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紅い侍  作者: 柴崎龍
第三章 徳豊争乱
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第四十話 信念



近江国・彦根城付近



「毛利宗端?」



「輝元にございます。関ヶ原での敗戦後、隠居し宗端と名乗っておるのです。」



「何故ここへ参った。」



「はっ。我が主は再び戦乱の世となってしまった今、日ノ本が一つに纏まるためには徳川を滅ぼす他ないと考え、微力ながら毛利もそのお手伝いをさせていただきたいと考えておりまする。」



「つまり、毛利は徳川の元を離れ、我が方につくということだな。」



「左様でございまする。こちらが我が主の密書でござる。」



「備前、お主はどう思う?」



「恐れながら、某は毛利を信頼できませぬ。」



「何故じゃ。」



「毛利は関ヶ原の際、吉川又次郎の徳川勢への裏切りによって軍を動かさず、毛利宗端は戦が終わるまで大坂から出ることはございませんでした。まさに関ヶ原での敗戦の要因である毛利を安易に信頼することは危険と考えまする。」



「なるほどな。左衛門佐は。」



「某も宇喜多殿と同じく、この密書一枚で毛利を信じるのは難しいかと存じまする。近頃、池田が我が領内への出兵の準備を進めているという噂が出回っております。豊臣への忠誠の証として、池田領内へ攻撃を加えていただくのはいかがでしょう。」



「わざわざ書状を寄越してきたのだ。毛利も考えがあってのことだろう。よし、宗端に池田へ攻め入れと伝えよ。」



「はっ。」



土佐国・高知城



蜂須賀が豊臣についたという報を聞いた土佐の国衆は旧主・盛親の凱旋に歓喜し、続々と山内家の元を離れ、その勢いは豊臣軍が高知に近づくに連れ増していった。



「殿、着々と豊臣軍は高知に向かってきております。」



「おのれ秀頼。図に乗りおって。」



「いかがいたしますか?殿。」



「無論戦うのみじゃ。父上が大御所様に受けた大恩を山内は決して忘れてはいかん。」



「しかし、元々長宗我部の家臣であった郷士どもは続々と豊臣へ与しております。我々だけではもはや勝ち目はございませぬ。」



「ならば伊予の加藤、伊達、脇坂に至急援軍要請をせよ!」



「それが…」



伊予国・松山城



「豊臣の侵攻は日に日に勢いを増しております。このままでは四国が豊臣に蹂躙されてしまいまする。何卒、土佐への援軍をお願いしとうございます。」



「それは儂も聞き及んでおる。我らは大御所様から頂いた領地を命懸けで守らなければならんじゃろう。」



「それでは…」



「しかし、儂は豊臣にも大きな恩がある。亡き太閤殿下がいらっしゃらなければ、今日の儂はなかったも同然じゃ。」



「ならば加藤家は豊臣に従うと申されるか!」



「本心を言えば、儂は豊臣と戦を交えたくはない。徳川の権威が落ちている今、尚更じゃ。」



「加藤様のお考えはよう理解致しました。某は帰らせて頂きまする。」



「脇坂、伊達を当たるつもりか。きっと儂と同じことを言うじゃろうな。」



土佐国・高知城



「その後も再三伊予の大名に対して援軍要請を行っておりますが、返答はありませぬ。」



「もうよい!他の大名がどうなろうと知らん!すぐに出陣の用意をしろ!儂は最後まで戦う!」



「殿!」



土佐国・中村城



土佐中村を治める山内康豊は山内一豊の弟で、現藩主・忠義の実父に当たる人物である。



「大変にございます。どうやら殿が高知から出陣し、豊臣と一戦交えようとされているご様子!伊予や讃岐の大名は日和見を決め込んでおり、援軍を望むことはもはや難しいかと!」



「もし一度戦が始まってしまえば、我が山内に勝ち目はない。儂は今すぐ高知へ参る。お主は豊臣に使いを送れ。」



「はっ!」



土佐国・安芸



「何故儂が先鋒などやらねばならぬ!儂は阿波一国の主であるぞ!長宗我部などに降るとは、父上もどうかしておる!」



「どこで誰が聞いているか分かりませぬ。これも蜂須賀の御家を残す為でございます。」



「殿!」



「何じゃ。」



「最前列が攻撃を受けております!」



「山内か?」



「左様にございます!」



「皆の者、かかれ!」



この日、ついに山内は豊臣への攻撃を開始した。山内は予想に反し地形を上手く使って善戦し、豊臣軍は窮地に陥った。



「殿、前線は徐々に後退しております。ここは一時兵を退き、立て直しましょう!」



「ならん!ここで儂が退いたとあっては、蜂須賀の名に傷がつく!豊臣に降るのも癪じゃが、山内ごときに負けるのはもっと癪じゃ!叩き潰してくれるわ!」



安芸国・広島城



「殿!豊臣に付くというのは真でございますか!」



「それがどうした?又次郎。」



「某や福原殿に黙って内藤少輔次郎を大坂へ忍ばせ、とうとう豊臣に味方しようなどというのは言語道断!もう毛利は関ヶ原の時のようになってはなりませぬ!」



「それは吉川殿がしくじられたからじゃろう!」



「なんじゃと!」



吉川広家と毛利秀元。この両名は毛利家中で二分するほどの権力を持ち、お互いを嫌悪しあっていた。



「お主ら、聞いてくれ。儂は決めた。我が毛利は豊臣に付く。」



「もはや豊臣の時代は終わっております!」



「徳川の時代も終わりつつある!よく考えてみよ。何故これだけ豊臣が畿内で暴れておるのに、家康は一向に出陣しようとしない。もう幕府に求心力などないのだ!」



「殿の申される通りにございます。今こそ、旧領を回復し、再び毛利が西国の覇者となるのです!」



「お主は好き勝手言いよって…」



「又次郎、儂はやるぞ。この好機を逃すわけにはいかん!今すぐ戦の準備をせよ!池田領に攻め入る!」



「はっ!」



山陽でもまた、新たな戦が始まろうとしていた。



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