された状態のユキノはポツリとしゃべりだした。


「……崇はさ、どうして臨床工学技士になったの?最初から医療系じゃないよね?」

「うん、以前は自動車関係の精密部品を作る会社にいた」

「へぇ、そうなんだ。それがどうして医療系の職種に変わったの?前の会社、楽しくなかった?」

「いいや、楽しかったよ。前の会社に入ってからいろんなこと教わったし、人生観も変わった。でもあることがあって医療系に進みたいと思ったんだ」

「あることって?」

「俺もこれまで全く恋愛してこなかったわけじゃないんだよね」

「まぁ、それはね。私だっていろいろあったし……」


俺はその『いろいろ』が少し気になったが、まずは自分のことを知ってもらうことが先だと思って話を続けた。


「前の会社で二年目だったかな。営業に恵理って子が入ってきたの。最初は仕事で一緒に自動車メーカーに行ってプレゼンしたりしてたんだけど……」

「崇、営業だったの?」

「いいや、品質管理課の試験係。製品の性能や耐久性を評価する部署」

「それがどうして営業と一緒にプレゼンに行くの?」

「もちろん、メインのプレゼンは営業がするんだけど、性能とか耐久性の部分については品質管理課が説明することになっていたからね」

「そうなんだ」

「で、車で相手先に行くと一時間とか二時間とか一緒にいるので、仕事の話だけじゃなく、プライベートの話もするようになって……」

「で、付き合うようになった?」

「うん。彼女、恵理は音楽が好きだったんだよね」

「音楽?」

「そう、自分で歌作ったり歌ったりして、シンガーソングライターみたいな感じで、休日には喫茶店でライブしてた」

「へぇ、崇、そういうの好きなの?」

「うん、俺も高校の時からギターはじめて、自分でオリジナルの曲作ってたから、すぐに意気投合してね」

「崇、曲作れるんだ。今度、聴かせて」

「いやぁ、歌うのはそんなに上手くないからな。あ、作りかけの曲がある。ちょっと待って」

と俺はスマホを手に取った。

「何、どんなの?」


ユキノが興味深々という感じで、俺のスマホを覗き込んだ。 俺は思いついた曲があるとメロディーを忘れないためにDAWを使って適当に打ち込み、それをスマホのファイルに保存している。


「まだ一番だけだけどいい?」

「いいわよ」


俺は作りかけの曲をユキノに聴かせた。



♪『トロンプ・ルイユ』/崇


君の瞳に映る僕は 本当の僕?

見たものすべてが正しいとは限らない

見た目の良さ 着飾る言葉

ほらほら君の心を巧みに揺さぶってる

表が裏で 裏が表 真実は見えないところに隠れてる

トロンプ・ルイユ トリックだらけの世の中で

リアル?フェイク? 君は見抜くことができるかい?

紙一重の真実を 未来だけが知っている答えを



「へえ、崇、こんな曲つくるんだ」

「なんとなく浮かんだフレーズをつないだだけだから」

「歌ってる女の子は?」

「これはボカロだよ」

「へぇ、結構滑らかに歌うのね」

「そうだよ。最近はこれでメロディー作れるから助かってる」


曲を聴きながらユキノは、


「崇はやっぱり変わった曲つくるね」

「そうかなぁ?」

「そうだよ。でも、こんなトリッキーな歌詞なのに、どこか気持ちいいフレーズも入っているね」

「おー、それ、わかってくれるの嬉しい。これ、完成させよかっかな?」

「うん、完成したら聴かせてね」

「でも、ユキノのための曲も創りたいな」

「えー、私のため? いいよ、恥ずかしいから」

「そう言われたら、余計、創りたくなった」

「ふふふ、じゃあそれは期待しないで待っとくね」

「期待してくれよ」

「ハイハイ、で?」

「ん?」

「恵理さんとのこと」

「ああ、恵理もいい曲作ってたんだ。それで時々、俺もライブに参加して一緒にギター弾いたり、新しい曲ができたって彼女がいえば、アレンジやら、歌詞の構成やらを一緒に考えたり。すごく楽しくて。ほら、昔『俺には君だけだよ』って言った人がいるって言ったでしょ?」

「うん」

「その人もシンガーソングライターでね。プロから誘われるほど上手かったんだ。俺はその人に心惹かれた。はじめは近づき難いのかなって警戒してたんだけど、一回話したら、スッと仲良くなれたっていうか、昔から知ってたような感覚になって、一緒にギター弾いたら、自分も上手くなった気がしたりして、どんどん好きになった。でも好きって言って失恋しちゃったら、もう一緒に音楽できないと思ったら、それが怖くて、どうしても好きと言えなかったんだ」

