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「RPGパラレル・パラドックス」  作者: しんTAKA


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第七話 「パラドックス・プレイスの旋律」

「誰もいない真夜中の街、ひとり佇む私の……」

恵理が爪弾く不規則なコード進行が、俺の感覚を静かに狂わせていく。

Dreamin'――そのボタンが示したのは、ダイコー時代の、もう一つの恋だった。

断片的な記憶が、旋律に導かれるように、現実の輪郭を滲ませ始める。

♪『パラドックス・プレイス』/ERI


誰もいない真夜中の街 ひとり佇む私の

周りの景色が一瞬 歪んで元に戻った

そうここは元の世界と 見た目は同じだけど

全く異なる世界 あなたがいる

いるはずのないあなたが 今 目の前にいる

パラレルワールド ここは夢の並行世界

パラドックス・プレイス ここは矛盾が当たり前

パラレル・ワールド 幸せの並行世界

パラドックス・プレイス ここは夢と現実が行き交う場所



恵理。

立山恵理は、ダイコー精密機械の営業部に入って2年目の子だった。

この頃の俺は、大学時代まではよく吸っていたタバコはやめて、一切吸わなくなっていた。タバコを吸うという悪循環がいやで、やめてみると体調もいいし、曲も何曲が続けて書けるようになった。そう、音楽だけはずっと一人でも続けていたのだ。

恵理は俺とは二歳違いだったが、自動車メーカーとの取引の際、度々、プレゼンに同行することがあったため、話すようになった。聞くとアコースティックギターでオリジナルを作るのが趣味だと言っていた。月に一回、ソロライブをやっているとのことだった。


「俺も自分で曲、作るんだよ。アコギも弾くしね」

「え、安岡さん、ギター弾くんですか? じゃあ、今度、私のライブ見にきます?」


それで恵理のライブを見にきたわけだが、いきなりこの曲を聴いてKAHOちゃんの時のような衝撃を受けた。KAHOちゃんとは違うけど、俺の中に新しい風が吹いた気がした。

ライブの後、


「恵理ちゃん、『パラドックス・プレイス』のコード、教えて」


と聞いてみた。


「いいですよ」


彼女は素直に教えてくれた。


「わ、オープンハイコードとか使ってるんだ。だから、あんな不思議な感じになるんだね」

「そうですか?この歌、生まれて初めて作ったんですけど、思いついたときに、ダウンストロークしかできなくて、適当に弾いてたらなんか雰囲気が良かったので、こんな感じになりました」

「え、これ、適当なの?」

「そうですよ。私、コードのこともよくわかってないので」

「いや、恵理様、天才だね。このコード進行、初心者じゃ思いつかないよ」

「そうなんですかね?コードこれでいいんですか?」

「『これで』じゃなくて、『これだから』いいんだよ。G調だけど、テンションコード使ってるし、違和感なく不思議な世界に巻き込んでくれる感じがよくできてるね」

「そうなんですか?安岡さん、コード詳しいんですね。良かったら教えてもらえませんか?」

「いいよ。っていうか、この曲だったら、一緒にリードとか弾きたくなるね」

「え、ほんとですか?じゃあ、一緒にやりませんか?」

「え。いいの?嬉しいな。やるよ。ぜひ、やらせてください」

「こちらこそです」


彼女は右手を出した。


「握手!」


と彼女が言うので、俺はそのまましっかり彼女の手を握った。


「あっ」

「うん、何?」

「いえ、なんでもないです。安岡さん、これからもヨロシクお願いします」

「こちらこそ、ヨロシクな」


俺たちはその日から一緒にギターを弾くようになった。


ある日の練習中、俺は恵理が教えてくれた「パラドックス・プレイス」のコードを弾きながら、


♪「誰もいない真夜中の街 ひとり佇む私は 寒くて景色がはくしょんと歪んで風邪ひいた」


と歌った。

恵理は飲んでたコーヒーを吹き出して、


「え、なんですか、それ、ひど〜い。でも、おもしろ〜い」

「面白いよね? これ思いついた時、すぐ聴かせてやろうと思ったんだ」

「あー、そういうところ、崇さんありますよね」


その頃、彼女は俺のことを崇さんと呼んでいた。

恵理はこのことを自分のライブで、


「最近、こんなこと言う人がいるんですよ、私の歌を使って。ね、ひどいでしょ?」


と言いながら、


「はっきり言って、今、私の横でリードギター弾いてる人です」


と、しっかり俺をトークの笑いに使った。



*


それからしばらく経った九月三日、その日は恵理とのライブがある日だった。

俺は楽屋に向かいながら、ふと、


(今日は、KAHOちゃんの誕生日だな)


なんて考えていると、楽屋から走って出てきた男と肩がぶつかった。


「痛てっ」


俺は声をあげたが、男は振り返りもせず、走っていった。


(すいませんくらい言えよ)


と思ったが、追いかけるほどでもないと思い、楽屋に入った。

と、ソファに座って泣いている恵理が見えた。


「どうした、何かあったのか?」

「いえ、何も……」


見ると、楽譜がフロアに散らばっていて、恵理の胸元のボタンも外れかかっていた。


(さっき、出て行ったあいつか)


ある日、ライブ前に楽屋に向かうと、泣いている恵理がいた。


「どうした、何かあったのか?」

「いえ、何も……」


見ると、楽譜がフロアに散らばっていて、恵理の胸元のボタンも外れかかっていた。


(さっき、出て行ったあいつか)


