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81話 機嫌

「おはよう雫」

「うん、おはよう」


 軽く挨拶を交わした後、俺たちはいつものごとく並んで学校へと向かった。

 昨日はあのあと、エマはいつもの調子を取り戻しみんなと楽しそうに遊園地を満喫していた。お陰で雄牙はアリアだけでなくエマとセインとも少しは話せるようになっていたので今回の目的は概ね成功したと言っていいだろう。

 

 それだけにあのときの発言が頭から離れないでいた。


『優しくないよ私は』


 物憂げな表情から発せられたエマの言葉――いつものエマなら「それほどでもあるかなー」なんて言って笑って見せるだろうに……。


「タクミ……どうしたの?」

「ん、いやなにもねーよ」


 心配そうな顔の雫に反射でそう返してしまうが、長年の付き合いだ。流石に嘘だというのはお見通しのようでその表情は晴れてくれなかった。


「もしかして……昨日のこと?」

「え、き、昨日!?」


 鏡で確認するまでもなく、俺の顔は一瞬にして青ざめた。

 昨日みんなで遊園地に行ったことは学校の誰にも言っていない。言ったらなにかしらの騒ぎになりそうだし、最悪遊びに行くこと自体中止になってしまう恐れがあったからだ。


 だから一緒に行ったみんなにも内緒にしておく旨を伝えたししっかり承諾も得た。

遊園地もそこまでここから近くない、且つマイナーな場所をチョイスしたつもりだ。


 それが何故既にバレているのか……たまたま同じ場所に居合わせたやつが言いふらして学校でバレてしまう、というのはわかる。

 しかし、今は月曜日の朝。バレるにしても早すぎる……。

 いや、でも雫は昨日のことと聞いただけでなんのことか具体的なことはまだ言っていない。

 他愛もない話の一環として聞いたつもりが含みのある言い方になってしまっただけかもしれない。まったく、焦らせてくれるぜ。


「昨日、遊園地、みんなで行ってたんだよね?」

「え、えーっと」


 まったく、焦らせてくれるぜ。

 俺のご都合的解釈はあっけなく砕け散った。


「なんで誤魔化すの?」


 雫は俺がなんで誤魔化そうとしているのかわかっていないらしい。

 恐らく自分が今、悲しみと憤りを絶妙に兼ね備えた顔になっているのを気付いてないんだろう。そんな顔を向けられたら素直に言いたくても言えないんだよ!


「いや、違うんだよ。昨日遊園地行ったらたまたま会って。それで成り行きで一緒に回ったっていうか」


 俺は最初で最後の切り札を投下することでこの場を治めようと試みた。

 噓くさい言い訳ではあるがここは力で押し切るしかない。なあに雫はこれを突破するカードを持ち合わせていないだろう。


「え、でも、昨日環ちゃんが急にうちに来て『お兄ちゃん、今遊園地で女の子たちとデートしてるんだよ。あっこれ雫姉ちゃんに言っちゃダメって言われてたんだー』って言ってた、よ?」

「あ、あはは。環の声真似似てるな雫。流石ご近所付き合いが長いだけあって――」

「拓実」

「……はい」


 その後、ふくれっ面の雫に今度遊びに行く約束をしてなんとか機嫌を直してもらうことに成功した。人数の割合が合わないからという理由で声を掛けなかったのが仇になってしまったようだ。


 とりあえず環。家に帰ったら覚えとけ……。

 


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