「それで?」

「うん、それで佳穂ちゃんは、あ、プロに誘われた子のことだけど、いろいろあって他の人と付き合うようになって、俺の恋は終わり」

「ダメね、崇。ちゃんと伝えれば、きっと上手くいってたわよ」

「そうかもしれない。でもそうじゃなかった時のことしか、あの頃は考えられなかったんだ」

「ふふ、崇らしい」

「それで、恵理に過去にあったこのことも話して自分の気持ちを伝えたんだ。そしたらOKしてくれて付き合うようになった」

「そう、今度は崇、頑張ったんだ。えらいえらい」

「バカにしてるの?」

「ふふふ。で?」

「で、まあ順調に行ってたんだけど、恵理のお父さんが病気になって急に入院したんだ」

「病気?なんの?」

「狭心症」

「だいぶ悪かったの?」

「割と早い段階で見つかったから、心カテで行けるだろうってことで治療を受けたんだけど、心臓の血管に穴が空いて空気塞栓を起こして、それが頭に回って、脳死状態になったんだ」

「えー、ありえない。うちだったら、そんなことになんないわよ」

「まぁ、その病院でもはじめてのことだったらしく、大変な騒ぎになったんだ。恵理はいわゆる植物状態の父親に話しかけるけど、答えてくれるはずもなくて」

「うん、それで?」

「最初は、理由も分からずうろたえていたけど、医療過誤、その頃は、『医療過誤』なんて言葉知らなかったから『医療事故』って言ってたけど、それだと分かってからの恵理は、病院に対して強い口調で文句言うようになった」

「まぁ、それはそうなるわよね」

「俺も病院との話し合いに付き添って行っていたんだけど、病院側が『事故じゃない』って隠すようなことを言いだして示談みたいな話をしてきた。恵理はそれが我慢できなくて、いろいろ交渉したし、俺も助け舟を出したけど、結局、病院に押し切られて示談になって。そしたら『病院って患者さんのために治療してるんじゃなくて自分の身を守るためにあるんだね』って彼女が言ったんだ」

「……それは、形は違うかもしれないけど、うちの病院でも決してありえないことじゃないわね」

「まあね。で、その辺から恵理の行動がだんだんおかしくなってきたんだ」

「どんな風に?」

「会うといつも泣いて、仕事に手がつかないようになって、しまいには、俺を罵るようになって」

「え、なんで?」

「『シーさん、あ、恵理は俺のこと、そう呼んでたんだよ。シーさんがしっかり交渉してくれないからこんなことになったのよ』って」

「それは、単なる言いがかりじゃない」

「そうなんだけど、元々、恵理と付き合い出した時に、『お父さんにどこか似てる』とか、『お父さんと同じ手の温もり』とか言ってたから、彼女、かなりお父さんに依存している感じだったんだよね。だから、不条理な形でお父さんと話すことができない状態になって、そうでも言わなければ、自分の感情を抑えきれなかったんだと思う。だから、俺は、ごめん、力になれなくてって言ったんだけど、その頃には彼女の感情は完全に壊れていて、俺を拒絶するようになっていた。それで、彼女のお母さんに、もう恵理には付きまとわないでって言われて。……お母さんも心壊れてたみたいで。結局、俺は恵理を守ってやれずに別れたんだよ」

「そうなんだ」

「うん、その時、ああ、俺に医療の知識があったら、もっと恵理の力になれたかもしれないって思ったんだ」

「それで、臨床工学技士に?ドクターじゃなくて?」

「もちろん、最初は医師も考えたけど、六年も通うのは大変だし、費用もかかる。俺は工業の会社にいたから、この工学的な知識を活かせないかな?と思って医療系で調べてたら、臨床工学技士っていう資格があることがわかって、三年専門学校に行けば、国家試験が受けられるって書いてあったんで、これ、やってみようと思ったんだ」

「へぇ。でも仕事辞めるの、勇気が必要だったでしょ?」

「もちろん。だけど、恵理が言った『すべては患者さんのためじゃないの?』っていう言葉がどうしても頭から離れなくて、これは自分がやらなきゃいけないことのように思えて、無理言って会社を辞めさせてもらったんだ」

「そっか、崇にそんな歴史があったんだね」

「うん、ユキノは?」

「え、私?」

「そう、今度はユキノの番だよ」

「えへへ、ひ・み・つ」

「え~、俺は自分のこと、しゃべったのにずるいなぁ」

「ふふ、いいじゃない、そんなこと」

「そんなことって……」


と言いかけた俺にユキノは絡みついてきて、顔を近づけて目を閉じた。

俺はユキノの唇に自分の唇を重ねた。二人はそのまま夢の中へ堕ちて行った。


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