俺は咄嗟に、追いかけようとしたが、


「大丈夫です。何もされてませんから行かないでください!」

「いや、でも……」

「お願いです。崇さん、ここにいて」

「……わかったよ。大丈夫……なんだな?」


恵理はコクンと頷いた。そして、俺の手を握りながら、


「ごめんなさい。しばらく手を握らせておいてください」


と言った。震える恵理の手を俺は握り返しながら


「ああ、いいよ。安心して握ってろよ」


と言った。

しばらく、そのままだったが、ようやく息を落ち着かせた恵理は、


「崇さん、私と付き合ってください」


と言った。


「え、いや、それは」

「ダメですか?」

「それは、ダメだよ。よくない」

「どうしてですか?」

「よくない。俺、昔、一緒にギター弾いてた子がいるって言っただろ?」

「ああ、KAHOさんとかいう人?」

「そう。彼女を好きになったけど、音楽が一緒にできなくなるのが怖くて好きだって言えなかったって」

「ええ、聞いたことあります」

「だから、今度、そういうことがあったら絶対、自分から告るって」

「え、それって、まさか……」

「そうだよ。恵理のことだよ」

「ごめんさない。無理です。『真夜中 ひとり立ち尽くして 風邪ひいた』なんていう人、好きになれません」

「え。いや、あの……だって今」

「だって、女の子に『付き合ってください』って言われてから、そんなこと言うなんて許せないですよ」

「え、いや、それは、その……」

「なあんて、ウソです。ありがとう崇さん。嬉しいです。私、崇さんのこと、ずっと好きでしたよ」

「え、ずっとって?」

「最初にライブに来てくれたとき、なんかお父さんに似てる人がいるなぁって。どこかでみたことがあると思ったら、崇さんだった。いつも仕事だと会社の制服のイメージしかなかったから気づかなかったけど、私服で座ってるの見た時、お父さんが見に来たのかって一瞬思ったの」

「え、俺、そんなに老けてるかなぁ?」

「だから、お父さんが若くなった感じで」

「いやいや、いいよ、思ったままで」

「それで、なんか変に意識してたら、『恵理ちゃん、コード教えて』って言われて、『一緒にギター弾こう』ってなって、握手したでしょ?」

「うん、した。急に握手なんて言うから、ちょっとびっくりしたけど」

「で、握手したら、崇さんの手、お父さんとおんなじ温かさだったの」

「だから、好きになった……?」

「だからかどうかはわからないけど、それから崇さんといろいろ音楽やっているうちに自分の感性と合うなと思うようになって、気づいたら好きになってました」

「俺も、KAHOちゃんとは違うけど、恵理ちゃんといると、新しい自分を見つけることができる気がしたし、君にも新しい君を見つけさせてあげられると思ったんだ」

「そうだったんですね。じゃ、新しいあなたと私を一緒に見つけましょう。よろしくお願いします」

「よろしくって何を?」

「だから、新しいあなたと私」

「新しい……ね」


俺は、勝手に想像して少し赤くなっていた。


「あれ、崇さん、なんで赤くなってるんですか?もしかして、Hなこと考えたんでしょ?」

「い、いや、そんなわけ……、ちょっとだけね」

「もう、そんなとこもお父さんに似てる。ハハハ」

「そうなの?喜んでいいのか、悪いのか」

「いいじゃないですか。私と付き合えるんですよ。ね?」

「ああ、そうだな。でも、恵理ちゃん、恵理って、こんな感じなの?」

「いやぁ、そうでもないはずなんだけど、今日はなんかこんな感じになっちゃいました」

「……これから大丈夫かなぁ?」

「嫌なんですか?」

「いいや、嫌じゃない、嫌じゃない。大好きです」

「うん、よろしい」


と俺たちはここで本当に笑い合った。



*


それから恵理と深い仲になるまで、それほど時間はかからなかった。

恵理は新しい曲を書いては、


「シーさん、こんな曲創ったんだけど、どう?」


と聞いてきた。


『シーさん』


この頃になると、恵理は俺のことをそう呼んだ。

『崇さん』の呼び方がだんだん省略されて、『カシさん』になり、

『シーさん』に落ち着いてしまったのだ。


「お、今度はボサノバ調か。なかなか大人の雰囲気ですな」

「変?」

「いや、いいよ。変なのは、『パラドックス・プレイス』で経験済みだから、あれに比べたら、全然、普通」

「じゃ、ダメだ」

「え、ダメって言ってないよ?」

「だって、最初の曲より変じゃなかったら、新しい私じゃないでしょ? シーさん、新しい私を見つけてくれるって言ったんだよ。これじゃ、ダメだよね〜」

「いや、全然ダメじゃないよ。いい曲だよ」

「ほんと? ウソは許さないからね?」

「ウソなんかつかないよ。音楽だけはウソついても聴いてくれる人にはすぐわかってしまうから」

「じゃ、信じる」

「ああ、信じてください」

「ところで、音楽以外では、私にウソついてるってこと?」

「え? いや、決してそんなことは……。恵理ちゃん、恵理様、結構、激しいんだね。付き合う前はわからなかったけど」

「何?ダメ?」

「ダメじゃないです。今日も新しいあなたと自分を見つけられてシアワセです」

「ふふふ、もう、そうやっていつも冗談にするんだから。でも、そんなシーさんが大好き!」


と恵理は俺のほっぺにキスをした。



*


【フェーズ4(戻り)】


気づくと、そこは「ふみ町」のお手洗いだった。時間はほとんど経っていない。


(また変な夢みたな)


と思って、スマホを見ると「Dreamin'」の文字はどこにもなかった。

俺は、不思議な気持ちのまま、外へ出た。

そこへ、ユキノも出てきた。

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