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紅い侍  作者: 柴崎龍
第三章 徳豊争乱
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第四十四話 勝負



備後国・神辺城



広家は激しく動転していた。



「殿が、砦に発砲を?」



国境を封鎖し、主を説得する。そんな広家が思い描いていた絵図は一発の弾丸で砕け散った。


 

「こうなってしまった以上、ご覚悟なされませ。戦は避けられませぬ。」



「なりませぬ!毛利と吉川は一心同体!刃を交えることがあってはならぬのです!」



「輝元のせいじゃ…」



「殿…?」



「いつもあの男がしくじって、儂がその後処理をさせられる。あの男さえいなければ…」



「なりませぬ殿!ご再考を!」



「決めた、決めたぞ儂は。この芸備に再び元就公の威光を知らしめられるのはこの儂じゃ!」



備前国・下津井城



池田宗家当主・池田利隆は毛利内乱の知らせに弟・忠雄とともに喜びを隠せないでいた。



「兄上、出陣は明日にございます。久しぶりに囲碁でも打ちませぬか。」



「良いな。やるか。」



「しかし、まあ見事に毛利も割れましたな…」



「まああの輝元の考えることじゃ。家臣もついていかぬのだろう。」



「四国の長宗我部は連戦中。疲れもありましょう。無事に瀬戸内を渡りさえすれば、心配には及びませぬ。」



「儂も早く、父上に追い付かなければな…」



「兄上は既に立派な主君となっておられまする。兄上なくして今の池田はありませぬ。」



「嬉しいことを言ってくれるではないか。」



「おっ、勝ちですな。兄上が儂に囲碁で負けるとは、珍しい。」



「明日の出陣に心躍り過ぎたのかも知れぬ。」



「そうですな。今日は終いにいたしましょう。」



翌日



「殿、朝餉の支度が出来ております。」



家臣は三度ほど問いかけたが、主君の部屋からの応答はなかった。



「殿、開けますぞ。」



利隆は碁盤にうつ伏せになっていた。



「殿、お目覚めください。朝餉の支度が…殿?」



体を揺らしてみるものの、起きる様子はない。家臣は利隆の息がないことに気づいた。



「誰か、誰かおらんのか!一大事じゃ!」



利隆死すの衝撃は、池田を撤兵させるには十分だった。その報は一斉に方々に知れ渡り、長宗我部軍は迎撃を中止。讃岐攻めを開始した。



備後国・神辺城



備後での戦闘は吉川勢の奮闘こそあったが、段々と毛利の兵力と士気の高さに押されていた。



「殿、神辺に最も近い砦が落ちました。直に毛利勢が攻め寄せてくるかと。」



「…」



「殿、我が軍勢は少数ながら奮闘しておりますが、毛利勢徐々に押されております。」



「お主は儂に降れと申すか?あの輝元にか。」



「殿は吉川家の当主にございます。輝元様も命までは取りますまい。」



「このような弱兵ども、儂一人で十分じゃ。池田の四国入りが成れば、ここにも援軍が来る。」



「援軍は、来ませぬ。」



「お主は先程から何を申しておるのだ。」



「先程早馬の知らせで、池田武蔵守様が病で急死なされ、池田は全軍を退いたと…」



広家は全身から汗が出ていくのを感じた。



「そんなこと…嘘であろう。お主が儂を騙す為の…」



「池田からの早馬です。確かかと。」



「少しばかり、一人にしてくれ。」



「はっ。」



広家の長考は、日が暮れるまで続いた。



「皆の者。これまで良く戦ってくれた。儂はな、これから夜襲をかけようと思う。」



「それが、殿のご決断なのですね。」



「そうじゃ。もちろん、降りたいものを止めることはせぬ。皆元々は同じ家中の人間じゃ。輝元とて命まで奪うことはないであろう。」



重苦しい空気が流れる。中には、泣き出す者までいた。



「それでも残るというのなら、儂と共に来てくれ。死にに行くつもりはない。最後まで、勝つのみじゃ。」



神辺城周辺・毛利軍本陣



「殿、夜襲にございます!」



「おのれ又次郎、死にに来よったか。全軍、迎え撃て!」



両者譲らぬ、一進一退の攻防。激しい戦闘は続いた。



「殿、お逃げくだされ!敵方に押されておりまする!」



「逃げてたまるか。又次郎が真剣に儂と向き合っておるのじゃ。受けて立とうではないか。」



そこへ、一人の武士が馬を走らせて本陣に突入してきた。



「おのれ輝元!その首奪ってくれる!」



「者ども、矢を射掛けよ!」



後方に待機していた弓兵達が続々と矢を放つ。その矢は、広家の胸元に突き刺さった。



「うっ…」



「敵将、打ち取ったり!」



四方八方から一斉に鬨の声が上がり、将を失った吉川勢は一気に総崩れとなった。



「又次郎よ。お主の死、決して無駄にはせぬぞ。」



輝元は小声で呟いた。



三河国・岡崎



家康は病を押しながら自らの生地・岡崎に到着。ここで評定を行うことに決めた。



「皆の者。良く集まってくれた。皆の耳にも、西国で豊臣方が優位であること、入っていると思う。」



「その上で皆に聞こう。天下静謐を乱し、再び戦乱の世へ戻そうとしているのは豊臣ではないか?」



「その通りにございます!」



松平忠直が先陣を切って発言する。



「徳川の手で天下静謐を成し遂げましょうぞ!」



松平忠輝も続いた。



「皆のその言葉、聞けて嬉しく思う。豊臣に味方したいものは今すぐ去れ。これは儂の最後の戦いじゃ。」



これをもって『岡崎評定』は幕を閉じた。両軍は少しずつ、美濃へ誘われるのであった。



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