132.酒は飲んでも呑まれるな
黒い空間に戻って来た。
『おめでとうございます。メインストーリー7『帰らずの森の試練』ををクリアしました』
『おめでとうございます。メインストーリー7 EX『真なる魔女・継承の宴』をクリアしました』
『活動実績を算出……事前阻止のため活動実績の算出が不可能です』
『完全達成と同様の状態と見なし、報酬を行います』
『実績 EXステージの7連続クリアを達成』
『実績 EXステージの事前阻止を達成』
『通常ステージ成功報酬 ポイント+70、悪魔のネックレス、10,000イェンを獲得しました』
『追加報酬 ポイント+700、デイリーボーナスチケット×30、スキル『その場しのぎ』を獲得しました』
『EXステージ成功報酬 ポイント+2,000、ヌッチャラ湿原の王鍵、40,000イェンを獲得しました』
『実績 王鍵を四種類獲得するを達成』
『迷宮通行証を手に入れました』
『ポイント交換が拡張しました』
『ショップが拡張されました』
『デイリーダンジョンが拡張されました』
『待機室が拡張可能になりました』
さっそくアナウンスが流れる。
うーん、クリアした実感は皆無だけど、まあ報酬はありがたく頂くとしよう。
「2,770ポイント……」
ただ皆で楽しく飲み会しただけなのに2,770万円。
既存分と合わせれば、もうすぐ二億円に届くんじゃないだろうか?
サラリーマンの生涯年収をたった数日で……。
うーん、金銭感覚ぶっ壊れるな。
「これだけあれば現実の方の才能にポイント使っても全然余裕だな」
四回目のステ振り。一回ごとに必要なポイントは十倍になる。
容姿、頭脳、運動機能、身体機能、運。
全て上げるなら5,000ポイントという膨大なポイントが必要になるが、今の俺なら余裕で賄える。
「……上げておいて損はないな」
世界扉の件を思えば、現実でのステータスも上げておくに越したことはない。
と言うわけで、久々にステ振りをした。
実質これがマックスだろうな。次に必要なポイントは50,000ポイントだし。
「さて、次はアイテムの確認をするか」
一つずつ確認していくか。
まずはデイリーボーナスチケットから。
・デイリーボーナスチケット
一枚につき、一回デイリークエストのボーナスが復活する
おお、これは地味に便利なアイテムだな。
デイリーで手に入るポイントは一回だけだから、それを何回も出来るのはありがたい。
といっても、ポイントには余裕があるし、使うとすれば日曜日のボスクエストか。
あれだけは周回出来ないから、これを使えば再挑戦出来るはずだ。
ボスがマザースネイクのままなら、楽に終わらせられる。
「こっちの『悪魔のネックレス』ってのは、どんな効果なんだろう?」
・悪魔のネックレス
装備するとランダムなデバフを三つ獲得する
獲得したデバフは解除不可
装備中はステータス及び装備効果が二倍になる
「……これ、かなりのぶっ壊れ効果じゃないか?」
ステータスと装備効果が倍ってヤバい。
ランダムなデバフ三つってのがネックだが、これ『解除不可』とは書かれてるけど、『無効化不可』じゃないんだよな。
つまり称号効果や、コロロさんとニャンマルさんに預けた『天使のネックレス』と併用すれば、実質ノーリスクで運用できるかもしれない。
『天使のネックレス』はデバフを三つ無効化してくれるからな。
……次に会った時にはちゃんと返して貰おう。
「これは俺よりも雷蔵向きの装備だな」
前衛向きの装備だし、雷蔵が適任だろう。
『雷神形態』とのシナジーも高いし。
「スキルの『その場しのぎ』ってのはなんだ?」
・その場しのぎ アクティブ
受けたダメージを無効化し、1分~15分後に同等のダメージを受ける
発動後、経過時間と同等のCT発生
「へぇー、中々面白いスキルだな」
回復やアイテムが間に合わないときには使えそうだ。
ひょっとして致命傷でも先送りに出来るって事か? 累積は可能なのだろうか?
