82話 肘鉄
「あ、エマちゃんたちだー」
教室に入ると雫は、三人固まって話しているエマたちを見てそう言った。
教室が一緒なんだからいるのは当たり前だと言いたいが、雫もそんなことは重々承知だろう。口調が棒読みなのでわざとに違いない。
「あーごめんごめん! 悪かったって」
さっき機嫌直ったとおもったのにまたかよ……。
雫は俺に見向きもせずに目的地である自分の席へと向かう。しかし、怒り慣れてないせいか誤ってすぐ後ろの俺の席へと座ってしまった。
「おい、そこ俺の席」
「……ばか」
バカはどうみてもお前だろ、とまたもツッコみたくなったが耳を赤く染め俯いているのを見て俺は出そうになる言葉を飲み込むことにした。
やはり普段と違う行動を取るのは難しいことだ。かわいいから大目に見てやろう。
「やータクミ。久しぶりだねー五年ぶりくらい?」
「いや、五年前は出会ってすらねーぞエマ」
こちらが送った視線に気付いていたのかエマはいつもの笑顔で話し掛けてきた。
それをみて、改めて昨日のエマの発言はなにかの間違いなんじゃないかと思う。
ちなみに昨日の遊園地の件は一切の他言をしないこととみんなで誓ったのでエマはこうして冗談を言ってきたのだ。
自分で他言無用とか言っといて登校しないうちにバレしまうとはなんて不甲斐なさだよ俺。
「あ、雫ちゃん昨日のことタクミから聞いてたりする? ごめんねー、タクミが事前に言ってるのかと思ってたよ私」
「いや、全然大丈夫、だよ……。」
おい嘘つけ! 俺に罪を丸投げするな! と声を大にして言いたかったが、俺は両手で口を抑え、またも言葉を飲み込んだ。二人には何こいつフガフガ言ってんの、的な目で見られたがまあいい。
ここで大声を出しては注目を浴びて昨日のことがバレる確率が高まってしまうだろう。そんなヘマはしないぜ。
「よー拓実! 昨日はなんつうか楽しかったぜ。また行こうな遊え――」
「やあ雄牙! そうだな、また遊泳しようなー」
雄牙に肘鉄をお見舞いし意識を遮断してやると、俺は誤魔化すように大声でそう言った。声で注目を浴びるのはもう仕方ない。「遊園地」という単語を出さなければなんとかなるはず。もうヘマはするまい。
俺は「遊園地」という単語が出ないよう、意識を集中させた。しかし、この作戦の欠陥を俺はものの数秒後に発見することになる。
「いやーおは……グッモーニン、タクミ。イエスタディのアミューズメントプァークは非常にエキサイティンだったね」
修があたまに来るほど横文字を交えて話し掛けてきたのだ。恐らく昨日洋画でも見たんだろう。とりあえず修にも手刀をプレゼントし眠ってもらうことにした。
「昨日は男三人で寂しくかったけど楽しかったよなーアハハッ!」
感情のこもっていない声で気を失っている修にそう返すと俺は周りの声に耳を傾けた。




