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紅い侍  作者: 柴崎龍
第二章 豊臣家、本格始動
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第十八話 高虎の決意

隼人…成瀬正成 与右衛門…藤堂高虎




上総国・大多喜城 本多忠朝視点



先程配下の者がしゅうと殿からの文を持ってきた。どうやら人払いをして読めと書いてあるようだ。



「おい、人払いをしてくれ。」



「はっ。」



文に目を通すと驚きの事が書いてあった。



「なっ、何だと…」



どうやら舅殿は豊臣に近づき情報を得ようとしているらしいが、その情報の中にイスパニアと豊臣が結び江戸湾と伊勢湾に攻撃を仕掛けようとしている事が判明したそうだ。



「つまり此度の対豊臣援軍に行くついでに神戸城で休息しながら警備して欲しいと言うことだな。この事は誰にも言わないで欲しいと書いてあるぞ。」



「まだ書いてあるな、菊の顔が見たいと言うことか。」



「行くしか無かろうな。神戸に。」




伊賀上野城近郊・徳川義直視点



儂は先程藤堂家の兵五千と合流し豊臣が現在行っている、伊勢・伊賀侵攻を食い止めようとしていた。ここを落とされれば、儂の領土である尾張、大御所がいらっしゃる駿河にも近くなってしまう。危険なのだ。



「隼人よ、一向に敵の姿が見えぬが…」



「分かりませぬ…いるはずなのですが…」



兵が後方から全速力で走ってきた。



「申し上げます!豊臣勢、神戸城を落としました!」



「何だと?!」



隼人が驚きの声を上げた。勿論儂も驚いているが、感情を出してはいけない。



「一柳は?」



「それが分かりませぬ…情報が全く出てこないのです…」



「確かにいるのだな?」



「はっ。現在は休息中だそうです。」



「どうなされますか、殿。」



「わかった。藤堂殿を呼んでくれ。緊急で軍議じゃ。簡易で構わない。正直儂より歴戦を戦ってきた藤堂殿に聞いた方が良い判断ができるだろうからな。」





伊賀上野城近郊・藤堂高虎視点



先程前方で行軍していた我らだったが、尾張藩の成瀬殿から豊臣方が伊賀上野から目標を神戸に変え、同地を落としたという情報があったと言われ、仮の軍議をしている。



「先程も言ったように、どうやら豊臣方は我らと決戦になるならばこうした山岳が多いこの地域よりも、平地で藤堂様の本拠地に近い神戸の地を選び、落としたと考えられるでしょう。」



「藤堂殿、貴殿はどうお考えか。」



「某はやはり神戸に転進するのが無難かと。まあ豊臣の思惑通りになってしまいますが、どちらにせよ沿岸部で平地の方がよろしいかと。」



「やはりそうですか。まあ藤堂殿が言われるように転進致しましょう。それと、もう一つお聞きしたいのですが、神戸城主の一柳殿が行方知れずなのです。」



「逐電ですかな?」



「いや、他にもあまり情報が入っておらず、入っている情報は豊臣が神戸城を落とし、現在休息中ということだけなのです。」



「中々に危のうございますな。」



「そうなのです。某も転進し神戸の地で一戦交えた方が良いと思うのですが。」



「そうですな…」



これは迷うな。だが今戦わねば伊勢・伊賀は勿論の事、尾張など周辺諸国まで狙われる可能性がある。ただ、十分な情報が入っていないというのは大変危険だ。戦は戦うだけではなく、情報戦でもあるからな。



「ですがこれは天を信じて転進致しましょう。」



「そうですな。隼人、全軍に転進命令を出してくれ。」



「御意。」





神戸城・本丸御殿



「面を上げよ。」



「はっ。」



「此度は我ら豊臣家にお味方頂き忝ない。」



「滅相も御座いませぬ。」



「暫くこの城を使わせて貰うことになる。もしこの戦が終わった暁には恩賞を与える故心待ちにせよ。」



「有り難き幸せ。」



「ところで左衛門佐、徳川はどうなっている?」



「ようやく伊賀上野より転進したようです。ですが、情報は余り掴めていない様子で。」



「そうか。そろそろあれを使っても良いかの、右衛門よ。」



「はっ。準備は出来ております。」



「よし。では、出発せよ。」



「御意。」

ちなみに途中登場する「菊」は一柳直盛の娘です。


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