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95話 尾行

「ちょっと休憩」

「だな。ベンチあるぞあそこ」


 プラスチック製の色褪せたベンチに向かい、持ってきていた予備のハンドタオルを広げる。


「私、闘牛じゃない……」

「違くて。汚れると思って一応」

「ああ……下にってこと」


 公園に来るのは決めていたのでベンチに座るかもしれない、そしたらベンチが汚れてる可能性もあると思い、持ってきたのだ。色褪せてはいるものの、これといった汚れているわけでもなさそうなのでいらなかったか。


「ありがとう」

「おう」


 俺の気持ちを汲んでくれたのか、雫は受け取ったタオルを敷いて、ベンチに腰を下ろす。それを確認してから俺も座った。

 

「あの、私だけ敷物あるの、罪悪感」

「ん、いやいいよ俺は」

「よくない、私が」


 雫はなるだけタオルの端に座り、余った部分をポンポン叩く。ここに座れということらしい。でも、と戸惑う俺のリアクションは素知らぬふりだ。こうなればもう座るしかない。


「じゃ、失礼します」


 俺は体が当たらないよう細心の注意を払いながらタオルの余り布の部分に着座。いや近い近い! 


「はい、じゃあ私も」

「ん? なんだ」


 雫はバッグから取り出したのはお菓子の包みっぽいもの。顔を背けたまま、手だけ動かし俺に差し出す。手の中にはクッキー、そして恐らく手作りのものが召喚された。


「マジか」

「……マジ」

「もしかしてこれは、食べていい感じか?」

「食べれないように、見えるのかな?」

「いやそうじゃなくて! めっちゃ嬉しいありがとう」

「うん……」


 手元が狂いそうになるのをなんとか耐え、中身のクッキーを取り出すことに成功。いただきますと口に入れる。雫は恐る恐る、「どう?」と尋ねてきた。


「なんかもう、ありがとう」

「味の話……」

「ああ。めちゃうまいぞ」

「そう……」


クッキーはバタークッキーで、プレーンと抹茶の二種類が入っている。いずれもほんのり甘さが口の中に広がり、耳心地のいいサクサク感がたまらない。形も星にハートに丸だったりと色々なものがあり、ラッピングも丁寧にされていて、雫の作っている姿を想像すると普通に泣きそうだ。


 雫は顔をこちらに向けようとしない。「どうした?」と覗き込もうとするが、更にそっぽを向かれてしまう。


「ちょっと、今は」


 雫は両手で顔を覆い隠し、


「見せられそうに、ないかも」


 そんなこと言われたら俺も急に恥ずかしくなってくる。顔は見えないが雫の耳が真っ赤になっているのはわかる。


「飲み物、買ってきて」

「ああわかった。何がいい」

「……おまかせ」

「後悔すんなよ」


 俺はベンチから離れ、近くにあった自動販売機へと向かう。ラインナップをさらっと見て、少し考えてからボタンを押してまたベンチへと戻った。


「ほい」

「ひゃっ! …………」

「睨まないでごめんなさい」


 まだ顔を覆ったままの雫の腕にペットボトルを当てると驚かれてしまった。お陰で久しぶりに目が合ったが、それと引き換えに機嫌を損ねてしまった。


「ありがとう」


 お茶のペットボトルを受け取った雫は方向転換し、ベンチを横向きに座り直した。


「おい悪かったって」

「反省の色が、見えない」

「そもそもこっち見てないだろ」

「見なくてもわかる」


 雫はお茶を飲みながら、飼育されている鳥達に目を向ける。


 やってしまったと少し後悔しながら、同じくお茶のペットボトルをチョイスした俺は、フタをパキャリとひねり、ごくごくと喉を潤す。

 こういう甘いものに合うのはお茶、そのなかでも緑茶が好ましい。緑茶の苦味が甘さで満たされた口の中に広がり蹂躙していくこの瞬間がたまらない。それに、味をリセットしてくれるので、またクッキーを頬張る時に甘さが際立ち、普通に食べる時より3割増しくらいでおいしく食べることができる。


 やっぱりうまいなと感心すら覚えていると、首もとに冷たい感触がして「ひょっ」と変な声が出てしまう。見ると、いつの間に背後に立っていた雫がペットボトルを手に、勝ち誇った笑みで立っていた。


「ひょっって……ひょって」

 

 俺のリアクションがおかしかったらしく、苦しそうに笑いながらすぐにベンチに戻ってきて、プルプル震える。してやられた悔しさはあるが、こんな笑顔見せられたらもうなにも言えない。


 その後、今日の映画の話や、昔の思い出話、学校でのことを話しているとあっという間に時間が過ぎていった。


「そろそろ帰るか」

「うん」


 空になったペットボトルを捨て、結局二人で食べたクッキーの入っていた包みをキレイに折り畳んで回収する。


「え、捨てないの?」

「ん、これか?」


 包みをさも当たり前のように回収する俺に、ポカンと口を開ける雫。よくよく考えると捨ててしまうのが普通かもしれない。アルガルドでのアイテム回収の癖がまだ抜けていないようだ。


「確かに。でもまあ記念にもらっとくわ。なんかこう、思い出的な」

「ダメ……! なんか、ダメ」

「おう、落ち着けよなんだよ」


 包みを奪いにきたのでとっさに上に掲げて雫の届かない位置に避難させる。ぴょんぴょんと跳ねる雫だが、俺も匠にその猛攻をかわす。


「また作るから……!! また今度作るから……捨てて」


 と一生のお願いくらい誠意のこもった懇願をされ、流石に俺も了承せざるをえない。ああ、宝物を捨てた気分だすごく心苦しい。


「これは、変態」

「変態……そんなバカな」

「よかったね、私で」


 まるで叱られている気分だ。自分の行動を客観的に見ることは怖いので家に帰ってからにしておくが、そんなに許されない行為だったのだろうか。


「普通、軽蔑されてる」

「ごめんなさい。ん、てことは軽蔑してない?」

「……帰る」

「おい待てって」

「私帰り道こっち。バイバイ」

「もちろん俺もだよ家隣だぞ」


 公園を出て、神社を通り来た道を戻っていく。先に行く雫に置いていかれないように歩調を早める。

途中、角を曲がったところで雫が足を止めていた。待っていてくれたのかと思ったがどうやら違うようで、道の先にいるなにかを観察していた。


「おい、どうした」


 体を屈め、ヒソヒソと声を掛ける。雫は口だけ動かして俺の疑問に答える。


「エマちゃんが、いる。一人で」

「エマが?」


 なんだって隠れてるんだ。話し掛けてもいいだろうに。


「神社の方に、向かってるみたい」

「お参りでもする、って感じでもないか」


 慎重に移動し、ひょっこりとエマを視認できる位置に顔を出す。確かに、一人だ。それもえらく真剣な顔をしている。戦闘中以外であんな顔は見たことないな。


 尾行、というのは気が引けるが、どちらが何を言うでもなく、神社の奥の方へ向かうエマをゆっくりと追いかけていった。


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