第十五話 千姫
大坂城下・青木屋敷
「皆、よう集まってくれた!今宵は戦の祝宴じゃ!気にせず飲んでくれ!」
『応!』
そして夜も更け、
「薄田殿、起きてくだされ。」
「ん…?そうであった!起きなければ!」
「薄田殿、大きな声を出してはならぬ!静かに参ろう。」
「そうであったな。参ろう。」
皆酒を飲みその場に倒れこんでいて、酒の臭いが屋敷中に広がる。
「孫七郎殿じゃ。」
兼相がそう言うと二人で顔を見合わせて軽く頷いた。
「孫七郎殿、起きてくだされ。」
「…」
「孫七郎殿!」
「はあ、何でございましょう。」
秀持は寝ぼけながら起き上がる。
「少しお話ししたいことがありまする。」
一重と兼相は奥にある間に秀持を連れ、下女に人払いを命じた。その頃には秀持の酔いも覚めていた。
「どうされましたか、青木殿、薄田殿。」
「単刀直入に申しまする。今の殿に、豊臣の棟梁が務まると思っておいでですか。」
秀持は眉間に皺を寄せる。
「殿は今や、牢人衆の言いなりにございまする。元の家臣団は蔑ろにされ、既に城内は二つに割れております。」
「つまりお二人は、殿のお命を奪うことで上に立ちたいと?」
「そうではありませぬ。殿には不本意ではありますが隠居していただくのです。手荒な真似は致しませぬ。」
今まで口を開いていなかった兼相が言った。
「そこで、殿が隠居されたあとの豊臣家を孫七郎殿に率いて頂きたいのです。」
秀持は数秒、考え込んだ。
「某もいつか父のため、豊臣に復讐することを待ち望んでおりました。お二人に力をお貸し致しましょう。」
大坂城・奥御殿
秀頼と千姫は大坂城の奥御殿で向かい合っていた。
「千、今日はお主に話したいことがある。」
「はい、何でしょうか?」
「先日当家が河内、和泉平定を成し遂げた事は存じているよな?」
「はい。存じております。」
「戦が近いのだ。徳川との戦じゃ。」
「私は、殿のお側にいとうございまする!」
千はその大きな瞳を秀頼に向けて言った。
「真か?これから儂は、お主の父や祖父と戦わなければならん。この戦はな、豊臣か徳川か、どちらかが倒れねば終わらんのだ。」
「…」
「千よ。儂はお主にこれ以上、悲しい思いをしてほしくはない。大坂を出よ。」
「嫌でございます!千は…ここにいとうございます!」
秀頼は千を抱き締めた。
「千、またいつか会える日が必ず来ると、儂は信じておる。」
翌日、千姫は僅かな供を連れ大坂を出た。




