3 門出
「ま、黛くん、どこへ行くの?」
私の問いには答えず、黛くんは私の手を取って校舎の外へ出た。そのまま、校門を出る。
校門を出て左に歩いてすぐの横断歩道。そこで黛くんは立ち止まった。
歩道脇には、いくつかの花束とお菓子やジュースが置かれていた。
「ちょうど一年前の今日だったんだ。吉野さんは覚えてる?」
「え?」
私が戸惑っていると、横断歩道を渡ってくる2人に気づいた。両親だった。
「お母さん、それにお父さんも! どうしたの? 今日は仕事じゃないの?」
私の問いに答えず、両親は歩道脇の花束に向かってしゃがみこみ、手を合わせ始めた。
「ねえ、何なの? 何してるの?」
「美雪、美雪……」
母親が私の名前を何度も呼びながら、体を震わせ泣き始めた。父親が目に涙を浮かべながら、上着のポケットから一枚の写真を取り出し、花束の横に添えた。
私の写真だった。
† † †
「どう、思い出した? 吉野さん」
黛くんが、悲しそうな顔で言った。
ああ、そうだった。どうして忘れていたんだろう……
ちょうど一年前の今日。私はここで車に撥ねられたのだ。そして、救急車で病院に運ばれた私は……
「私、死んじゃったんだ……」
卒業式間近だった。志望校に合格し、クラスの友達と残り僅かの学校生活を楽しんでいた。いつものように学校へ向かっていたのに。
私の体に泣きすがる両親。泣きじゃくりながら葬儀に参列してくれたクラスの友達……全てをまるで他人事のように傍で眺めていた。
そして、気づいたらいつもの教室の席に座っていた。
「吉野さんは、自分が亡くなったことを忘れてしまって、皆が卒業した後も、同じクラスの同じ席に座り続けていたんだよ」
私は、改めて今のクラスの皆の顔を思い出した。そうだ、よく考えるとクラスの皆は私の一年後輩だった。
「吉野さんの魂は、クラスに、この世に留まり続けた。その魂に誘われて、瘴気が学校に集まり始めた。それで、学校で様々な怪異が起こり始めたんだ」
黛くんが学校の方へ目を向けた。
「あの学校の七不思議は、すべて『吉野さんの霊』が起こした怪異だと噂された。その噂の力と瘴気が相互に作用して、吉野さんの魂を学校に縛り続けた」
「そうだったんだ……」
私はポツリと呟いた。クラスの皆の嫌悪の眼差しは、私の席や校内で頻発する怪異への恐怖の眼差しだったのだ。
「私はどうしたらいいの?」
「僕と一緒に中有、あの世へ行こう。僕はそのためにここへ来た」
黛くんが笑顔で言った。不思議と心が温まる、とても優しい笑顔だった。
「黛くん、あなたは神様なの?」
「ううん。僕は中有への道に迷った魂をサポートするあの世の公務員だよ。この世の人たちは、僕のことを『死神』とか『勾魂使者』とか『無常』とか色々呼んでるみたいだけど、まあ、そんなに怖い者じゃないよ」
黛くんが笑いながら言った。私もつられて笑う。
「ふふ、確かに、黛くんはそんな怖い人には見えないわ」
「それじゃあ行こうか」
黛くんが手を差し出した。私は笑顔で頷き黛くんの手を取る。
「お父さん、お母さん。それにクラスのみんな。今までありがとう!」
両親が、何かに気づいたかのように私の方を向いた。
私はとびっきりの笑顔で両親に手を振ると、黛くんと一緒に天へと上っていった。
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