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86話 質問

「って言う感じ、だったんだけど……」

「んー、なるほどねー」


 雫の話を聞き終えると、美和子は目を瞑り黙り込んだ。二人だけしかいない屋上に沈黙が流れる。

 雫が話したのは雫に黙ってみんなと遊園地に行っていたらしいことと昨日の帰り道、普段の自分と違うところがないかという質問をした挙句恥ずかしさのあまり逃げ出してしまった件についてだ。

 

 なぜあんな質問をしてしまったんだと後悔は募るばかりだが、それを嘆いていても何も変わらない。そう思い、この先どうしていくべきかを美和子に相談したというわけだ。


 美和子はしばらくして、赤いフレームの奥にある目をゆっくり開けため息をつく。


「雫、一応聞くけど普段と違うところってなんだったの?」

「…………」


 流れからしてこの手の質問が来ることは容易に想像できていた。しかし、雫はすぐには答えることが出来ない。


「もしかして、なにも変わってないのに言ったの?」

「それは……違う……たぶん」

「たぶん?」


 美和子ははっきり答えない雫の様子から何かを悟ったようで、目線を屋上から見える校庭の喧騒に向ける。どうやら雫の相談を片手間で聞いても差し支えないものだと判断したらしい。


「じゃあなにさ」

「え、えっと……最近新しいシャン」

「言っとくけどシャンプー変えたとか無しね」

「…………」


 雫は再び言葉に詰まってしまう。自分でも「普段と違うところ」の範疇に入っていないことだと思っていたが、人から言われると改めて、いかに自分が痛々しい質問をしたか実感できる。


「……なにも普段と変わっていなかったと?」


 再びため息をつく美和子に、雫はこくりと頷くのが精一杯だった。


「じゃあ雫ちゃんは最近自分に構ってくれない拓実くんの気を惹こうとしてそんなことを言ったと?」

「ち、ちが」


 咄嗟に否定の姿勢を取るが、あながち間違いではないことに気付く。

 未だ残るしこり――拓実が雫に内緒でみんなと遊び行ったと聞いた時芽生えたモヤモヤが、雫にあんな言葉を吐かせたのかもしれない。


「ちが?」

「ちが、くないです……」


 段々と声のトーンが低くなる美和子が怖くなり、雫は目を合わせないよう俯いた。

 美和子は言う時はズバリと厳しいことを言うので、ある程度のことは覚悟していたが、この状況は完全に雫の予想を超えている。

 今日三度目のため息をこぼし、美和子はあのね、とけだるそうに口を開く。


「何が悲しくて友達ののろけ話を貴重な昼休み時間に聞かされなきゃいけないのかな私は」

「のろけじゃあない、よ」

「あーはいはい。わかったわかった」

「いや、ほんとに……」


 受け答えが雑になったので、少しムッとなり顔を上げると、真っすぐに雫を見る目が二つ。これならさっきまでのように片手間に聞いて貰ってるほうがいくらかマシだ。

 蛇に睨まれた蛙のように雫は動けなくなる。美和子も口を結び雫をただ見つめるばかりだ。

 


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