85話 帰路
「雄牙、大丈夫……かな?」
「まあ、なんとかなるだろ……たぶん」
俺と雫は帰路に着いていた。
空は淀んでおり、二人の心模様をそのままにあらわしている。
あのあと、結局俺はセイン達が異世界からやってきたことの経緯を雄牙に話した。いや、話そうとしたが正しい。
修の時と同様に最初は冗談を言っているのかと疑うばかりだったが、次第に俺の言っていることが現実味を孕んでくると、雄牙は糸が切れたように意識を失ってしまった。
その後、なんとか意識は戻ったものの午後の授業は終始ハトが豆鉄砲を食らったような様子だった。
なんとかしてやりたかったが、こればかりはあいつの問題だ。しっかり心に落とし込んで明日いつも通り登校してくることを願うしかない。
「そういえば、その首のひも……どうしたの?」
「ああ、これか。親父が送ってきた首飾りだ」
指摘され、首飾りを制服の内側から外へ引き出してやる。
親父から送られてきたあの日から、一応肌身離さず付けており、学校では目立たないように制服の内側にくるようにしている。
「なんか、昔っぽい?」
「同感だ」
細く研がれた牙を模したようなものの両隣に淡い緑の玉が二つついているだけのシンプルなデザイン。
おしゃれにさほど興味がない俺からしたら、これをアイテムとして活用するのは非常に難しいだろう。
「てか、よく付けてるの気付いたな。学校じゃ誰にも言われなかったぞ」
制服を上から着ていたので外からは全く見えないようになっていたはずだ。見えてもせいぜい首元からうっすら白いひもが見えるだけだが、それでもよく気付いたもんだ。
「だって……毎日見てるし、ちょっとでも変わってたら気付くよ」
「なるほど。まあ、そういうもんか」
俺も長年一緒に通学していることで、雫の歩き方から心情を読み取る変態的特技を身に着けてしまったことだしな。ちなみに今は歩調が度々変化していることから、どこかそわそわしているみたいだ。
「そう、だよ……じゃあ拓実、今日の私、いつもと違うのわかる?」
「……いつもと違うところ?」
目線を下に向け、もじもじする雫を観察してみる。
黒くて艶のある髪に対照的な白い肌。か細い手はスカートをギュッと握りしめ、シワにならないか若干心配である。スカートから伸びた足は無駄な肉は付いておらず、今にも折れそうなくらい華奢でこれも少し心配である。
「いつもと違うところ、違うところ……」
俺はより熱心に雫を観察した。正直とてつもなく恥ずかしく、顔が火照るほどだがそれは雫も同じなようで目に見えて顔を赤くしている。
「ま、まだ?」
「すまん、もうちょっと待ってくれ」
「……や、やっぱりいい! また明日ね!」
目線を泳がせる雫はいてもいってもいられなくなったのか急に走り出し、俺を置いて帰ってしまった。
取り残された俺は一人苦悶した。その夜は中々眠りにつくことはできなかった。