もしどちらも可能なら、タイミングや戦況次第では、切り札になるな。
これは待機室で要検証だ。
「次は迷宮許可証だな」
・迷宮許可証
全ての迷宮へ入ることが出来る
「説明ざっくりだな!?」
旧世界の鍵といい、なんかアイテムによっては意図的に説明が省かれている気がする。
四大迷宮だって、まだ鍵手に入れただけで挑戦もしてないし。
「小雨の世界扉でクエストやストーリー関係なく往来が出来るようになったし、まずはパルムール王墓に行きたいんだよな……」
あそこにはナトゥリアの言っていた、この世界の事情に詳しい奴が封印されている。
『終末世界』に向かう前に、そちらを済ませておきたい。
「とりあえず待機室に戻ったら、魔女っ子への説明と、ナトゥリアに『旧世界の鍵』ってのについて聞いてみるか」
自称魔女の弟子が残していったアイテムだ。
間違いなく重要なアイテムのはず。
俺は扉をくぐり、待機室へと向かうのだった。
一方そのころ、リリアンヌは『えねみー』の拠点へと戻っていた。
「ふぅ……ただいま戻りましたわ」
「おや、お疲れ様です。遅かったですね」
椅子に座って本を読んでいた派手な服装のピエロが手を振る。
リリアンヌはきょろきょろと周囲を見渡す。
「クラウン・レディオ……。居るのは貴方だけですの? 他の皆様はまだ戻っていらっしゃらないの?」
「皆、忙しいですからねぇ。特に女王と将軍は『戦国乱世』で、ぷれいやーへの借りを返してくると息巻いていましたから。しばらく戻らないそうですよ」
「……そう、ですの」
あからさまに気落ちするリリアンヌに、クラウン・レディオは嘆息する。
「リリアンヌ、一応言っておきますが、我々はただ同じ目的のために集った同士でしかありません。あまり仲間意識を持つのは禁物ですよ」
「……分かっていますわ。でも少しくらいは良いじゃないですか」
他愛もない会話や、食事を共にするくらいは。
(……昨日は楽しかったですわねぇ……)
不覚だったが、あの時は本当に心の底から楽しかった。
あんなに笑ったのはいつ以来だろうか?
(……皮肉ですわね。仲間よりも敵であるぷれいやーとの食事の方が楽しかっただなんて)
リリアンヌは少しだけ、寂しそうな表情になる。
クラウン・レディオはそれが少し気になったが、言及はしなかった。
「何があったかは、あえて聞きませんが……それよりも、どうでした彼は? なかなかの逸材だったでしょう?」
彼――というのは、勿論あのぷれいやー『リュウ』のことだ。
変態としか思えぬ容姿。しかしその実力は本物。
偽体とはいえ、クラウン・レディオが後れを取った唯一のぷれいやーだ。
自分以外の者が、彼をどう評価するか、気にならないと言えば嘘になる。
リリアンヌは顎に手を当て、少しばかり考えた後、口を開いた。
「とても……興味深い殿方でしたね。貴方が興味を持つのも納得しましたわ。お料理やトークもお上手でしたし……」
「……料理? ああ、確かに戦術も巧みでしたからね。舌戦もお上手でした。ふふ、中々に的を射ているじゃないですかリリアンヌ」
「光栄ですわ」
やはりあのぷれいやーは面白い。
次に会うのが楽しみだ。
ちなみに乳首のシールのは♦に決定した。
悩みに悩んだが、ここは王道で行くことにしたのである。
「ところで、リリアンヌ。ここに戻って来たということは、ちゃんと彼に例のアイテムは渡してきたのですよね?」
「ええ、勿論」
クラウン・レディオの問いに、リリアンヌは頷く。
「ならこれで、彼の元には『救世の鍵』と『銀翼の鍵』。二つが揃ったということですね」
「ええ。彼ならきっと残る三つの鍵も揃えるはずですわ。そうなれば、世界は救済され――」
「我々の真の目的にも、また一歩近づく……」
ふふふ、と魔女の弟子と道化は、人の悪い笑みを浮かべる。
偽体で負けた相手には鍵を渡す。
これは『えねみー』に課せられたルールだ。
鍵の持ち主は全部で五人。
魔女の弟子、道化、女王、将軍、そして王様。
このうち、『王様』を除く四人のえねみーが、既にぷれいやーに鍵を渡している。
「さて、それじゃあ私も次のクエストに向かいますか。リリアンヌ、『旧世界の鍵』をこちらへ」
「分かりましたわ……あら?」
「どうしました?」
懐から『旧世界の鍵』を取り出そうとして、リリアンヌは首をかしげる。
何故なら、そこから出てきたのは――ぷれいやーに渡したはずの『銀翼の鍵』だったからだ。
何故、これがここにあるのだろう?
そして何故、持っていなければいけないはずの『旧世界の鍵』がないのだろう?
「あら? あら? あらぁ……?」
リリアンヌは何度も自分の体をまさぐる。
その様子に、クラウン・レディオは猛烈に嫌な予感がした。
「あの……リリアンヌ? 分かってますよね? 『旧世界の鍵』は我々のいるこの世界への扉を開く鍵です。我々にとっては万が一、帰れなくなった時の為の保険アイテムに過ぎませんが、もしあれが『ぷれいやー』の手に渡ってしまうと……」
「…………」
だらだらと顔から汗が滝のように流れる。
クラウン・レディオすらも珍しく冷や汗を浮かべている。
「………………やっべぇですわ」
酒は飲んでも呑まれるなとは、本当によく言ったものである。




